「フリーランス」に希望はあるか

「フリーランス」に希望はあるか

後藤陽司(ワーカーズコープ東海事業本部)

◎フリーランスは「自由な働き方」?
   「フリーランス」という働き方が広がっている。「フリーランス」は「自分の都合でいつでも休める。都合のいい時だけ働けばよい。」「仕事しただけ支払われる。」「稼ぎたいときは、どれだけ仕事を受けてもいい。」「自分で働き方が決められるので、自由だ。」—居酒屋で、長時間労働で未払のサービス残業や「休むならお前の代わりを探してこい」「休んだらバイト代から差っ引く」といった「ブラックバイト」に苦しめられていた大学生は言う。
 しかし、実態はどうだろうか。
 かく言う私も「フリーランス」である。前の個人加盟制地域労働組合が専従役員配置を停止してから、かれこれ7年、「雇用によらない働き方」をしている。現在では、在宅テレワーカーである。営業支援のコールセンターの仕事に従事させる企業(このような業界では唯一東証一部上場企業だそうだ。仮にA社としておく)と「業務委託契約」を締結している。パソコンの前に座って、パソコンの様々なアプリを開いて、パソコンに向かって会話しながら、パソコン上で完結する電話営業を行っている。A社が請け負った「クライアント」の企業B社、C社、D社などが取引を進めたいと考える、架電先リストに記載されている企業E社、F社、G社などに次々に架電して、商談日時などのアポイントなどを取得するという仕事である。確かに稼働時間のシフトは、週最低20時間以上という縛りはあるが、事実上ワーカーが「自由に」決められる。ワーカーは全員、業務上の連絡に必要なチャットに登録させられるが、そのチャット上では毎日のように体調不良や急用などで、当日のシフト変更を申請する連絡がやり取りされている。
 業務上は、まずその日のシフトの画面を開く。クライアント企業毎に仕事が「アサイン」と呼ばれて割り当てられるが、たいていは30分毎から1時間、2時間と細切れである。そのシフト画面の「アサイン」から、「クライアント」に対応する架電に際しての「ディレクション」という指示書を開いて、仕事目的や稼働時間、アポイント取得用のカレンダーや細かい留意事項などを確認する。クライアント企業の仕事目的ごとに架電の際の「台本」が用意されている。トークのマニュアルのようなものである。「台本」はA社の正社員が記述、編集している。架電に際してはこの「台本」に沿ってトークする。実際に架電していくときには、架電結果もパソコン画面に登録するが、その他も含めて疑問やわからないことは、「ディレクター」と呼ばれるA社の正社員にチャットで質問して、テレビ電話のような画面を通じて「指示」を受けて作業を進めていく。
 報酬は、時給制と出来高制に分かれているが、自分は時給制を選んでいる。時給は全国一律1000円である。これにアポイント取得した時などに多少のインセンティブが上乗せされる。1000円という水準は、現在の東京都や神奈川県の最低賃金を下回っている。ワーカーの中には東京都や神奈川県の人もいるが、自分が最低賃金未満で働いていることは知っているのだろうか、などいろいろ疑問がわく。本年愛知県の最低賃金もひとまず10月1日から986円に改定されるが、自分の報酬もいわゆる「最賃張り付き」になっている。今後最低賃金が上がったら、自分の報酬もそれを下回ることになる可能性が高い。あるいは、労働時間規制もなく、1日に9時間、10時間と稼働しても、時間外手当はまったく付かない。有給休暇もない。
 「業務委託契約」なので、最低賃金法や労働基準法、労働安全衛生法、労働組合法、労働契約法、賃金支払確保法、パートタイム有期雇用労働法、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児休業法といった労働法の保護適用対象にならず、雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金などの社会保険にも加入できない。A社は、クライアント企業へのPR動画で、公然と「ママワーカーなどの活用で人件費節約、大幅なコストカットができる」と売り込んでいる。我々ワーカーを安価な労働力として利用しているのである。
 A社は架電内容をすべて録音していて「監視」している。ワーカーの中から希望者が「品質向上委員会」なる部署に所属して、そのチェックを常時行っている。その人たちは、他のワーカ-の「不備」「ミス」を見つけると、インセンティブがもらえるので必死で取り組むそうである。巧妙な分断政策とも言える。細かいところまで「台本」通りにトークしないと、いちいち指摘される。時々、「ディレクター」の指示通りに、あるいは「台本」通りに架電、作業したのに、全く身に覚えのない「ミス」「不備」を指摘されて、何度かチャットで厳しく抗議したことがある。最近はなくなったが、この仕事を始めた当初は、「台本」通りにトークしていない(確かに「台本」を「自由に」改変して「自分流」にトークしていた)とか、またヘッドセットを着けてトークするのだが、そのマイクに「鼻息」が入るといった注意を「ディレクター」から「オンラインテレビ電話」で呼び出されて受けた。
 その時繰り返し言われたのが、「こうした事象が次回もあれば、契約を解除する」という脅しのような契約解除可能性の通告である。これを聞かされた時は「恐怖と絶望」で目の前が真っ暗になる感覚を覚えた。こうした通告が正当かどうか契約書を読み直して見たが、「業務の正常な遂行を妨げると判断された場合」や「クライアントからのクレームが複数回あり改善されない場合」といった文言が契約解除の理由として規定されていた。「事前通告」するだけマシかもしれないが、通常の労働者の解雇通知書のような「文書」による解除通知は契約書に記載されていない。―私たちワーカーは実態は、特定使用者(企業:A社)の指揮命令を受けて「労働者」として働く「雇用関係」にある、労働基準法上の「労働者」であることは間違いないと言える。しかし、企業(A社)は使用者としての責任を回避し、我々を労働法や社会保障法の保護・適用から排除する脱法行為によって、コストをカットして利益を最大化しようとしている。

◎拡大する「プラットフォーム労働」
 私のこうした働き方は、近年拡大している「プラットフォーム(PF)労働」の一種である。アプリ基盤のPF企業としては、Uberなどがある。「プラットフォーム(PF)労働」の特徴は、仕事を発注する顧客(client):企業であることがほとんどである、そしてサービスを提供する労務提供者(service provider):ワーカー、両者を仲介する企業であるPF (platform company)の3者が、インターネットを通じてオンライン・ウェブやスマートフォン・アプリを利用したプラットフォームでつながり、PFが中間的利益を得るという事業モデルにおける働き方である。具体的には、①極小業務(microtask)化=サービスを複数の独立した業務に分割、②外部の群衆(crowd)に外注化(outsourcing)、③需要発生の瞬間にオンデマンド(on d/mand)委託・雇用である。PFを介して、東京の発注者が北海道や沖縄のワーカーに仕事を依頼できる。場合によっては海外のワーカーに発注することも可能である。A社の場合も日本全国、さらには世界中にワーカーがいる。しかし、顧客(client)の需要があるときだけ労働が細切れ的に行われ、「ギグ・ワーク」と呼ばれる。低賃金、長時間労働、労災不適用、ハラスメントなど劣悪な労働環境が問題となっている。
 特にコロナ禍以降、ウーバーイーツのような料理配達の労働者が有名になった。Uberは、配達員と業務委託契約を結んで、雇用関係を回避している。PF(Uber)は顧客発注者(レストランなど)との間で、➀料理注文者からの注文受付と代金(料理代+配達料)受領の業務と、②配達サービスの業務を請け負う契約を結び、ワーカー(配達員)を使用して料理の配達を行っている。ワーカーはPFに登録して配達ボックスを受け取り、スマホにアプリをダウンロードするだけで仕事を開始できる。営業区域内でアプリをオンにすると配達の注文が入る。➀数十秒以内に注文に応答しなければ評価が下がる、②ワーカーは配達を依頼した飲食店で商品(料理)を受け取るまではキャンセルできる、③応答率やキャンセル率、飲食店や料理注文者からの評価などが一定基準を下回った場合、アプリのアカウントが永久停止され、仕事ができなくなる(「解雇」)と言われている。ワーカーの働きぶりの評価はAIが行っているようだが、その実態はブラックボックスの中である。またPFは飲食店から料理の金額に応じて手数料を得るが、配達員には、料理の金額で配達料金が変わるわけではないので、高額の料理を運ぶほどPFの利益は大きくなる。例えば、1万円の料理の配達の場合、飲食店から4000円くらいの手数料が PF に入り、配達員には500円払うだけであるという。「暴利」の収奪メカニズムである。
 そもそもワーカーは無権利状態である。ある配達員が、雨の日に原付バイクが転倒して打撲傷を負ったが、治療費は個人事業主扱いのため労災保険適用外の自己負担で、PFから逆に厳重注意され、再度あればアプリのアカウントの永久停止(「解雇」)だと告げられたという。雇用されていないため労災保険も解雇規制もないのである。2019年11月には、距離に応じて設定されている配達料金が一方的に切り下げられた。PFは、その具体的な理由を企業秘密として「一切答えられない」という。また2021年5月から、新料金体系が全国一斉導入され、以前と違い報酬の算出基準が完全にブラックボックス化された。仕事のリクエスト時に予定報酬額が表示されるものの、配達後に変わることもあり適正な報酬かどうかの確認すら出来ない状態となっている。

◎「雇用によらない働き方」の現在
 こうした自営業、個人事業主と呼ばれる、請負や業務委託の契約による「雇用によらない働き方」はコロナ禍以前より広まってきた。シルバー人材センター就労者、福祉的就労の障害者、病院で働く研修医・大学院生、新聞奨学生、NHK受信料集金員、アニメ・クリエイター、ホステス・ホスト、商品個配労働者、建設職人、家内労働者、さらに、スーパーホテル正・副支配人、俳優、音楽演奏者、ヨガスタジオ講師、クリーニング業取次業者、美容師・理容師、コンビニ・フランチャイズ・オーナー、インターネット通販出店、などである。そして個人請負の過労死・過労自殺事件が裁判にもなっていた。
 2020年からのコロナ禍は、営業自粛などによる休業手当未払、シフトカットによる収入減、雇止め・解雇に遭った非正規雇用労働者を中心に、副業や転職によってこうした「雇用類似」「偽装雇用」「名ばかり個人事業主」の働き方を選択せざるを得ない人々を増やした。タニタや電通などの企業が正社員を個人事業主に転換する事例も出てきた。PFであるランサーズの発表によれば、フリーランス人口は近年約1000万人とされていたが、コロナ禍の2021年には1670万人に急増している。
 しかし、「フリーランス」として従来から働いてきた人々にはさらなる苦難が直撃し、無権利を一挙に可視化した。休業による大幅な収入減に加えて、「労働者」としての保護がない、労働法や社会保障法が適用されないので、非正規には不十分ながら一応の対策がなされた休業手当や失業手当、傷病手当が保障されていないという理不尽さが明らかになった。2020年の2月~7月に、特にフリーランスのシングルマザーの95%が、コロナ禍による雇用や収入への打撃を受けたというアンケート結果もある。仕事がほぼゼロになったフリーのカメラマンの多くは廃業や転職をせざるを得なかった。感染危険の中で二輪車、四輪車を使って働くウーバーイーツやAmazonの配達員の無権利は、労働組合の結成につながった。Amazonの宅配員は、アプリのアルゴリズム(AIによる最適な手順)の指示によって常時監視されながら、1日に多数の商品を配達しなければならないのでトイレに行く時間もなく、車内にペットボトルを持参して排尿しているという。
 こうしたフリーランスの実態をさらに見てみる。連合が2016年に行ったアンケート調査によれば、クラウドワーキング専業の人の平均月収は7万3268円であり、月10万円にも満たない低賃金である(私は週5日の平日にできるだけシフトを入れて稼働すると約10万円前後である)。あるWebライターは、化粧品紹介の記事を1時間かけて1本書き、その報酬は手数料が引かれて87円だった。時給87円!その当時のパートの10分の1にしかならない。他にも1日13時間仕事して、30分しか昼休憩はない、また朝8時から12時間働き、年末年始休暇はない、2つのアルバイトを毎日15時間仕事し、1か月休めないこともある、という人々もいる。2020年2~3月の内閣府の調査では、フリーランスの仕事を本業として年収600万円以上の人は13%、300万円未満が51%、200万円未満でも32%であり、副業が無ければ生活できないフリーランスが3割以上もいる(私は、障害者年金と言う副収入と、あとはやはり「有償ボランティア」の副業をしている:後述)。
 伍賀一道氏によれば、「個人請負」・フリーランスは、数ある働き方の中で、最も失業の危険があり低賃金であり、なおかつ長時間労働と過密な労働などで拘束されている。
 さらにハラスメントも酷い。ある自治体の区史編纂に携わっている委託業務の人は、著作が勝手に他の媒体に転載されたり、改ざんされたりしたので(著作権侵害)、担当職員に抗議したところ、人格否定の酷い暴言や会議からの外しなどがされたという。またITフリーランスの人は、無視や自席の椅子を取られる、持参したパソコン周辺機器を複数回取られる、一方的な月額報酬の削減、周辺機器の件は「自作自演じゃないのか」と言われる、などの被害を受けたが、他の責任ある社員に相談しても全く取り合ってもらえなかったという。日本俳優連合の2019年のアンケート調査では、1218人中、レイプされた(同意のないセックスをさせられた) 53人(4.4%)、性的嗜好や性自認について話題にされた・からかわれた 96人(7.9%)、同意なく露出の高い衣服を着せられた 32人(2.5%)など深刻な結果である。

◎政府が進める「フリーランス」政策
 最近、日本政府が使う「フリーランス」という用語は、「労働者」か、独立した「自営業者(self-employed)」かの区別という、労働法にとって一丁目一番地の問題、解決したはずの問題を再びくり返すものである。狙いは、使用者責任の回避と、労働者の無権利化を正当化しようとするものである。「フリーランス(freelance)」という言葉の語源は、「Free(自由)」な「槍(Lance)」、つまり、中世の野武士、自由騎士を指す言葉である。自由騎士は報酬によって戦いに参加する傭兵として、特定の君主に従属したり拘束されなかった。それが転じて、自由契約、とくに(個人)請負や委託契約で働く、作家、写真家などの専門職に使われることになった。政府が使う「フリーランス」は、こうした自由な専門家が高額報酬を得て、好きなときに自由に働く人というイメージを抱かせようとする点できわめて欺瞞的である。欧米では、安易に「フリーランス」と言わない。むしろ「偽装自営業」「誤分類」として議論している。契約形式ではなく労働の実態に基づいて「労働者」として、本来の権利を主張、実現することが重要である。
 戦後の日本は、「労働者」を広く捉え、労働組合法や労働基準法などを適用して、多くの労働者の権利を認めた。個人請負形式の労働者も、裁判で労働者として保護された。しかし、1980年代以降の新自由主義政策による規制緩和で、パート、契約社員などの非正規雇用が広がり、労働者に対する使用者責任が不明確にされるなど、労働法・労働行政が大きく後退した。特に、1985年の労働者派遣法制定以降、下請・派遣労働が広がり、労災などの被害が非正規雇用に集中した。同年、政府は、内勤正社員をモデルとする狭い「労働者」概念を採用した。裁判所も、その影響を受けて消極的な判断に変わった。また、政府は、「家内労働法」や「シルバー人材センター」を制度化し、個人請負として「労働法適用のない働き方」を労働行政自身が拡大した。建設業の「一人親方」は、80年代頃から、独立性を弱め大手建設企業などに従属した働き方に変化したが、政府は、その実態に基づいた保護でなく、「労災保険特別加入制度」で真の保護を回避してきた。その中でも、アスベスト訴訟最高裁2021.5.17判決は、国の規制権限不行使を認め、労働安全衛生法57条は労働者に該当しない者も保護するとして、「一人親方」への補償・予防拡大へ画期的な道を開いた。
 しかし、政府・財界は、「フリーランス」という美名の下で「非雇用」拡大政策を変えていない。2016年に安倍政権が「働き方改革」の中心的な柱の1つとして、「雇用によらない働き方」を政策として推進した。厚生労働省の「働き方の未来2035」懇談会、経済産業省の「時間・場所・契約にとらわれない柔軟な働き方」、政府の日本経済再生本部の未来投資会議の2019年「雇用によらない働き方」。これらの会議にはリクルートやパソナ、PF業者が参加し、ビジネスチャンスを狙っている。
 2021年の「フリーランス・ガイドライン」や2022年の「フリーランス新法案」は、「個人請負」=独占禁止法での対応、労働法不適用という枠内での「保護措置」に限ろうとする欺瞞的な政策である。とくに、労災保険を拡張適用するのではなく、「特別加入」の拡大は、抜本的改善ではなく、本来の権利実現を回避するものである。欧州では、「誤分類」是正を基本に自営業者にも労災保険の適用を拡大する動きを進めており、中国も同様に、プラットフォーム労働者の保護を進めている。「特別加入」拡大は、世界の流れに反するだけでなく、アスベスト最高裁判決が示した抜本的解決方向にも反している。
 2018年以降の「関西生コン事件」も「非雇用」拡大の流れの中にある。産業別労働組合による団体交渉やストライキが刑事事件として弾圧され、多くの組合員が逮捕、起訴され、有罪判決を受けている。特に、団体交渉の際、日々雇用の運転手を個人事業主として読み替え、「労働者ではなく事業主なのに労働条件交渉をしたのは義務なきことの強要」として、強要未遂などで労組員が逮捕された。また、生コンの中継地でストへの協力を呼びかけた運転手の所属会社に関生支部員がいなかったことをもって、無関係な会社の運送を妨げた威力業務妨害として逮捕した。つまり、日々雇用の社員をフリーランス運転手とし、産別労組による産業全体の労働条件改善要求については、当該企業の労組員ではないという企業別労働組合の論理を当てはめて、労働基本権の保護から除外し、刑事罰化したのである。労働者概念の矮小化である。
 日本と違って世界は、約25年以上も前から大きく変化してきた。ILO、OECD、EUなどの国際機関が、新自由主義が生んだ弊害、とくに、労働分野での非正規雇用の弊害是正の方向へ大きく転換した。2006年、ILOは、雇用責任を逃れるために自営業を偽装した違法の広がりを是正する目的で「雇用関係」勧告を採択した。2010年代から「プラットフォーム労働」が広がる中で、この「2006年勧告」が注目を集め、世界各国で自営業偽装の是正が広がった。欧米諸国の最高裁判所が労働側勝訴の画期的判決を下した。仏、伊、西はプラットフォーム労働者関連の法律を制定し、昨年末、こうした動きを反映してEU委員会が「プラットフォーム労働指令」案を決定した。最近の各国の動きで注目されるのは、「雇用の推定」に基づいて使用者側に「立証責任」を転換していることである。世界は、日本の数周先を進んでいる。
 (以上、4段落のうち、関西生コンの項を除いた3段落は、労働法の脇田滋氏の講演「フリーランスの働き方といのちと健康」2022年9月23日の論旨による。)

◎資本主義におけるフリーランス—―「現代の本源的蓄積」?
 近代の資本主義的生産様式が成立する過程で、工業工場で働く労働者の周辺に、零細業者や個人請負が存在した。マルクスは『資本論』第1巻第13章「機械と大工業」第8節「大工業によるマニュファクチュア、手工業、及び家内労働の変革」で、分散した手工業的経営や家内経営が広範に存続していることを述べている。資本主義は常に他の生産様式などの「〈外部〉からの収奪なしには成り立たない。〈外部〉とは、市場の外部あるいは非資本主義的な領域(前近代的な共同体や独立の自営業が広範に存在している領域)を意味する。資本主義は、こうした〈外部〉を基本的には商品化を通じて包摂・統合するシステムとなる。」と白川真澄氏は述べている。
 レギュラシオン理論から見ると、独立的な職人など自営的な形態の労働者が広範に存在した19世紀の欧米の「外延的蓄積体制」から、テーラー的生産方式が導入された20世紀初期のアメリカを経て、20世紀後半の「高度成長期」の米日欧のフォーディズムと呼ばれる大量生産と大量消費を伴う「内包的蓄積体制」への転換。この段階で製造業を中心に工場などの事業所に雇用される労働者が増大し、自営業者や零細業者は減少した。後者が前者になった。だが、1970年代以降の「大危機」に直面して、資本主義は、言わば「新自由主義的蓄積体制」に転換した。この段階で「雇用されない働き方」としてのフリーランスが増大した。正社員など雇用労働者がリストラなどで産業予備軍になった。また政府や財界の労働規制緩和によって、派遣や請負などの非正規労働者が増大した。「雇用の流動化」である。内部留保が膨れ上がっていく資本の強蓄積を可能にする究極の非正規雇用・責任回避の脱法形態として、労働法などによって守られない個人請負・偽装自営業が生み出されたのだ。
 森岡孝二氏は、個人請負を「偽装雇用」と名付けて、労働規制緩和によって「自己責任・自助努力」を元に「働き方の個別化」と「個人の自律性重視」が、「雇用によらない働き方」の推進にまで行きついた、と述べている。高田好章氏は、非正規労働者や個人請負は、産業予備軍・相対的過剰人口の視点とともに、本源的蓄積論からも論じるべきとしている。世界システム論から見ると、資本主義的生産様式が支配的な中心=〈中枢〉諸国の内部において、非資本主義的な生産や社会関係(自営業、家内労働など)が主流をなす〈周辺〉のインフォーマルセクターを従属関係に置いて、労働力を安い価格で入手する(不等価交換)。その「現代の本源的蓄積」の極限的な形態がフリーランスになるということだ。Amazonに典型的にみられるように、自社のITプラットフォームで膨大な個人データを収集し利用して利益を上げている巨大IT企業(GAFA)を頂点とするデジタル情報資本主義によって、フリーランスは最も「収奪」されている、と白川真澄氏は述べている。

◎未来へ――真の「雇用によらない働き方」は可能か?
 立ち遅れた日本のフリーランスをめぐる運動の課題を、脇田滋氏は「①広い労働者概念に基づき「偽装」を取締まり、「誤分類」規制を徹底すること ②雇用上の地位に関連して、「雇用の推定」=立証責任転換を導入すること ③集団的権利を徹底して保障すること(労働組合の役割はきわめて大きい) ④AIによる監視・アルゴリズムを規制すること ⑤労働・社会保険加入拡大、社会保護の改善」とまとめている。
 これらを実現するには、韓国の労働組合とフリーランス労働者の長く困難なたたかいに学ぶべきであろう。韓国では、従来の企業別労働組合から産業別労働組合への転換を図り、フリーランスが自ら職種別ないし産業別労働組合を結成して、団体交渉、さらにはストライキを敢行して、個人請負形式であっても集団的労使関係を発展させてきた。そして大法院(最高裁)で、映画関係のフリーランスは勤労基準法(労働基準法)上の労働者であることを認めさせる判決を勝ちとった。日本の労働組合は世界でも特異な企業別労働組合であるが、産業別労働組合に転換して、企業内の正社員だけを組織するのではなく、産業、職種、地域、職場のすべての労働者を代表する組織にならなければならない。全労連は2022年の定期大会で「たたかう労働組合運動のバージョンアップ」を掲げた。ストライキを構えてでも賃上げ・労働条件などの前進を勝ちとる態勢を作る、その過程で要求の実現ととともに、長期低落傾向にある組織の反転拡大を実現するというものである。すべての労働者を代表する組織に再編・脱皮するためには、労働者類型として年功型の正社員だけではなく、非年功型の非正規労働者や周辺的な「名ばかり正社員」なども対象とすることが必要である。そこには究極の非正規と言えるフリーランスも当然に入らなければならない。
 既に、先に触れた日本俳優連合をはじめとして、日本音楽家ユニオン、出版ネッツ、近年ではウーバーイーツユニオンなど、フリーランス自身が組織した労働組合が様々に奮闘してきた。特に、2020年6月に、楽器大手ヤマハの子会社として全国で英語教室を展開する「ヤマハミュージックジャパン」が、「個人事業主」契約だった講師の女性らに雇用制度を導入する方針を組合側に提示したことが報じられた。社員と変わらない働き方をしながら、コロナ禍のもとでも休業補償が出ないことに講師らが気づき、ヤマハ英語講師ユニオンという労働組合を結成して粘り強い交渉の末、個人事業主契約を、雇用契約に切り替えさえた。「名ばかり個人事業主」を実態に合わせて「労働者」に転換させる運動が成功したのである。
 私は2022年6月に「フリーランスユニオン」に加入した。「フリーランスユニオン」は、同年5月に「ウーバーイーツユニオン」と音楽講師らによる「ヤマハ音楽講師ユニオン」、ヨガのインストラクターらの「ヨギーインストラクターユニオン」が中心になって結成された任意団体である。フリーランスの労働組合結成を目指し、権利保護のための政策提言、団体交渉の支援(ウーバーイーツユニオンなどは「雇用労働者」ではないからと言う理由でPFから団体交渉を拒否されている)なども行っていくという活動方針である。2022年9月末現在、ハラスメントの事案への対応、「フリーランス新法案」へのパブリックコメント提出に向けて、メンバー同士がオンラインで話し合いながら取り組んでいる。
 まずは、こうしたフリーランスの労働組合などと全労連などのナショナルセンターとの連携が必要である。
最後に、これまでその否定的な現状を述べてきた「雇用によらない働き方」であるが、未来社会へ向けた真の「雇用によらない働き方」について考える。私はワーカーズコープ東海事業本部の「若者外国人未来応援事業」(愛知県の委託事業)で学習支援の「有償ボランティア」もしている。やはり「雇われない働き方」である。ワーカーズコープは労働者協同同組合である。日本では2020年に成立した労働者協同組合法が2022年10月に施行され、労働者が自ら出資し、運営にかかわり、利益を分配する「協同労働」という新しい働き方が法的に実現可能になった。マルクスは『資本論』で述べている。「労働者たち自身の協同組合工場は、古い形態の内部において、古い形態の最初の突破口である。」「雇用によらない働き方」である「協同労働」、それに基づく「協同組合」としての労働者協同組合は、未来社会への過渡期の一つの道を示している。
 また、日本では本来は禁止されている労働者供給事業が労働組合には許容されており、派遣事業を行うことができる。フリーランスが共同でPFを設立して公平に仕事を請け負う事業が構想できる。資本の論理ではなく、労働者の論理の「協同労働」によって、連帯と互助に基づいて運営できる。ここに「雇用によらない働き方」であるフリーランスが、PFを「アソシエーション」として自主的に形成して資本に対抗する力を持ち、未来社会に通じる道を見出せる可能性がある。機械制大工業のフォーディズム型の資本主義からIT・デジタル情報産業のポスト・フォーディズム型の資本主義に転換する中で、労働者が主人公となる「雇用によらない働き方」の未来社会へのどのような道があるのか、これから探究し、実践していかなければならない。
「声に出し、仲間と考えれば、わからなくても助けてくれる人がいます。・・・将来を担う子どもたちのだれもが、理不尽な働き方を強いられないように・・・教育にかかわる私たちが諦めず、行動していきたいと思っています。」—まずは声を上げてつながること、ヤマハ英語講師ユニオンの清水ひとみ氏の言葉を紹介して、この稿を閉じることとする。

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