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【紹介】朝日新聞「経済成長を問い直す」


白川真澄
(『季刊ピープルズ・プラン』編集長)
2015年1月31日記


お読みになった方もあると思いますが、朝日新聞が1月23日?24日の朝刊で「経済成長を問い直す」という議論を大きく取り上げていました。
経済成長主義への根本的な疑問が広がり、脱成長をめぐる議論がもはや無視できなくなっていることを現わしていると思います。面白い論点も出されています。

登場している論者は、水野和夫、藻谷浩介、萱野稔人、大竹文雄、広井良典、待鳥聡史(23日)、岩瀬大輔、牧原出、神里達博(24日)の9人です。それぞれ短い文章ですが、その分だけ各自の主張がよく分かります。

1 脱成長論の立場では、水野さんは「成長戦略」が「富の集中戦略」でしかないことを批判し、広井さんは経済成長を最優先の政策目標にすることはマイナスの方がはるかに大きく「定常型社会」をめざすべきだと、それぞれ持論を展開しています。

2 その対極で、脱成長論への通俗的な批判を展開しているのは、萱野さん。「もし経済成長がなければ、高齢者の福祉を支えるため現役世代の負担は増す一方なので、現役世代はどんどん窮乏化していく」、「『経済成長はもう必要ない』という意見は、誰かを貧窮化するという犠牲のうえでのみなりたつ意見なのである」と。

3 面白いと思ったのは、大竹さん。「これから経済成長を目指すべきではない」という主張には反対するが、「低成長を前提として制度を設計すべきだ」という主張に立っています。つまり経済成長をすれば社会保障や財政赤字の問題が解決するという考え方は、現実的でないとしています。いかにも彼らしいリアリズムがあります。なお、萱野さんも「経済成長はめざすべきだが」、「経済成長することを当然の前提にして社会保障を設計することは慎まなくてはならない」と述べています。

4 微妙な言い方をするのが藻谷さん。経済成長否定論ではないと言うのですが、「今の日本」に限定し「さらなる経済成長をめざすべきか」と問われれば、「経済成長よりも的確な、目標指標が別にある」と答えます。「輸出分を含むGDPよりも、国内の個人消費増加に目標を絞る」べきだと主張しています。中小企業や非正規の労働者の賃上げによる内需拡大 → 本当の経済成長 という考え方です。

5 ここで出されている論点は、なかなか興味深く感じました。私たちのなかでも、きちんと議論していく必要があると思います。

 *「経済成長をめざすべきではない」論に反対する人のなかでも、経済成長を最優先目標にすることには必ずしも賛成しない人がいる。それでは、「経済成長をめざすべきではない」論は、どのようなものとして想定されているのか。

 *経済成長をめざすべきだと考える人のなかでも、現実には低成長あるいはゼロ成長を予想して社会保障の制度設計をすべきだと言う人がいる。脱成長あるいは人口減少の下での社会保障のあり方はどのようなものか。これは、まだ解けていない問題であり、構想を積極的に提示していくことが問われている。

 *中小企業や非正規の労働者の賃上げで消費を拡大して経済成長する、あるいは格差是正で経済を成長させるべきだ、という主張を、どう考えるか。そこに落とし穴はないか。
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