メニュー  >  米、この絶望的価格/菅野芳秀
米、この絶望的価格

菅野芳秀(農民、山形在住)

2010年12月

 お米が安い。

 今年の生産者の売り渡し価格は1俵(玄米60kg)あたり9,000円で、ついに10,000円を切った。1972年の米価が一俵9,030円だったから40年前の価格に戻ったことになる。ちなみに40年前の朝日新聞の1ヶ月の購読料はいかほどだったかといえば900円。それが今日では3,925円となっている。およそ4.36倍だ。それを米の価格にあてはめれば一俵あたり39,370円とならなければならない。それを9,000円で販売しているのだから、つらい。民主党の「戸別補償」を入れても10,500円ほどにしかならない。

 新聞がほぼ毎日のように書いてきた「日本の米は高い」。新聞にそんなこといえるか? 今日、1ヶ月の新聞購読料が900円でやれますか? お前たちもそれをやってみたら、農家の気持ちがわかるだろう。それをやった上でなお、「日本の米が高い」といえば話を聞こうじゃないか……なんてね、だんだんムカムカしてくるのですよ。

 東北農政局の発表したお米1俵あたりの生産原価は昨年産(2009年)で14,617円。これが通常栽培の原価だという。実際はもっとかかっているのが実感だが、ま、いい。今年も似たようなものだろう。それを9,000円で農協に売り渡す。ちなみに生産資材は一切値下がりしてはいない。下がっているのは農家の売り渡し価格だけなのですよ。

 水田とともに、数千年の歴史を刻んできた村はいま、少しづつ崩壊に向かっている。わが村の水田農家の平均年齢はおよそ67歳。日本の農家の平均年齢とほぼ一緒だ。後継者なんて育つわけがない。大規模経営の農家の方が立ち行かない。おそらくあと3年ほどこの価格が続けば、都会に大きなスラムが生まれていくだろう。そう思っている。

 我が家の米は無農薬にできるだけ近づけた栽培なので、当然リスクを負っている。春から秋まで決して気を抜けない。それを白米10kgで5,000円、玄米では4,600円で買い求めていただいている。そのおかげでようやく息子の家庭ともども暮らせているわけだけど、その価格は高いのだろうか。ごはん一杯が70gのお米から炊かれるというから、10kg5,000円の一杯の価格は35円ということになる。10kgあたり630円の送料がかかったとしても39円だ。二杯食べても78円。ペットボトル500mlの水の代金120円にもならない。

 こんなことを書かずとも、我が農園のお米をとっていただいている方からの、高いという声は聞こえてこない。支えられているんですね。ありがたいことです。それでもさ、年々安くなっていくお米代金に囲まれていれば……、「高いなぁ。」と思うようになってしまっても無理からぬこと。我が農園としましても申し訳ないなぁという気持ちになっていく。

 でさ、息子と二人、来年は値下げしなければならないだろうなぁと話し合っているわけですが……我が家の米の話はさておき、問題はこの国。この先の食と農、この国のかたちはいったいどうなっていくのだろうということなのですよ。
プリンタ用画面