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オルタナティブ提言の会

第5回 グローバル資本主義に対抗する
 
2009年11月15日

コメント:稲垣 豊
ATTACジャパン運営委員

アタックとはそもそもどのようなグループかということはみなさんご存知だと思いますが、97年のアジア通貨危機に際して、金融資本があまりにも東南アジアの人びとを犠牲にしながら大もうけをして世界的な混乱を引き起こした、こんなひどいことはおかしいということで、フランスから始まった運動です。その際には、金融取引への課税とか債務帳消し、タックスヘイブン規制などを前面に掲げて金融の問題を社会運動のなかへ入れていくということで始まった運動でした。

金子さんの報告にあった、新自由主義論者なのか修正資本主義論者なのか脱資本主義論者なのかという分類でいえば、アタックの取り組みの目的は、お金の分配の問題を世界のグローバル化のなかから考えるということと、現在あまりにも金融資本に有利になってしまっている経済システムに規制をかけるということですので、大きな流れの中では2番の修正資本主義に当てはまるのだろうと思います。ただそれだけにとどまらない活動や議論が世界社会フォーラムなどを媒介にしてできていることも言っておきたいと思います。

2008年にアタック・インターナショナルがまとめたステートメントに「ATTACの最初の10年」という文章があります。このなかでも「グローバリゼーションの帰結は、金融と貿易をはるかに超えることが明らかになっている。有限の地球上で人びとの幸福を実現するには、私たちの消費と生産の様式を根本的に変える必要がある。経済は、人びとの実際の必要に応じて組織され、規定されなければならない」と書かれていますが、アタックは、生産システムから変革しなければならない、ということを言い始めています。これは2009年1月のWSFベレンの社会運動総会の宣言文のなかでも、もう少し明確に言われていると思います。アタックだけでなくて、世界の社会運動との意見交換や資本主義そのものの危機的な状況のなかで、やはり規制だけではなく、さらに進んで取り組まなければならないということになってきていると思います。

アタックの運動は「北」の国ぐにのお金の流れを規制する、というから「南北」でいえば「北」に属するといえるでしょう(※)。「北」のお金が「南」の国の人々の生活を破壊する。その「南」でがんばっている人たちの運動との連携も強く言っています。これもWSFの理念の一つに沿っていると思います。

(※)最近ではアフリカのアタックネットワークの活動も活発になっている。(参考)「緊急プレス・リリース COP15に対するアフリカATTACネットワークの声明」


少し具体的なG20の話ですが、金融危機の後に「今こそ金融カジノを閉鎖しよう」という声明が、ヨーロッパのアタックネットーワークから出されました。そのなかに表れているのは、行き過ぎた金融資本主義の規制するべき、という精神です。また、アタックフランスは、「G20:無駄話はやめろ!」という主張をおこなっています。G20で議論されていることが金融規制ではなく、まったく逆の方向に進んでいる、ということを批判しています。事例の一つにバーゼル規制の強化があります。バーゼル規制とは、世界の数十カ国の中央銀行が加盟する国際決済銀行が取り決めた規制で、銀行の自己資本比率を一定以上に保つよう規制するものです。国際業務に携わる銀行は自己資本比率を8%以上でなければならない、というものです。簡単に言えば、銀行は自己資本の12・5倍まで融資や投資をしてもいいよ、というものです。88年に導入されたバーゼル規制(バーゼルI)が、2004年に改定されバーゼルIIになりました。バーゼルIIでは民間会社の格付や銀行の内部格付けを計算基準に取り入れたことで、銀行資金がそれまで以上に証券化商品=リスク商品に流れることになりました。アタックの声明ではこの「バーゼル?」から「バーゼル?」へ移行を、「誤りの一歩」だったと述べています。G20サミットではこのバーゼル規制についても検討がされていますが、本当に私たちの望むような規制がされるのかどうか、期待はできないでしょう。(※)

(※)昨年末までに、バーゼル規制の改革案が出され、2012年までに新たなバーゼル規制を導入することが決まったが、各国金融機関には10年程度の移行期間を認めるという、事実上の先延ばしもあわせて発表された。バーゼル規制の20年は「規制」とは全く逆の「緩和」の歴史でもある。

 また、タックスヘイブンについて、G20では「対抗措置を使用する用意をする」と言っています。これについてやはりアタックフランスが「ピッツバーグG20:タックスヘイブンは消滅途上? いや、怪しいものだ」という声明を発表しています。タックスヘイブンの定義はOECDが作った租税基準をもとに決められていますが、OECDと条約を結んだ国はタックスヘイブンではない、ということになった。たとえば日本が必要な情報を出してくださいと依頼すれば相手国はその情報を出してくれる。そういう条約を結べばその国はタックスヘイブンではないと。そうなれば、もう対抗措置を発動する対象にはならないわけです。

フランスでは、この10月にフランス銀行協会がサルコジ大統領に対して、タックスヘイブンのリストに入っているところから銀行は一斉に引き上げるつもりだと言いました。これによって、タックスヘイブンはひじょうに大きな打撃を受けるように聞こえますが、今言ったようなことから、対象となるタックスヘイブンそのものが、リストからほとんどなくなりつつあるという状態です。ですから、ここから引き上げるといっても何の効果はないわけです。G20は「タックスヘイブンの規制が最大の目覚しい効果をあげた」と自画自賛していますが、その規制ですら実際にはこのようなお粗末な状況です。

では、G20ではなくて何なのか。金子さんが紹介していましたが、09年6月に開催された国連経済危機サミットのような場が必要でしょう。国連加盟の192カ国の代表があつまりました。そこでスティグリッツ報告が出されましたが、このときの国連総会議長のデスコトさん(ニカラグア・サンディニスタ出身)のコメントが紹介されています。簡単に紹介しますと、「192カ国で構成される国連がコンセンサス方式で文書を採択した。この種の文書は課題設定に傾きがちであるが、その文書は議論の部分はほとんどなく行動決定の形をとっていた。しかしその文章は大胆な政策変更と制度改革を含んでいた。当然その決議文書は妥協と計算されたあいまいさとの結果であったにもかかわらず、我々の世界経済危機の原因と対処法についてのどんな政府間プロセス(たとえばG20)が発行した声明と比べても、もっとも包括的なものとなっている。その決議文は国連の討議の場所としてでなく、最高レベルの意思決定の場所としての潜在的能力を強く表明するものである」と。そして最後にデスコトさんは「私はWSFで、よりよい世界は可能である、という演説をした」という一文を引用しています。

このスティグリッツ報告はG20などよりもはるかにまともでマシなものになっているにもかかわらず、日本のなかではほとんど取り上げられていません。僕らの運動のなかでもそうですが、その状況はお寒いのかなと思います。ただ、この国連経済危機サミット後、日本では政権が変わったわけですから、私たちも、日本政府は新たな立場でどのように取り組んでいけるのか、ということを言っていけるのではないかという気はしています。

少しアタックの立場から離れますが、2009年1月におこなわれたWSF社会運動総会で、「私たちは危機のツケを払わない、金持ちが支払わなければならない!」という宣言が出されました。これを読んで僕がなるほどと思ったのは、今回の金融危機について「この危機を克服するためにこれまでとられたすべての措置は(G20のことを言っていると思いますが)、損失を社会全体で負担させることを狙ったものに過ぎない」という箇所でした。そして自分たちはどうするのかということでは、

―無償かつ全面的な社会監視下のもとでの金融部門の国有化
―賃下げなしの労働時間削減
―食糧エネルギー主権を保証する措置の実施
―戦争をやめ占領軍を撤退させ、外国時期の撤去の要求する
―民族の主権と自治の承認、自決権の保障
―すべての人々に土地、領域、労働、教育、保健への権利の保障
―通信手段と知識へのアクセスの民主化

と掲げています。そしてこういったオルタナティブは必然的にフェミニスト的なものであると、いうようなところまで含めて宣言をしています。より儲かるところへお金が流れ、いずれ儲けがなくなり、その儲けがまた違うところへいかざるを得ない。これは資本主義自身のもつ特徴であるわけです。モノの生産ではなくて金融肥大化へ進む。そういうことは昔から言われていることで、大きなシステムの流れを何か小手先だけで変革するのは無理です。民間の金融機関の所有形態をそのままにしたままでの規制だけでなく、金融システムの国有化が(別の文章では社会的・民主的コントロールなどと呼ばれています)を掲げ、それを通じた民主的なコントロールをしていくんだという主張が、アタックを含む社会運動の中ではなされてきています。

金子さんからも紹介のあったヘイキ・パトマキさんが、トービン税を紹介するときにも言っている「民主主義を取り戻すことがCTTにとって、重要だ」という話にもつながることなのかなと思います。パトマキさんの新しい論文は今年中には翻訳が出ることになっていますが、2007年の論文はすでに翻訳されていますので、みなさん参考にしてください。(※)

(※)「トービン税とグローバル市民社会組織:2008-9年金融危機のあとで」(ヘイキ・パトマキ)
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