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「れいわ新選組」の経済政策について
白川真澄


 山本太郎さんの論文「『消費税ゼロ』で日本は蘇る」が『文芸春秋』20年2月号の巻頭に掲載されています。お読みになった方もあるかと思いますが、旋風を起こした「れいわ新選組」の今後の動向は、リベラル・左派勢力、野党共闘の今後にとってカギを握る1つです。その意味で、消費税廃止を柱とするその経済政策について、きちんとした検討をする必要があると思います。
 
1 消費税廃止で消費が拡大し景気が良くなるか
 山本(敬称略)の主張の最大の柱は、「消費税廃止」です。
 山本は次のように述べています。「日本の経済と人々の暮らしを立て直すためにどうすればいいか。最も効果的な施策が『消費税廃止』です」。消費税を廃止すると、「約1ヵ月分の給料が私たちの手元に却ってくる……。消費が活発になっていくと、当然モノが売れる。……企業も投資を増やそうと」する。「デフレ不況が続いていますが、消費と投資が活発にな」れば、景気がよくなる、と。
 消費税を廃止すれば(あるいは5%に下げれば)、個人消費が活発になるという主張は、間違いではありません。日本の個人消費の低迷が続いている大きな理由の1つは、人手不足にもかかわらず賃金の伸び方が鈍く、社会保険料の負担の引き上げもあって、働く人びとの可処分所得(自由にできるお金)が増えていないことにあります。ですから、消費税率の廃止あるいは引き下げは、可処分所得を増やしますから、消費への支出が増える効果はあると言えます。
 しかし、その効果は限定的であると思われます。なぜなら、人びとが消費にお金を使わなくなっている最大の理由は、将来の生活への不安が大きいために賃金や可処分所得が増えても貯蓄に回してしまうからです。社会保障制度に信頼が置けないために、医療や介護や教育や老後の生活のために「自助努力」で少しでも資金を貯めることに走っています。とくに40歳以下の若い世代の節約志向(消費性向の低下)が際立っています。人びとが消費支出にお金を使うようになるには、財源に裏打ちされ安心を得られる社会保障制度の構築が必要不可欠です。
 したがって、消費税廃止あるいは引き下げ(減税)ではなく、富裕層や大企業への課税強化(増税)による税収増で社会保障を拡充することを真正面から打ち出すべき時だと思います。医療・介護・子育て・教育などへの財政支出を大胆に増やすことは、景気回復や経済成長のためではなく、人びとの生存と生活、安心を保障するためです。どの政党も「景気回復」と言いますが、企業利益が増大し株価が上昇するだけで非正規雇用が増え賃金は伸びない景気回復もあります(現在はそうです)。景気回復さえすれば雇用の質も改善され(正社員が増えるなど)賃金も増えるという期待や幻想が強いのですが、「景気回復」という言葉に惑わされないことが肝要だと思います。
 また、10月の消費税率引き上げが行われる前にこれに反対することは、人びとの関心を引き付ける政治的な争点になりました。それでも参院選では、消費増税を掲げた安倍政権を追い詰めることができませんでした。増税が既成事実化された後の次の総選挙で、「全世代型社会保障への改革」を掲げてくるであろう安倍政権に対して、消費税廃止・引き下げを訴えても人びとの共感と支持を呼ぶ対抗軸にはなりにくい、と私は推測します。残念ながら、世論調査でも消費税率引き上げには反対が多数であったのに、引き上げ後は「納得している」が多数になっている現実を無視するわけにはいかない、と思います。

2 消費税をどう考えるか
 山本の消費税廃止論は、消費税そのものが天下の悪税であるという考えから来ています。
 いうまでもなく、消費税は、低所得層に重い負担を課す逆進性という致命的な欠陥を持っています。しかし、景気動向に関わりなく安定した税収が得られる、現役世代だけではなく全世代が負担する、税の負担が軽いか重いかがシンプルに分かるといった長所もあります。また、北欧諸国では極めて高い税率の消費税(付加価値税)が課せられていますが、手厚い社会保障の給付によって高い消費税が国民に支持されていることも考慮に入れるべきだと思います。
 消費税のもつ逆進性は避けられないが、給付の面で低所得層に手厚い給付をすることで逆進性の問題を解決することができる、という見解もあります(井出英策さんや広井良典さん)。これは説得力のある主張です。ただし、安倍政権のような政権の下では増税された消費税が格差是正のために有効に使われないのではないか、という当然の疑問も生まれます。
 今後の日本では、社会保障の費用が20年後には190兆円にまで膨らむと予測されています。これを賄うために、所得税と法人税の課税強化だけで足りるのか、さらに社会保険料は引き上げずにむしろ減らす必要があるとすれば、消費税をなくしてしまってよいのか。消費税をやめて物品税(贅沢品にだけ課税)に代えるという提案もありますが、何を贅沢品と見なすのかという線引きをめぐる面倒な問題が生じますし、税収も大きくありません。
 消費税廃止と簡単に言うのではなく、社会保障の拡充のためには税負担を増やすことは避けられず、しかも公正な税負担が必要であるという観点から、消費税について税制全体のなかに位置づけて慎重に議論する必要があると思います。

3 「税金はあるところから取れ」は正しい
 山本は、消費税を廃止しても「財源はある」と主張し、「税金はあるところから取れ」と言います。
具体的には、?「大企業への優遇税制を一切廃止し、かつ、法人税にも所得税並みの累進税率を導入する」、?所得税は「以前のような最高税率と累進性を復活させる。[金融所得への]分離課税も廃止し、全ての所得に同じ税(総合課税)を適用する」ことを提案しています。
 この提案は、まったく適切であり、説得力があります。とりあえずの措置ですが、所得税の累進性を強化し、高所得者の最高税率を5%以上引き上げる(約1兆円の税収増)、金融所得に累進課税を適用する(総合課税化する、約4兆円の税収増)、法人税率を10年前に戻し10%強引き上げる(約5.6兆円の税収増)だけで、10兆円分の税収を増やすことができます。さらに、大企業への優遇措置(開発研究投資の税額控除、配当益金不算入など)を縮小する、タクス・ヘイブンを利用した課税逃れを厳しく規制する、アマゾンなど巨大IT企業へのデジタル課税を行う、環境税を強化する(ヨーロッパ並みの水準に引き上げれば、数兆円の増収になります)といった措置をとれば、税収をもっと増やすことができます。
 「持てる者から取る」、つまり負担能力に応じて税を負担する(応能負担)という原則を貫く税制改正が必要です。野党共闘が「富裕層と大企業への課税強化で安心できる社会保障を」という共通政策を掲げて、安倍政権と対決することが望まれます。

4 政府の借金をさらに増やしても大丈夫か
 山本は、もう一つの財源として「政府の借金」を増やすことを提案しています。具体的には「新規国債の発行」です。
 これについて、山本は次のように主張しています。「『政府の借金増(赤字)=企業・家計の資産増』」。「日本は無限に借金を増やせるのか。……。『唯一の上限はインフレだ』」。「インフレにならない限りは、政府債務を増やし、消費と投資を加速させても何ら問題がない。それどころか、『政府の借金=民間部門の資産』なのですから、完全雇用を実現するためにも、政府支出を増やした方がいいくらいなのです」。
 この主張は、いま持てはやされているMMT(現代貨幣理論)をそっくりそのまま繰り返しているものです。そこには、いくつかの落とし穴があります。
 日本の政府債務残高がGDPの2倍にもなる1000兆円を超えているのに、財政破綻が起こっていないのは何故でしょうか。その理由は、ゼロ金利という超低金利が続いていることにあります。そのため国債の利払い額がほとんど増えず、したがって国債費(償還プラス利払い)も一般会計の4分の1内に収まっています。日本の経済はこれからも1%程度の低成長から抜け出せないと予想されますから、金利も上昇せず(企業の資金重要が弱いため)、物価の上昇率も鈍い(賃金の伸びが鈍いため)状態が続くでしょう。低成長、低金利、低インフレの常態化です※。
 ※山本の「デフレ不況が続いています」という認識は、正しくありません。物価は1%に
  届かない緩やかさですが上昇はしていて、「デフレ」(物価が継続的に下落する)からは
  脱却しています。そして、賃金の伸びが鈍く8割の人が「実感できない」のですが、企
  業の利益の急増・株価の上昇・失業率のいちじるしい低下という点では「不況」ではな
  く「緩やかな景気回復」の過程にあります。つまり「低成長・低インフレ」です。
 低インフレですから、どんどん政府の借金を重ねても財政破綻は起こらないという主張が成り立つかのように見えます。しかし、経済が成長しなくても、例えばエネルギーや食糧の輸入価格の急騰、為替レートの急変(極端な円安)などの外的な要因によって突如としてインフレが起こり、これを抑えるために金利を引き上げる必要が生じることは、十分に考えられます。経済が成長して長期金利が4%に跳ね上がることはないとしても、金利が1%上がるだけで、債務残高が巨額な分だけ利払いは急増し、増えた国債費が社会保障費などを圧迫します。
 政府債務が巨額になることは、金利の上昇に対して大きなリスクを抱えることを意味します。失業率が高い不況期に国債を発行して財政支出を増やし(公共事業や低所得者への生活支援金など)需要を高める政策は、必要かつ有効なマクロ経済政策です。ただし、グローバル化が進むなかで、一国内の財政出動は景気回復をもたらす効果が小さくなっている現実(90年代の日本)を直視する必要があります。いまでも国債発行なしに財政を運営することはできませんが、失業率が極めて低くなっている現在、できるかぎり税収を増やして国債発行額を減らし債務残高の伸びを抑えることが求められると思います。
 MMTは、インフレになれば(例えば2%を突破する物価上昇が起こる)、財政支出の削減と増税という「緊縮」政策によってインフレを抑えこめばよい、と主張します。しかし、いったん進行したインフレを抑えることが難しいことは、よく知られています。社会保障の拡充のために増税することにも反対が強いのに、社会保障の削減とセットの増税をしようとすれば国民の猛烈な抵抗に会うことは明らかです。
 低インフレが続き「2%のインフレ」目標がなかなか達成されませんから、まだ「デフレ不況」だということで財政赤字を増やし「異次元金融緩和」を続けると、大量のマネーが供給され続けることになります。そのマネーは、実体経済を活性化することができないまま、株式市場などに向かいバブルをつくりだす可能性があります。
 なお、山本は、「税金の役割とは、消費や投資にブレーキをかけ、総需要を国の生産力の範囲内に留めることで、インフレを抑えることにある」と述べています。これもMMTの重要な主張ですが、実に奇妙な議論です。税の基本的な役割は、政府による公共サービスの財源になることです。社会保障など公共サービスが提供されるから、人びとは税を負担することに同意するのです。インフレを抑えるために税の負担に同意する人は、一体どれくらいいるでしょうか。増税がインフレを抑える経済政策の手段となることはその通りですが、だからといって税の基本的な役割がインフレの抑制にあるというのは論理の飛躍です。
 また、「政府の赤字=民間の黒字」という議論は、それ自体としては間違っていません。政府債務(国と地方の長期債務)は1990年度から2017年にかけて266兆円から1077兆円に増えていますが、家計(個人)の金融資産も1000兆円から1831兆円に増えています。しかし、民間(個人)の金融資産の増大は、アベノミクスの下では株価の上昇によるものです。つまり株の売却や配当で大儲けした少数の人の金融資産が急増したわけです。その対極には、金融資産ゼロの世帯が3割にまで増えています。「政府の赤字=民間の黒字」という視点はひじょうに抽象的で、民間(個人)の内部の格差拡大を捉えることができません。

 「れいわ新選組」の政策主張はシンプルで、「最低賃金1500円」や「奨学金チャラ」の主張も人びとの心を引き付けると思います。しかし、「消費税廃止」論には疑問符が付きますし、政府の借金をどんどん増やしても大丈夫という考え方には大きな落とし穴があります。大事なことは、「れいわ新選組」の政策主張をきちんと受け止めて、市民のなかで、そして野党共闘のなかで税と社会保障のあり方をめぐる政策議論を活発に行うことだと思います。
                             (2020年1月30日記)
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