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 ※小倉利丸氏ブログより転載。

移設から縮小・閉鎖へと運動の潮目が変わった!

小倉利丸

2010年5月15日

普天間基地問題について政府は未だに「移設」にこだわっている。その理由は、日米同盟重視と米軍基地の安全保障上の必要の二点だが、いずれももはや世論の支持をえられない状況になってきた。

伊仙町の大久保明町長が次の用に述べたことは注目すべきだ。

世界で唯一の被爆国として、新しい軍縮世界を作ってほしいと伝えた。沖縄は南西諸島を築いてきた同胞だ。基地を分けるのではなく、負担を縮小する以外に方法はない


これは8日の鹿児島での徳之島への移転反対集会で述べたことをNHKが報じたものだ。

徳之島にとっては、移設先となることを拒否し普天間基地の存続や辺野古への移設を肯定することなどできようはずがない。自分が受け入れられないものを他の自治体が受け入れるべきだといったエゴイズムはとうてい成り立たない。そうだとすれば、米軍基地の縮小という結論以外に選択肢はありえないといことになろう。

伊仙町の大久保町長が基地の縮小を主張したことは、政府が主張する日米同盟や米軍の安全保障上の必要といった主張が納得されていないということを端的に示している。鳩山を含めて、民主党政権は、これまで日米同盟がなぜ重要なのか、米軍基地、とりわけ普天間基地が安全保障上不可欠であることを論理的に説明したことは一度もない。だからだれも納得できないのだ。米軍基地は、半世紀も日本にありながら、いまだに日本国内で地元も含めてその存在は歓迎されていない。この事実は、日米同盟も米軍基地も本音のところで日本の民衆には受け入れられていないということではなだろうか。

自民党の谷垣総裁は、沖縄県民や徳之島の人々の信頼を損なったと繰り返し民主党を批判しているが、自民党は普天間基地の「移設」について明確な方針を述べることができていない。自民党は戦後半世紀にわたって外国の軍隊をこの国に居座りつづけさせ、莫大な「思いやり予算」を貢ぎつづけた。自民党政権は米国の傀儡政権といっても過言ではない役割を担いつづけた。「反共」を口実にして外国の軍隊を居座りさせつづけた戦後日本の保守や右翼の責任は大きい。

民衆の意思は、自民党と民主党が共有する日米同盟や米軍基地の存続とは明らかに異なる位相を形成し始めている。基地の移設ではなく縮小がこの先より有力な選択肢として注目されるのは避けられない。そうなったとき、米軍基地への民衆の反対の意思には、さらに日米同盟への疑問や冷戦構造に未だにしばられた旧態依然とした安全保障をめぐる政治家たちの議論にも再検討の必要を突きつける可能性がはらまれている。

ただし、こうした米軍への拒否の感情が他方での自衛隊の強化や米軍の自衛隊基地への統合を促すことになる危険性がある。じつは、日米同盟の現状への大衆が抱く潜在的な不満の底流にはある種のナショナリズム、反米ナショナリズムといっていいような傾向もあることを軽視すべきではない。反米ナショナリズムが自衛隊の強化と周辺諸国の民衆との敵対感情を醸成する可能性を秘めている以上、この種のナショナリズムを回避することを明確にした米軍基地縮小の運動が重要になる。民主党政権もまた徳之島以外の代替策として自衛隊基地の利用も検討しているようだ。米軍基地はいらない。それは他国の軍隊だからだが、しかし、それだけでは十分ではない。問題を「軍隊は本当に人々の生存を保障する組織なのか」を近代国家の数世紀の歴史をふまえて冷静に見据えることだ。そうすれば、答えは自ずと「ノー」であることがわかるはずだ。生存の保障に必要なのは、他国であれ自国であれ軍隊なのではなく、敵と味方に政治的に分断する国民国家による国際関係そのものを拒否する力だ。
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