安東量子の福島季評 (『朝日新聞』2025/12/4)を読んで

安東量子の福島季評 (『朝日新聞』2025/12/4)を読んで

『福島ダイアログ』/安東量子の推奨するCLIとは何か? コリン・コバヤシ

 安東量子の福島季評を読んで、私は、彼女以上に怒っている。なぜならこの人は、あたかも日本社会の学習と進歩のなさを嘆きながら、本人が理事長として居座っている『福島ダイアログ』は、日本とフランスの原子力ムラに財政的にも支援されて機能しているとんでもない組織だからだ。結局、原子力ロビーというとてつもない権力の玉の輿に乗って、権力に忖度しながら、モチつモたれる関係に甘んじている人だ。こんな人が日本社会は進歩がないなどと批判できる立場なのか?

 フランスの原子力ロビーの要CEPNの前ディレクター、ジャック・ロシャールや御用学者丹羽太貫と懇意になって、原子力ムラの戦略に手を貸しているだけだろう。彼らのおかげで、彼女は国際原子力ロビーの開催するさまざまなシンポジウムに参加して、満足しているようだし、ICRPのタスク・グループ129の委員に推奨されて、正式メンバーになっている。彼女に手法を教えたジャック・ロシャールのエートス・チームは、ベラルーシはミンスクにあるベルラド研究所が1989年の創設時からずっと行ってきた測定とペクチン・テラピーの活動の、測定の部分だけを行って、ペクチン療法は採用せず、あたかも住民に寄り添った活動をしているように見せかけている。ペクチン療法を認めるということは、内部被曝を認めることにほかならない。しかし、推進派=原子力ロビーはそれを認めたくないのだ。

 そもそもエートス・プロジェクトは、ワシーリ・ネステレンコとベルラド研究所が、当時騙されて、積極的に参加してくれたおかげなのである。それがロシャールの肝入りで作ったトンデモ映画に現れている。この映画は、2019年、ロシャールがわざわざ福島にやってきて、福島ダイアログの22回目のセミナーで上映した映画だ。

 この映画に主人公のように出てくるのがロシャールで、安東量子もむろん出演している。

以下がそのリンクだ。
https://youtu.be/wgaQN-ewoKo?si=6vYRzwavfIlkdEN4

 この映画にはベルラド研究所に勤務して測定を行ってきた女性たちの証言が含まれているが、彼女たちの証言は、ベルラドの活動と切っても切れないもので、しかもこの映画では彼女たちの証言を、自分の都合のいいところだけを切り取って構成している。あれだけ世話になっておきながら、ベルラド研究所の活動は一切紹介しないのだ。ベルラドのべの字も出てこない。所長のアレクセイ・ネステレンコに言わせると、まさに国際原子力ロビーの見事なプロパガンダ映画だということになる。

 安東量子は、ことあるごとに取り上げる<未続での経験>をあたかも市民が行った独自の素晴らしい成果のように発表しているが、ベルラドの最もベーシックな活動のコピーにすぎない。

 さて、彼女の朝日に掲載されている福島季評の肝心な部分、『仏で見た地域の未来動かす希望』のCLIについて。

 まずCLIについての基本的な情報を示そう。

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 CLI (Commission locale d’information)情報地域委員会は、環境保護のために指定させた施設の周辺には、CLI の設置が、1981年ピエール・モーロワ首相の通達で義務付けられており、現在、53のCLIが設置されていて、そのうち、38の委員会が、原発・核施設関連の委員会だ。委員会は、県議会議長の判断で、設置が決められ、議長によって、委員の任命がおこなわれている。

 原発・核施設周辺に設けられているCLIは、2008年のデクレ(フランスの法令の一つ)によって、原子力に関する情報の透明性と原子力のセキュリティに関する信頼できる情報へのアクセスが保障されている。

 メンバーは、市議会、地域評議会の代表者、当該県で選出された国会議員、NGO, 環境保護団体、経済団体、組合の代表者、医療専門職の代表者で構成される。

 元は、1977年、フェッセンハイム原発の建設が始まった時、建設に反対する市民運動が高まったため、情報地域委員会が初めて生まれた。これは工事の成り行きを監視するための委員会だった。

 2000年に、情報地域委員会の効率化と情報交換の活性化を図るために、ASN(原子力安全局)の助力により、全国委員会(ANCLI)ができた。

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 以上が建前だが、現実はほど遠い。事故が起こった場合、原発のオペレーターである仏電力は、すぐCLIに通報しないことがしばしばだ。また現地の小さな町の町長・市長は、しばしばアレバ(現在、オラノ)や仏電力に勤務していた者が退職して立候補し、選出されて委員になっているケースが多い。するとCLI自身は、おおよそ推進派と親密性が高い。とりわけ、シェルブールや大きな核施設マルクールのあるそばの町、バニョル=シュル=セーズは推進派で占める代表的なCLIだ。

 フランスは、過去の歴史から見ても、官民一体となって管理すればうまくいく、というフランス人一般の期待する考え/幻想のもとに、CLIが機能している。しかし、官民一緒に情報を共有しているからといって原発の運転に問題がないわけではない。また保守の強い原子力大国フランスでは、県議会の議長は、マジョリティが保守派であり、推進派だ。推進派の議長が指名する委員は、当然、大半が推進派だ。環境保護団体のメンバー、例えば、シェルブールのCLIには、グリーンピースのメンバーが委員になってもいるが、いないよりはマシ程度な気持ちで参加しているのであって、必ずしも有益な情報が出てくるわけではない。というのも、ラアーグ再処理工場からプルトニウム、その他の放射性核種が漏れ出しているのを知らせたのは、アレバ/オラノでもCLIでもなく、監視測定をする市民団体アクロだった。MOX燃料輸送船が日本に出発する時も、保安上の問題で、細かい情報が出されない。情報の透明性とは、謳い文句ばかりで、保証されているとは言えない。

 5−6年前に、フランスの招きで、東電の当時の専務がシェルブールに来た。CLIを視察するためだ。仏原子力ムラは、盛んにCLIを日本にも設置しなさいと推薦していたからだ。

 CLI全国委員会は、福島事故が起きてから、何度か、福島に視察団を送っているが、表面上、反対派の人たちとも会いたいと言いながら、福島で本当に原発に反対している住民と面談したためしがない。推進派の委員が全体のマジョリティを占めているので、本当の反対派には会いたくないのだ。前回、昨年4月に福島に行き、会いに行ったのは、まさに安東量子の<福島ダイアログ>だった。これもロシャール経由の手引きによるのだろう。だから、今回、安東量子がフランスに視察に来たというのも、自分が色々探して、見出したわけではなく、その時以来の手づるに過ぎない。

以上、見てきたように、CLIはむしろ、推進派によって、あたかも民主的に情報公開され議論されている場として、推進派のショーウインドーのように利用され、原発を推進する仏電力やオラノに担保を与える結果になっている。だから、安東量子の今回の福島季評も、穿った見方をすれば、フランスの原子力ロビーのバックアップをしているのではないか、とも取れるのである。(コリン・コバヤシ 2025年12月5日)

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