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新型インフルエンザ騒動から見えてきたもの

山浦康明(日本消費者連盟事務局長)
2009年5月25日

(1)2009年3月メキシコで豚インフルエンザ(その後「インフルエンザA/H1N1」型と呼称)が発生しました。日本政府も警戒を開始したこの新型インフルエンザは、国内でも感染が拡大しているとして、さまざまな政府の対策、事業者の対応、市民の自衛策などがとられました。

 その後5月16日には、政府の対策会議において、この問題に対して事業や集会の自粛などを打ち出したこれまでの「基本的対処方針」を緩和しました。糖尿病やぜん息などの基礎疾患を持つ者への対処をはじめ、市民への感染の拡大を防ぐことはもちろん重要ですが、この間とられている対策やマスメディアの過剰対応には問題があります。

(2)新型インフルエンザの発生原因をめぐっては、人のインフルエンザ、鳥のインフルエンザ、北米の豚インフルエンザ、ユーラシアの豚インフルエンザの4種の交雑によるとの見解以外にも、米国「バイオテロ法」により作られたP4施設(感染症予防のワクチンを作るためにウイルスを封じ込める気密性の研究施設)のウイルス事故ではないか、米国の多国籍企業「スミスフィールド・フーズ」社のメキシコ工場での不衛生な環境が原因ではないか、米国ノースカロライナ州での養豚業の集約化がもたらしたのではないか、などの原因が指摘されています。つまり、先進国由来のものか、多国籍企業の養豚場での効率優先の飼育がもたらしたのではないか、という見解です。

 また、この新型インフルエンザは弱毒性であり、通常の季節性インフルエンザと同様のものにとどまっています。しかしこの新型インフルエンザについては、頻繁に過去のスペイン風邪などの例が引き合いに出され、パンデミック(世界的大流行)となり深刻な被害が想定されると強調され、原因究明よりも緊急時対応だけが強調されました。

(3)また対策として抗インフルエンザウイルス薬のワクチン「タミフル」や「リレンザ」などの治療薬が有効だとして患者への処方や国家備蓄を増やしました。このワクチンはスイスの多国籍製薬メーカーの「ロシュ社」製で、これまでその多くが日本で使用されてきました。この度も世界の備蓄のほとんどを日本が買い占めており、世界で早急に必要な人びとに行き渡らなくなっています。ロシュ社は、途上国で薬が必要な人びとに安く提供するためのジェネリック薬を作ることも認めていません。

 このタミフルは妊婦や授乳中の女性にも処方が勧められていますが、タミフルの毒性が妊婦や新生児にも悪影響を与える、タミフルは「インフルエンザ脳症」を予防するものではない、タミフル服用時にはすでに病態形成が進行しており服用する意味がない、新生児の発達を阻害する可能性もある、インフルエンザの重篤化の防止には解熱剤などを用いず安静を保つことが肝要だ、と指摘する専門家(NPO法人医薬ビジランスセンター・浜六郎代表)もいます。タミフルを万能視し、メーカーに利益を与えるだけの政府の対応は問題です。

(4)今回のインフルエンザについては、家畜の飼い方を動物福祉の観点から見直すきっかけにしなければなりません。工業的畜産によって規模と効率を重視するあまり、悪性の伝染病繁殖の危険性も高まるからです。安全な食べ物は健康な農畜産物から得られることをもう一度思い起こす必要があります。

 政府やマスメディアが過剰に緊急措置が必要だと煽り、それに巻き込まれた人びとがいたことも釈然としません。豚肉の輸出禁止をめぐる騒動、空港での機内検疫措置、患者との濃厚接触者の停留措置、事業活動での自粛措置、大阪・兵庫での休校措置、集会・スポーツ大会・修学旅行などの中止、人びとのマスク着用など、日常生活でも大きな影響が出ました。そして役所の危機管理のシステムだけが強固になりました。しかし本当に必要だったのはこうした体制づくりだったのでしょうか。

 私たちは、こうした情報を見極めつつ、毎日しっかりと栄養や休養をとり、健康な身体を維持していくことが大切ではないでしょうか。

(日本消費者連盟『消費者リポート』1440号に加筆)
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