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総選挙の結果と対抗勢力再生の課題

白川真澄

2012年12月30日記

自民党の奇妙な圧勝

 総選挙の結果は、多くの心ある人びとに衝撃を与えた。自民党は294議席(前回の09年総選挙よりプラス175)、公明党の31議席(プラス10)と合わせて3分の2を超える320議席を獲得した。2005年総選挙(「郵政民営化」選挙)での296議席にならぶ圧勝である。

 ところが、この圧勝は、奇妙な勝利なのだ。自民党は、比例区では得票数が前回よりも219万票減らした1662万票(得票率27.6%)、議席も2増(57)にとどまっただけではない。小選挙区でも得票率こそ43.0%と前回より4.3%増やしたが、得票数は2564万票と166万票も減らしている。公明党も、比例区では94万票減らしている。両党とも有権者の支持を回復して勝利したとは、とても言えない。

 自民党圧勝の最大の功労者は、ほかでもない民主党である。「民主党のオウンゴール」と揶揄されるように、今回の総選挙は民主党政権への圧倒的な不信任投票となった。民主党は57議席と、告示前から173減、前回よりも251減となり、大敗した05年総選挙時の113議席の半分にも達さない壊滅的敗北を喫した。得票数は小選挙区では1988万票減の1359万票(得票率22.8%、前回47.4%)、比例区では2022万票減の962万票(得票率16.0%、前回38.1%)と、実に2000万票を一挙に失ったのである。民主党政権への不信がかくも強かった理由は、詳しく述べるまでもなかろう。マニフェストの投げ捨て(消費増税など)、二枚舌(一方で原発再稼動、もう一方で「30年代に原発ゼロ」の主張)、さらに政権それ自体の不安定さ(大量の離党者、小沢派の分裂など)。

 民主党から離反した2000万票は、どこへ向かったのか。最も多かったのは、棄権した人だと推測される。投票率は実に10%下落して戦後最低の59.3%、つまり1000万人が棄権に回ったことになる。そのすべてが前回は民主党に投票した人ではないが、民主党に投票した多くの人が今回は棄権に回ったと考えられる。自民党支持に回帰した人は、自民党の得票数の減少を見るかぎり、それほど多くないだろう。むしろ維新の会やみんなの党の支持に流れた人が多かった、と推測される。

 維新は比例区では1262万票(得票率20.4%)、40議席と、民主党を上回る支持を獲得した。小選挙区でも694万票(得票率9.8%)、14議席(告示前よりプラス3)を獲得。みんなの党も、比例区では224万票増やして524万票(8.7%)、14議席(小選挙区を合わせると前回より13増の18議席)を獲得。民主党に失望したが自民党政治に戻ることも嫌ったかなりの人びとは、「改革」(既得権の破壊)のイメージをふりまく維新とみんなの支持に回ったと思われる。

 得票数で見るかぎり支持を減らした自民党が、にもかかわらず圧勝したのは、多くの人が指摘しているように小選挙区制のせいである。小選挙区では、自民党は得票率43.0%で237議席、議席獲得率79.0%である。民主党は得票率22.8%で27議席、議席獲得率9.0%にとどまった。得票率の差1.9倍が、議席数と議席獲得率では8.8倍の大差となって現われるのだから、恐ろしい。「政治改革」と称して小選挙区制の導入に賛成した政治学者の罪は実に重い※1

「不安」や「危機」という政治的空気

 ポスト3・11の初めての国政選挙で問われるべき最大の争点は、脱原発か原発存続かであったはずだ。しかし、怪しげな政治的「空気」が強力に作りだされ、この争点を覆い隠してしまった。それは、日本が「危機」的状況に陥っているという「不安」感である。

 たしかに、デフレ不況が深刻化し雇用が悪化する(リストラの横行、非正規雇用の増大、平均賃金の低下)なかで、人びとの抱く不安感は強まっている。しかし、その不安感と中国による「領海・領空侵犯」、北朝鮮のミサイル実験といった出来事が一緒くたにされて「危機」や「不安」が煽り立てられた。ウルトラ保守・右翼の勢力がその先頭に立った。自民党は、経済も教育も外交も「危機的状況に陥った」、「日本の危機。だから自民党」(「政権公約」)と叫び続けた。維新の会も、日本は沈没寸前、二流国家に転落する間際だ、と危機感を煽った。そして、マスメディアもこれに同調し、「デフレ脱却・経済再生こそ最大の緊急課題」(テレビ朝日の古舘伊知郎)などと言いまくった。こうして、総選挙の最大の争点は、経済危機からの脱出策へと誘導された(「投票で重視するもの」は、三択の問いに「景気対策」61%、「脱原発」16%、「外交・安全保障」15%であった。「朝日」12月13日)

 ウルトラ保守・右翼の勢力は、この「危機」と「不安」という政治的空気に乗っかった。こうした空気のなかで「実行力」、「決められる力」、「安定感」といったことが、政治的選択の決め手として持ち出された。世論調査では、「政治に求められているものは何か」という問いに54%が「政治を安定させる」と答え、「政治の仕組みを変える」の36%を上回っていた。「安定」を望んだ人の41%が自民党に、「変革」を望んだ人の31%が維新を、それぞれ投票先に選んでいる(「朝日」12月7日)。自民党は票を伸ばせなかったが支持をつなぎ止め、維新の会は得票と議席を大きく伸ばした。政策(公約)の内容を知って投票したのではなく、「安定感」や「実行力」といった抽象的な基準で投票した人が多かった。

 しかし、結果として、議会は自公と維新合わせて379議席と、ウルトラ保守・右翼勢力に占拠された。これに新自由主義のみんなの党が加われば397議席と、保守と新自由主義の勢力が8割以上を占めることになった。

脱原発の政治表現の失敗――リベラル・左翼勢力の惨敗

 最も深刻な問題は、脱原発を掲げこれを争点化しようとしたリベラル・左翼の勢力が惨敗したことである。いいかえると、怪しげな「危機」と「不安」の空気を打ち破って「脱原発」を政治的に表現することに失敗したのである。

 未来の党は、告示前から52議席減らしてわずか9議席に(比例区の得票数は342万票、得票率5.7%)、社民党は告示前から3議席(前回より5)減らして2議席に転落した。共産党は1議席減の8議席に踏みとどまったとはいえ、比例区の得票数は25%、125万票も減らして369万票と退潮ぶりが際立った。社民党は、比例区の得票数を53%、159万票減らして142万票にまで落とした。未来、共産、社民の得票数は合わせても853万票と1000万票に届かず、得票率も14.2%にすぎなかった。脱原発を前面に押し出したリベラル・左翼勢力は、わずか19議席という小勢力に転落し、周縁部に押し込められてしまった。

 なかでも、未来の党は脱原発の声や願いの受け皿と期待されただけに、その惨敗は失望や落胆を呼んだ。あまりにも拙速な新党の立ち上げは、選挙目当ての議員の離合集散劇であり、小沢派の看板の塗り替えにすぎないというマイナスの印象を与えた。

 脱原発のインパクトのある政治表現のためには、「共同リスト」の結成がベストであった。つまり、それぞれの政党や政治団体が組織を維持しながら「脱原発」を明確にした統一名称で選挙戦をたたかうという「日本版オリーブの木」の形成である。党名を切り札にする共産党が応じたかどうかは疑わしいが、この方式であれば、社民党やみどりの風を含めた広範な協力は可能であったはずだ。だが、模索の末に誕生したのは、共同リストではなく小沢派が主導権を握る急ごしらえの新党であった。また、東京比例区で市民主導で「脱原発」の共同候補を立てる試みも、準備が間に合わず、挫折した。

 脱原発か原発推進かという争点をめぐっては、政治勢力が明確に二分されて対峙しているような状況があったわけではない。「原発即時ゼロ」や「原発稼働ゼロから10年以内の完全廃炉」を主張する勢力以外に、民主党は「30年代に原発ゼロ」を掲げ、みんなの党は「電力自由化で原発ゼロ」を主張していた。脱原発を掲げて多くの党が乱立する状況のなかでは、再稼動を認めない脱原発の勢力が(共同リストや選挙協力の形で)1つにまとまらなければ、人びとは選択肢に迷う。ジャーナリストの山田厚史は、「反原発勢力が一本化すればデモに参加する人たちの投票行動もはっきりしたと思う」という声を紹介し、「中道左派=リベラル」は「結束できないまま自民党の独走を許した」と評している(「ダイヤモンドオンライン」12月20日)。

 リベラル・左翼の勢力がまとまってたたかっていれば、事態がもう少し変わった可能性はある。しかし、リベラル・左翼の勢力の惨敗と衰退は、もっと根深い原因から来ていて、次のような根本的な問いを突きつけているように、私には思われる。それは、そもそもリベラル・左翼勢力は、この日本社会のなかで、どのような社会的・運動的な基盤の上に存立しうるのか、またどのような理念や組織の形をもてば再生できるのかという問いである。

 たとえば民主党は、「国民の生活が第一」、「対等な日米同盟関係、東アジア共同体」をマニフェストに謳って政権を取った時期に、リベラル色を最も強めた。だが、その後の見るも無残な変質の歩みは、日本におけるリベラル勢力の存立の困難さを語り出している。また社民党や共産党は、9条護憲の平和主義の信念をもつ層にしか足場を持てなくなっている。

 しかし、この社会では、若者を中心に非正規雇用にしか就けない大量の人びとが生みだされ、何の政治表現も組織的な拠り所も持たないまま放置されている。同時に3・11以降、経済成長神話と訣別し自分たちの力で生きる道を選択し、スロー・シンプル・エコロジカルな暮らし方や働き方を実践している人びとが確実に広がっている。こうした人びとのなかにどのように碇を下ろし、共に新しい政治表現を創りだせるのか。リベラル・左翼勢力の再生の鍵の1つは、この点にあるのではないか。この問題は、あらためて論じたい。

安倍新政権とどう対決するか

 12月26日、安倍新政権が成立した。安倍を筆頭にして稲田朋美(行革相)、古屋圭司(国家公安相)、新藤義孝(総務相)、下村博文(文科相)といった名だたる極右の人間がずらりと並んでいる。「危機突破内閣」と意気込んだ政権が並べた政策メニューも、すごい。

*原発を次々に再稼動し、新規建設を促進し、30年代原発ゼロ方針を廃棄する。
*日米同盟を再構築するために、集団的自衛権の行使を法解釈で可能にする。
*「領土・領海を断固として守る」という強硬姿勢を見せながら、米国との同盟関係(「外交力」)を後ろ盾にして、経済界からの要求の強い対中関係の改善に動く。
*改憲への動きを本格化するが、さしあたり改憲手続きの緩和(憲法96条の改訂)に必要な参院での3分の2勢力の確保をめざす。
*TPP交渉に、農協や医師会などの支持団体をなだめすかしながら参加する。
*社会保障の削減の標的として生活保護給付を10%引き下げる。
*「デフレ脱却・経済再生」のために日銀を脅して無制限の金融緩和をやらせると同時に、国債増発で大型公共事業を再開する。

 安倍政権の当面の目標は、夏の参院選で「ねじれ国会」の解消を掲げて勝つことである。本格的な国家改造のために何でもやれるウルトラ保守・右翼の安定政権を樹立しようというわけだ※2。そのために、抵抗の強いタカ派の政策は封印して「デフレ脱却・経済再生」策(アベノミクス)を前面に押し出し、10兆円の大型補正予算を手はじめに景気回復への期待と幻想で支持をつなぎとめようとしている。

 金融緩和と財政出動を同時にやるというアベノミクスは、株価の上昇や円安の効果を一時的にもたらすとしても、物価は上昇しても賃金は上がらず非正規雇用は増え続ける、消費税率は引き上げられるが社会保障は削られ政府債務はどんどん膨らむ、といった悲惨な結果が目に見えている※3。それでも、参院選まで期待と幻想が続けば良いとばかりに、なりふり構わずおカネをぶち込んでくるだろう。

 しかし、右翼の血が騒ぐのだろう。安倍政権は、参院選までの「安全運転」に我慢できずフライングを始めている。安倍は「安全性が確認された原発は順次再稼動し、重要電源として活用することで電力の需給に万全を期す」と、自ら全閣僚に指示した。茂木経産相は、「30年代に原発ゼロ」方針の撤回を公言した。また、復活した経済財政諮問会議の民間委員に、原発メーカー東芝の佐々木社長を選任した。脱原発運動がパワーを発揮し民主党政権を追い詰めて獲得した成果を一気につぶす攻撃に出ているのだ。脱原発運動には緊張感が走り、再稼動と新設を阻む現地と全国のたたかいを再び強めようとしている。

 私たちはまず、安倍政権が繰り出してくる1つ1つの政策に頑強に抵抗し、押し戻していかなければならない。原発再稼動・新設阻止のたたかい、福島の人びとと被曝労働者の運動、沖縄の人びとの頑強なたたかい、生活保護削減に対する抵抗は、その前線を形づくる。さらに、日米同盟のレベルアップと一つになった改憲の企みに対抗する運動と戦線の形成が急がれねばならない。

 第二に、ウルトラ保守・右翼勢力が新自由主義潮流と組んで強行しようとしている社会・国家再編の全体に対抗していく長い射程での戦略と主体を構築することである。対抗勢力としてのリベラル・左翼の再生は、その重要な課題の1つである。夏の参院選において自公あるいは自民・維新が3分の2の多数を握ることを阻むために、リベラル・左翼の勢力が一致協力してたたかうことは、最低限必要なことだ。

 だが、リベラル・左翼勢力の再生が未来の党(分裂したが)・みどりの風・社民党・共産党といった既成政党の寄せ集めであってはまったく魅力に乏しく、人びとは将来への可能性を感じとれない。ラディカルな理念と主張を持ち、市民の目線に立つ緑の党のような「脱政党的政党」がその核になってはじめて、再生は可能であると、私は考える。

 そのことはまた、脱原発=「原発のない社会」のビジョンが、再生可能エネルギーへの転換とそれによる雇用創出といったレベルにとどまるわけにはいかないことをも意味する。経済成長主義とグローバリズムに導かれた社会と経済、暮らし方と働き方の全体を根本から変えるオルタナティブを提示することが求められているのだ。そして、対米依存・従属にいっそう深くのめり込みながら戦争責任を否定してアジアと敵対し、国家や家族の復権を狙って走りだした国家再編の全体像に対するオルタナティブの対置が必要になっている。

 さまざまの課題と戦線の運動の連携・協力を発展させるためにも、たとえ力は小さくてもリベラル・左翼の対抗勢力を再生するためにも、これからの社会・国家像あるいは社会・国家の編成原理をめぐってウルトラ保守・右翼と新自由主義の勢力に対して真正面からたたかいを挑むことは、避けて通れない必須の課題である。

※1 山口 響「負けたのは民主党ではなく、民主主義」(PP研ウエブ)
※2 安倍政権のめざす「国家改造」の特徴については、武藤一羊「極右による『国家改造』の性格――耳栓・目隠しで『日本を取り戻す』」(同上)が明快に論じている。(上)(中)インターミッション(下)
※3 安倍自民党の経済政策については、白川「“大胆な金融緩和で経済成長”という政策のカラクリ」(同上)で批判しておいた。
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