自公が過半数を取れず衆参で少数与党に転落、日本でも「日本人ファースト」の参政党が躍進、リベラルと左派は停滞を抜けられず
2025年7月22日 白川真澄
Ⅰ 参院選の結果
1 獲得議席、比例区得票
獲得議席 増減 比例区得票 得票率 22年 増減 24年総選挙
自民党 39 ▼13 1280.8 21.64% 1825.6 ▼544.8 1458.2
公明党 8 ▼6 521.0 8.80% 618.1 ▼97.0 596.4
維新の会 7 2 437.5 7.39% 784.5 ▼347.0 510.5
国民民主 17 13 762.0 12.88% 315.9 446.0 617.2
立憲民主 22 ±0 739.7 12.50% 677.1 62.5 1156.4
共産党 3 ▼4 286.4 4.84% 361.8 ▼75.3 336.2
れいわ 3 1 387.9 6.56% 231.9 156.0 380.5
社民党 1 ±0 121.7 2.06% 125.8 ▼4.0 93.4
参政党 14 13 742.5 12.55% 176.8 565.6 187.0
保守党 2 2 298.2 5.04% ― 114
みらい 1 1 151.7 2.56% ―
無所属 8
※投票率:58.51%、前回を6.5%上回った。投票者総数は5918.5万人で、前回より615.8万人も増えた。
※女性の当選者:42人、過去最多の35人(22年参院選)を上回った。当選者全体の34%を占め、前回の28%を超えた。
2 自民党の支持層が大量の離反/自公合わせて2500万票の安定した支配体制が崩壊
(1)自民党は13議席を失って39議席にとどまり、連立を組む公明党が6議席減の8議席になったため、自公は47議席と最低目標の50議席に届かず、参院でも少数与党(122、過半数124)に転落した。その結果、衆参両院で少数与党の状況が出現するという歴史的な変化が生じた。安倍政権の独裁的な支配に代表される政治的安定の時代(2013年~2020年、さらにその遺産の食い潰しで岸田政権の2024年10月まで延命)は完全に終焉し、不安定な多党化と連立・連合政治の時代に入った。
(2)自民党の退潮ぶりを表わすのは、比例区で前回より545万票を失い、1280万票の得票にとどまったことである。自民党は2010年代に衆参の比例区で、平均1800万票※を安定的に獲得してきた。公明党の平均718万票を合わせて、自公両党で2536万票を獲得し、安定した保守支配を実現してきた。また、21年総選挙でも自民1991万票、自公2702万票、22年参院選でも自民1825万票、自公2443万票と、保守支配は揺るがなかった。ところが、自民党は、24年総選挙では533万票減(21年より)の1458万票に激減し、さらに今回は545万票減(22年より)の1280万票にまで減らした。投票率が大幅に上昇したにもかかわらず、昨年総選挙と比べて177万票減らした。自公合わせても1802万票と2000万票に届かず、前回(22年)より642万票も減らし、昨年総選挙と比べても253万票減らした。
※2012年総選挙から2019年参院選までの6回の国政選挙で、平均1818万票。12年総選挙1662万票~16年参院選2011万票
(3)自民党を離反した545万票は、どの政党の支持に回ったのか。24年総選挙での533万票の離反は、投票率の低下および自民党支持者の投票率の低下(21年の77.3%から69.7%への低下)が示すように、自民党支持者が大量に棄権したことが大きな要因であった。今回は、自民党支持層のうち自民党に投票した人が比例区では前回の77%から71%に減ったこと(朝日の出口調査)、1人区では前回の81%から76%に5%も減少したこと(同上)、また投票率が大きく上昇したことが示すように、自民党支持者は自民党以外の政党への投票に動いたと推測される。
*自民党の減少分545万票は、参政党の増加分565万票が対応している。ただし、離反した自民党支持者がそっくり参政党支持に回ったと見ることはできない。1人区では自民党支持層の5%が参政党に投票(前回は2%)したが、保守党約300万票(298票)は、安倍政治を支持していた保守右翼の支持者が自民党を離れて流れたと推測できるからである。
*したがって、自民党内の安倍的な保守右翼265万票が参政党の支持に回ったと推測してもよいだろう(参政党を支持した人びとの多様性は後述)。自公が一元的に代表してきた保守勢力は、自民・公明・保守・参政に代表されることになった。4党を合わせると2575~2840万票を得ていることになり、保守勢力の支持層はけっして縮小していないと言える。とはいえ、保守支持層が自公への支持に回帰することは起こりえず、保守勢力は多元化していくだろう。
3 ポピュリズム、とくに「日本人ファースト」の参政党の躍進
(1)今回の参院選を特徴づける最大の要因は、ポピュリズムの傾向と政治勢力が一挙に浮上したことである。とくに外国人排斥を高らかに宣言する「日本人ファースト」の排外主義の政党・参政党が躍進したことである。
*ポピュリズムの傾向と流れが勢いを増したことは、すべての野党が減税ポピュリズムに走ったことに見られる。国民民主党の所得税減税(「手取りを増やす」)やれいわ・共産党の消費税減税・廃止の主張は、立憲民主党まで巻き込む「消費税減税」の大合唱となった。
(2)国民民主は13議席を増やして17議席を獲得、比例区でも446万票増やして762万票を獲得し、野党では立憲を抜いて僅差ではあるが第1位になった。昨年秋の総選挙での617万票の獲得の勢いを持続させた。
*国民は、「手取りを増やす」を掲げて、若い世代や現役世代に的を絞った働きかけをSNSを駆使して行ったが、これが功を奏した。比例区では18~19歳の25%、20歳代では26%の支持を獲得しトップに立った。30歳代でも18%(トップは参政の22%)、40歳代でも14%(参政18%、自民15%)の支持を得て、立憲を圧倒した(朝日の出口調査)。また、無党派層の比例区での投票の13%を獲得し、参政と自民の12%、立憲の11%を僅かだが上回った。自公を批判し立憲支持に回るはずの票が国民に流れた可能性が大きいと推測される。
*国民は昨年の総選挙で、「年収103万円の壁」の引き上げによる所得税減税で「手取りを増やす」というシンプルな政策を打ち出して、若い世代や現役世代の共鳴を呼んで躍進した。今回も減税ポピュリズム(「今だけ、金だけ、自分だけ」の発想)が広がっている状況下で、所得税減税によって個人の「手取りを増やす」という訴えは、引き続き支持を得たと思われる。
(3)参政党は1議席から13議席を増やして14議席を獲得し、比例区でも565万票増やし742万票を獲得し、立憲を僅かだが抜いて野党で第2位に躍進した。昨秋の総選挙での187万票から見ると、驚くべき伸長ぶりである。
*参政党は、公然と排外主義の主張を掲げて登場し支持を拡大した/「日本人ファースト参政党 1 日本人を豊かにする/行き過ぎた外国人受け入れに反対 2 日本人を守り抜く/米の確保と食の安全:食料自給率100%、食品表示法の改善、オーガニック給食を推進する 3 日本人を育む」(選挙公報)
*外国人排斥・規制強化の政策を具体的に明記している/「実質的な移民政策である特定技能制度の見直しを行い、外国人の受け入れ数に制限をかける。外国からの影響を制限するため、帰化および永住権の要件の厳格化を行う。外国人による重要な土地・森林・水源地・離島などの買収を止める」。「外国人への生活保護支給を停止。帰化要件の厳格化(日本への忠誠)、永住権取得要件の厳格化」。「外国人参政権を認めることを禁じ、帰化一世の被選挙権を認めない」(「参政党の政策2025」)
*その「新日本憲法(構想案)」は、「日本は、天皇のしらす君民一体の国家である」(第一条)、「皇位は、三種の神器をもって、男系男子の皇嗣が継承する」(第二条)、「天皇は元首として国を代表し」と、おそろしく復古的な天皇中心の国家像を打ち出している。また、「国民の要件は、父または母が日本人であり、日本語を母国語とし、日本を大切にする心を有することを基準とし」(第五条)、外国人との共生を否定している。憲法の核心である個人の尊重や基本的人権の尊重の規定が抜けており、「権理には義務が伴い、自由には責任が伴う。権理および自由は濫用してはならない」としている。
*ただし「外国の軍隊は、国内に常駐させてはならない」、「外国の軍隊の基地、軍事及び警察施設は、国内に設置してはならない」と規定している。現行の安保条約や地位協定と矛盾する姿勢を示している。
(4)日本人ファーストの参政党の躍進は、日本の政治にとって歴史的な変化を意味する。すなわち、世界を席巻している排外主義的ポピュリズムの大きな波がついに日本にも上陸・登場したのである。
*「『自国民ファースト』といった反グローバル化の世界的な潮流が日本にも到達した」(日経25年7月22日)。
*ドイツのAfD、フランスのRN、オーストリアの自由党の「3党と参政党との共通点は多い。いずれも経済低迷で社会の閉塞感が強まるなか、既成政党やエリート官僚などの体制側が一般市民の利益を無視した政策を続けていると非難し、支持を広げた」、「移民や外国人の流入で高まる市民の不安に訴える戦略や、SNSや街頭演説で有権者に自らの主張を直接届けようとする点でも酷似している」(同上)
*神谷代表自身が、親近感をもつ海外の政党として米国共和党の保守派、ドイツのAfD、フランスのRNを挙げた(7月3日の外国特派員協会での記者会見)。排外主義的ポピュリズムの世界的な潮流の一翼に位置することを明言している。
*海外メディアも、参政党の躍進を「日本の右傾化」の表われと警戒している。NYタイムズ紙は、「有権者の右傾化で長期支配政党が敗北」と報じ、参政党が「強烈な国家主義的メッセージを掲げ、若い有権者を引き付けた」、「世界で最も安定した民主主義国の一つとされてきた日本で地殻変動的な変化の兆候となる可能性がある」と指摘している(同上)。フランスのルモンドは、「有権者のポピュリズムを煽動したとも言える極右新党の参政党が排外主義的な政策を掲げ、歴史的な得票率を達成した」と報じた(同上)。
*もちろん参政党は躍進したとはいえ14議席にすぎず、ヨーロッパの極右政党が政権入りの可能性や実力を持っているのとは大きな違いがある。とはいえ、立憲や国民と肩を並べる議席増と比例区得票を実現したことは、衝撃を与えている。
(5)それでは、どのようの人びとが参政党を支持したのだろうか。出口調査(朝日7月20日)のデータで見てみる。
*参政党は、朝日の出口調査では、10歳代~30歳代の若い世代で、国民と並んで最も高い支持を獲得している。すなわち18~19歳の23%(国民は25%)、20歳代の22%(国民は26%)、30歳代の22%(国民は18%)から支持されている。逆に、自民党は10~11%の支持しか得られなかった。安倍政権時代(その後の岸田政権まで含めて)に若い世代の高い支持を獲得していた状況が一変した(2021年総選挙でも、自民党は18~19歳の36.3%、20歳代の36.7%、30歳代の38.2%の支持を獲得、立憲は10~30代ではいずれも20%を下回った)。
*参政党はまた、40歳代でも18%(自民が15%、国民が14%)、50歳代でも15%(自民18%、国民11%)の支持を獲得している。自民や立憲よりも支持が目立って下がるのは60歳代以降である。
*無党派層については、参政党は1人区では22%の支持を獲得し、自民支持の20%、立憲支持の22%と肩を並べた(国民支持は9%)。前回(22年)の自民33%、立憲22%、参政9%の構図からは、参政が自民の支持を侵食している。
*参政党は、比例区では無党派層の12%の支持を獲得し、自民の12%、立憲の11%、国民の13%と肩を並べた。前回(22年、読売出口調査)は、自民が無党派層の23%を、維新が16%を、立憲が15%、国民が10%の支持を獲得し、参政は? であった。
(6)参政党を支持した人びとは、一色ではなく多種多様で多元的である。
①強固な右翼保守の支持者/「日本人ファースト」に共鳴して、自民党を離反し参政党支持にまわった。ただし、「日本人ファースト」に共鳴した人が、すべて強固な排外主義の持ち主であるとはけっして言えない。
*「参政党の掲げた『日本人ファースト』という考え方を評価しますか」という問いに、参政党の議席増を「よかった」と答えた人の72%が「評価する」と答えている(朝日世論調査7月26~27日)。「日本人ファースト」が参政党支持のキイワードになったことは間違いない。
*「日本人ファースト」という考え方について、48%が「評価する」(「評価しない」は41%)と答えているが、18~29歳では「評価する」が71%(「評価しない」が27%)と多数を占める(同上)。若い世代のなかで「日本人ファースト」は高い評価を受けているが、これは逆に言うと「何となく共鳴する」といったソフトな支持が多いからであろう。言いかえると、②や③の人びとが多いと推測される。
*「日本人ファースト」が注目を集めた要因の1つは、外国人規制を選挙の争点にするSNSの情報操作が急増したことである/配信支援のエビリーの「カムイトラッカー」で「外国人規制」に絡むYoutube政治動画の視聴回数は、公示後1週間で4割増え3700万回に達した(日経7月15日)。
②初めて投票に出かけたソフトな支持者/初めて政治に関心をもって投票所に赴き、参政党に投票した人びとで、若い世代を中心に投票率を6.5%も押し上げることになった。
*18~19歳の投票率は41.74%と、前回(22年)よりも6.32㌽も上昇した(日経7月25日)
*食の自給やオーガニック給食といった真っ当な政策に共鳴した人びとも少なくないだろう。
③生活に強い不安や閉塞感を抱いていて、立憲や維新や左派にも不信を感じている人びと。自分たちは「置き去りにされている」という不満を抱いている。
*参政党および国民民主の「手取りを増やす」に、不安の解消を託した。例えば、就職氷河期世代の男性たち。
*「置き去りにされた」と感じている人びとにとって、手を差しのべてくれなかった既成政党とは違って、新しくデビューした参政党に自分たちの不安に寄り添い不安を解消してくれるかもしれないという期待を抱いた。
(7)参政党への支持は一過性のことに終わるのか、それとも持続するのか
*ソフトなものを含めて「日本人ファースト」への共感が広く存在していることからすれば、参政党への支持がそれなりに長続きする可能性はある。ただし、比例区で740万票という支持を持続できるか否か、まして1000万票を越えて野党第1党に躍り出ることができるか否かは、不確定である。
*参政党の強みは、全国に組織網を張り巡らしていることにある。支部数は、地方議員は150名を保持している。地方選挙でも、23年は35戦22勝13敗、24年は23戦19勝4敗、25年は27戦23勝4敗(尼崎市議選でトップ当選)と異例の強さを発揮している(地方議員の数は、国民民主が295人、れいわが56人)。
*ユーチューブでのライブ配信の活動と広範な地方組織網を結びつけて活動するため、人びとの支持をつなぎ止め維持していく可能性がある。
4 ネオ・リベ改革派は、国民と維新で対称的な結果に
(1)ネオ・リベ改革派に純化しつつある国民は、減税ポピュリズムの波に乗って議席・得票ともに躍進した。議席は13増で17になり、比例区得票は前回(22年)から446万票伸ばして762万票と、立憲を僅かだが追い抜いた。
(2)対称的に、ネオ・リベ本家の維新は、議席こそ2議席増の7であった(大阪選挙区での2議席死守に成功)が、比例区得票は437万票と前回(22年)から347万票も失った。昨年の総選挙でも失速していたが、支持を回復することができなかった。
*維新は、「社会保険料を下げる」と同時に「医療費を大幅に削る(効率化)」というむき出しのネオ・リベ改革の政策を打ち出したが、共感を呼ぶことができなかった。税と社会保障をめぐる議論の重要な争点の1つを提起したとも言えるが、「減税か現金給付か」が争点化されるなかでは、社会保険料引き下げで「年6万円の手取りを上げる」という話になってしまった。
*維新は、比例の得票が大きく浮き沈むことを繰り返してきた/2014年総選挙:838万票 → 17年総選挙:338万票 → 21年総選挙:805万票 → 22年参院選:784万票 → 24年総選挙:510万票。
*したがって、次の国政選挙で勢いを取り戻す可能性がないとは言えない。しかし、10年かけても全国政党化に成功しなかったこと、ネオ・リベ改革の魅力が乏しくなっていることから、維新はすでに「既成政党化してしまった」と見られている。
(3)ネオ・リベ改革派は、国民と維新を合わせると比例得票で1199.5万票を得ている。両者は合わせると、24年総選挙では1127.7万票、22年参院選では1100.4万票、21年総選挙では1064万票と、平均1100万票を獲得している。ネオ・リベ改革派は、1100万票の支持を安定的に得ていると言える。
5 リベラルと左翼は守勢と停滞を脱することができなかった
(1)立憲は、選挙区で自民党に競り勝って獲得議席こそ現状を維持したが、比例区では得票を伸ばすことに失敗した。
*前回(22年)より62.5万票ふやしたとはいえ、昨秋の総選挙での比例票1156万票から416万票も減らした。その結果、比例票では僅差とはいえ国民・参政の後塵を拝することになった。
*立憲は、減税ポピュリズムの尻馬に乗って「食料品の消費税の一時的な減税」を主要な対抗軸に立てた。だが、消費税減税はすでに多くの野党が主張していたから、その主張を差異化することができず野党の「減税」大合唱のなかに埋没してしまった。すなわち、「食料品を中心にした消費税減税か、一時的な現金給付か」という矮小化された論争にはまり込んでしまった。言いかえると、人口減少・労働力不足の時代に対応する税と社会保障サービスのあり方を積極的に打ち出さなかった(これは、れいわも共産党も同じ)。
*「消費税減税」を前面に掲げたことによって、「給付付き税額控除」という独自性と説得力のある提案を後景に退けることになった。給付付き税額控除は、低所得層への恒常的な給付による格差の是正や消費税の逆進性の解消に役立つ措置であり、消費税の減税・廃止や一時的な給付といった政策を超えるカギとなる。ところが、立憲は、この政策を真正面から押し出して政権と対決するチャンスやたたかいをあっさり回避した。
(2)れいわは、前回(22年)から156万票を増やして健闘した。ただし、ポピュリズムが勢いを増すなかで、左翼ポピュリズムの党としては期待されたほど支持を伸ばせなかった。
*「消費税廃止」の一貫した主張は、消費税を頭から否定する少なからぬ人びとの支持を引き付けた。とはいえ、「消費税廃止によって個人消費を活性化させて景気を回復させ経済成長を促す」、「失われた30年を取り戻す」(選挙公報)といった主張は、それほど魅力を発揮しなくなっているのではないか。もはや経済成長ができない(あるいは0%台の成長しかできない)と思う人びとが増えているなかで、ズブズブの経済成長主義を唱えることへの違和感が生じるからだろう。
*外国人規制が争点化されるなかで、れいわは、外国人労働者の流入は賃金全体を引き下げるといった誤った見方を流布したり、「移民政策を推進しているのではない」といった時代錯誤の主張に走った。これは、本格的な移民社会に移りつつある現実を無視した主張であり、れいわに対する不信を招くことになった。
(3)共産党は、目を覆いたくなるような惨敗を喫した。4議席を失い、比例票はついに300万票を割った。
*比例票は286万票にとどまり、前回(22年)から75万票、昨秋の総選挙からは50万票減らした。650万票を目標に掲げていたなかで、死守されるべき最低ラインとしての300万票に届かなかった敗北は、大きい。
*党員数の減少(26万人 ← 2010年は40万人)、「しんぶん赤旗」読者数の落ち込み(85万人 ← 2010年は145万人)など、公明と同じく組織政党としての強みである強固な組織力が高齢化によって衰弱していることも大きな要因である。
*それ以上に、自公政権との対決軸を「消費税減税」に矮小化してしまったことが大きな失敗である。大企業と富裕層への課税強化、公正な増税による社会保障サービスの拡充を明確に押しだすことに躊躇した。組織力の衰退に見合うかのように、将来社会の構想についてもラディカルさや骨太さが乏しくなっている。
*共産党の衰退は、いくつかの手直しではもはや食い止められず、根本的な総括と建て直しが求められている。
(4)共産・れいわ・社民の左翼は、合わせて3議席減の7議席、比例票が前回から76万票増の796万票であった。立憲の比例票を合わせると、リベラル・左翼で1535.7万票であった。
*昨年の総選挙での左翼3党810.1万票とは変わらなかったが、リベラル・左翼の1966.5万票からは立憲の後退によって430.8万票も縮小している。ただし、前回(22年)の参院選では、左翼3党719万票、リベラル・左翼で1396.6万票であった。21年総選挙では、左翼3党で738万票、リベラル・左翼で1887万票、17年総選挙では共産・社民2党で534万票、リベラル・左翼で1642万票であった
*共産・れいわ・社民の左翼3党で700万~800万票、立憲を加えたリベラル・左翼は、立憲の得票に左右されるが1500万~1900万票を獲得している。
*リベラル・左翼が人びとの大きな支持を獲得して「保守」派や「ネオ・リベ改革」派に対抗する勢力として伸長する可能性は、現状では小さいと言わねばならない。人びとの共感と支持を増やす可能性が最も高いのは、ポピュリズム政党のれいわであるが、その限界も今回の参院選で明らかになった。山本太郎の「個人商店」的組織、破産したMMTへの固執、「移民」問題の誤ったスタンス、極端なセクト主義など改善すべき課題が多すぎる。
*注目すべき動きは、「チームみらい」が躍進し、議席を獲得したことである。結成わずか2か月で151万票、2.56%を獲得して1議席を得たことは驚きである。「政治の問題をテクノロジーで解決する」という主張が、これからどのような反応や共鳴を呼ぶのか、注視したい。
(5)政治勢力の力関係はほとんど変化していない。
*近年の政治勢力の力関係は、「保守」2500~2800万票:「ネオ・リベ改革」1100万票:「リベラル・左翼」:1500~1900万票で推移している。
*小熊英二は、「保守」3割、「リベラル」2割、「中道(無党派)」5割という分析をしている(「『3:2:5』の構図」、『世界』18年1月号)。これを生かして、私は21年総選挙の比例得票を素材にして、「保守」3割弱(2500万票)、「ネオ・リベ改革」1割強(1300万票)、「リベラル・左翼」2割弱(1600万票)、「棄権」4割の力関係になっていると分析した(「21年総選挙――野党は、なぜ敗北したのか」)。
*多党化が進んだにもかかわらず、この政治勢力の力関係の構図は、ほとんど変化していない。
Ⅱ 多党化状況の政治
1 多党化時代の政治
(1)連立・連合政治の複数のシナリオ
*衆院に続いて参院でも自公が少数与党に転落したことによって、多党化時代の連立・連合政治が到来した。石破政権そのものが継続するのか否かさえ見通せないが、連立・連合政治の形態には複数のシナリオが考えられる。
*1つは、自公が維新あるいは国民と組んで連立政権が登場するケースである。もう1つは、自公が政策ごとに野党と協議・合意して政権を運営し政策を実行するケースである(昨秋の総選挙後の政権運営)。また、野党が協議・合意して一致した政策を自公政権に押しつけて実行させるケースである(ガソリン暫定税率の廃止)。
*さらに、自民党内の一部で言われている自公が下野して、解散・総選挙を行なうケースである。しかし、多数を得る政党が出現しない可能性が高く、連立政権をめぐる多党間の取り引きや交渉が長く続くケースである。
(2)政権の形態や政策をめぐる政党間の交渉や取引は活発化するが、日本社会の進路に関わる重要な事柄や政策の決定は先送りされる可能性が高くなるだろう。政治は活性化・流動化するが、真の意味での政治は失われる。
*トランプの関税政策への対応と産業構造(自動車の対米輸出に依存する経済成長)の転換、人口減少社会における税と社会保障サービスのあり方(例えば年金の財源拡充のための増税)、日米同盟=日米安保の見直しと対中戦略の転換(軍縮と対話へ)といったテーマは、棚上げされ「決められない」状況に陥る。
2 何が求められているか
(1)自公政権の安定した支配が崩壊するという政治的好機の到来にもかかわらず、このままではリベラル・左翼の勢力が勢いを取り戻し、政治を変えるゲームチェンジャーとなる可能性はほとんど期待できない。
(2)焦らず絶望せず長期的な視点に立って、政治主体と政治勢力の根本的な再生に取り組む必要がある。
*資本主義を超える展望をもつラディカルな主体/グリーン・レフトを育てていくことが基本となる。明確で具体的な資本主義批判の視点をそなえ、国際的なつながりのなかで、実践的にはコモンズの現代的再生とミニュシパリズムに取り組む主体を育て大きくしていく。
*この過程を基礎にして、リベラル・左翼の政治勢力の再生や活性化を促すように働きかける。リベラル・左翼が経済成長主義の神話への呪縛から脱するように批判と対話を強化する。そして、人口減少・労働力不足の社会の到来に対応して、ケア・食の自給・再エネに資金と労働力を投入する、公正な大増税によって社会保障・公共サービスを拡充するという路線に転換するように粘り強く働きかける。
(2025年8月1日記)
補論:「不安社会」と「日本人ファースト」ポピュリズム
1 トランプ現象に見られるように、「米国ファースト」の差別・排外主義の根っ子には、まちがいなく巨大な格差拡大とそれへの絶望感がある。努力しても乗り越えられない格差の壁が立ちはだかり、苦しくなる生活に不安を感じ、‟取り残された”感に囚われる。その絶望感や不安感が、移民を標的にした差別・排外主義のポピュリズムを生産している。
2 日本でも、米国ほどではないが格差は拡大し続けている。
(1)上位1%が所得全体の約7~8%を占める(2016年、『通商白書』2020)。また、3%の富裕層(1億円以上の金融資産保有者、165.3万世帯)が金融資産全体の26%を独占している。また低所得層の割合が20年前に比べて顕著に増加している。
(2)人びとは格差が拡大し深刻だと感じている。読売の世論調査(22年1月25Ⅱ~2月28日)では、「格差が深刻である」と答えた人は88%に上る。若者のなかでも「日常生活の中で経済的な格差を感じることはあるか」という問いに、「はい」が57.6%、「いいえ」が42.4%であった(「18歳意識調査「第23回――格差社会」2020年3月30日 日本財団」)。
(3)生活が苦しくなり、希望を持てない人が増えている。1年前と比べて暮らし向きに「ゆとりがなくなってきた」と感じる人が61.0%と5.1㌽も上昇し、16年ぶりに6割を超えた(日銀の「生活意識に関するアンケート調査」25年6月)。4年前(21年9月)には、「ゆとりがなくなってきた」は36.3%であったから、生活が苦しくなっているという実感がいちじるしく増えている。その原因はほとんどの人が物価高にあると考えていて、5年後も物価が上がると予想する人は83.1%に上る。したがって、多くの人びとは、生活に「ゆとりがなくなって」いる状態がこれからも続くと予想している。
3 努力しても格差は乗り越えられないという諦めや絶望感に陥り、将来への希望が持てず、不安感が広がっている。
*「格差は今後どうなると思うか」という問いに、61.6%が「さらに拡大する」と答えたのに対して、「縮小する」と答えたのはわずか4.4%であった。また「格差は是正できると思うか」という問いに、「思わない」が37.1%と、「思う」の23.7%を上回っている(前掲、「18歳意識調査」)。
*日本は深刻な「格差社会」だが是正することが難しく、生活に希望が持てず不安感が広がる「不安社会」である、と多くの人びとが見たり感じたりしている。
4 こうした「不安社会」のなかから生まれてくるのが、「外国人」を標的にして敵対心を募らせる排外主義である。
*「不安社会」が生み出す1つは、多くの人が他者とのつながりを持てず孤立感や無力感に沈みこむことである(例えば孤独死の増大)。もう1つは、「自分とは違う」異質な存在を恣意的に取り出して、自分の生活の苦しさの原因と思い込む。
*「自分とは違う」存在は何でもよい、つまり「違う」というだけでよいのだが、インバウンドの急増や外国人労働者の増大によって外国人や移民が格好の対象として選ばれる。外国人が生活保護受給で優遇されているから、自分たちが十分な福祉サービスを受けられないといった思い込み(デマ情報)に
*参政党は、人びとのこうした気分や思い込みを言語化し(「日本人ファースト」を掲げ外国人規制を主張)すくい上げることに成功して、大きく伸長した。
*差別・排外主義を生み出す土壌が「不安社会」にあるとすれば、「日本人ファースト」を掲げる右翼排外主義の政治勢力の登場は、一過性に終わらない。少なからぬ支持を持続する可能性が高い。
※なお、日本で暮らす外国人は376万人(24年末)で、人口比は3.04%であり、ドイツの14.9%、米国の14.5%、フランスの8.2%などに比べるとずっと小さい。規制の是非を争点化するのは、邪悪な意図からでしかない。
※※日本で働く外国人労働者は230万人(24年)で、この10年近くで2.6倍に増えた。労働力不足が深刻になる2040年には632万人に増え、労働力人口の10.7%を占める。彼ら/彼女らの労働なしに、介護・建設・農業などの産業は成り立たない。