メニュー  >  <民主党マニフェストを採点する>【7】分権改革編◎稲村和美
<民主党マニフェストを採点する>
【7】分権改革編


稲村和美

兵庫県議会議員・みどりの未来共同代表
2009年8月16日

 全国知事会や首長連合などが争点化に腐心した分権改革。背景には、小泉政権下の骨太方針による交付税の大幅削減、国の政策に振り回され、財政負担を押し付けられてきた実績(?)と、地方交付税の総枠・詳細を決定する地方財政計画の策定にすら、自治体が一切関与できないなどの現状がある。次の政権には、霞が関の抵抗を抑え込む政治力と、地方財源の充実が求められている。

◆ナショナルミニマムから自治へ
 民主党政策集の分権改革では、基礎自治体を重視した分権改革の推進(「補完性原則」の徹底)、当面5?10年間での地域主権国家樹立を掲げている。全般的に霞が関との対決姿勢を鮮明に打ち出しており、「行政刷新会議(仮称)の設置による国事業の見直し」により、国の役割を大幅に限定して事務事業の多くを地方へ移譲するとしている。
 また、◆国の出先機関である地方支分部局の原則廃止、◆ひもつき補助金の廃止(一括交付金化)、◆「義務付け・枠付け」(=国による道路の建設基準や保育所の認可基準などの一律化・補助金の要件化)の見直し、◆国直轄事業の地方負担金制度の廃止、◆国と地方の協議の法制化、といった知事会要求も概ね盛り込まれた。
 義務付け・枠付けの見直しや国の事業見直しは、「何をどこまでナショナルミニマムとして保障すべきか」という大命題を含んでいるが、中身の議論には踏み込んでいない。国の補助金要件が、地域の実情を無視した立派すぎる道路や大規模なゴミ焼却炉整備を促進してきたといった点は大いに見直されるべきだが、一方で教育・保育・介護・医療といった分野の基準・水準については、オープンかつ国民的議論が求められるだろう。
 ただ個人的には、より住民に近い自治体の判断に多くを委ねるという方向性を評価したい。霞が関がもっともな理由をつけては権限移譲に抵抗してきた経緯を思えば、私たちも一定のリスクを引き受け、地方政府の政治判断を高める力量をつけていくべきではないだろうか。

◆地方政府の自由度を拡大
 また、シティーマネージャー制度の導入(憲法の首長公選規定との整合性を図るのか、憲法改正まで視野に入れているのかは不明)、地方議会定数や地方議員の任期の変更などを地方独自の判断で決められるようにする「住民自らによるガバナンス形態の決定」や、「住民投票法」の制定、弁護士や公認会計士といった専門家の登用や公会計制度改革による自治体監査機能の充実強化などが盛り込まれている。
 ガバナンス形態の自由化については住民の議論が成熟しているとはいえず、筋論でいえば、住民投票や監査機能の充実強化なども地方の判断に委ねたらよいともいえるが、ひとまずは住民自治のインフラ整備の一環として評価していいだろう(ガバナンス形態を住民投票で決めているアメリカの事例がマニフェスト担当者の念頭にあるのかもしれない)。
 現状に即してもう少し踏み込むとすれば、自治体監査機能の充実のためには、監査事務局職員の独立性担保が求められており、全国もしくは一定エリアで財務経験職員などをプールして共同事務局を設置し、職員が自分の所属以外の自治体の監査に従事できる仕組みを作るなど、事務局の強化にもう一段の工夫が必要だと感じている。公務員改革と合わせて議論されることを期待する。

◆地方財源の充実が最大の課題
 民主党における分権改革の最大の問題点は、地方財源の充実についての記述が、まったく具体性に欠けることだ。このため、知事会のマニフェスト評価でも点数が低くなった。
 「新たな地方財政調整・財政保障制度の創設」として、現行の地方交付税制度よりも財政調整・保障機能を強化する方向を打ち出しているが、制度改革で現状を是正するのか、地方が要求してきた「所得税・消費税など偏在性の少ない基幹税源の移譲」にまで踏み込んで検討されるのか、記述がない。よって、「国税の交付税原資部分は地方の共有財源として明確化」するという知事会要求も盛り込まれていない。
 地方税の改正は、地方6団体と総務大臣、政治主導の政府税調の対等な協議で行うとされている一方、消費税改革の記述では、現行の税率5%を維持し、税収全額相当分を年金財源に充当するとされている。現行消費税5%のうち、1%は地方消費税であり、国の関与を受けない貴重な地方独自財源である。
 いうまでもないことだが、いくら権限が移譲されても、それに見合う財源の移譲がなければ、分権は絵に描いた餅となる。それどころか、住民サービスの大幅な低下を招きかねない。子ども手当の創設をはじめ、国レベルで大幅な財政出動を伴う政策がマニフェストの目玉になっているだけに、分権改革における地方財源充実の具体性が問われる。

◆「下からの分権」が本丸
 自民党・公明党においては、道州制導入を分権改革の切り札と位置付けるような傾向が見受けられるが、民主党においては補完性原則の徹底が強調されており、広域行政についても当分の間は現行の都道府県の枠組みが基本とされている。基礎自治体への権限移譲を重視している点について、率直に評価したい(ただし、従前のマニフェストに基礎自治体強化のための合併推進が盛り込まれていた点には注意が必要)。将来的な道州制導入の検討については、地域の自主的判断を尊重するとしている。
 地方における道州制推進論は、州都になる可能性の高い自治体が牽引しているのが実情だ。しかも住民意識が高まっているとはいえず、むしろ経済の中心化を期待する財界の意向が強い。分権改革には、まずは権限と財源を移譲される地方政府における住民自治の経験・実績の積み重ねが必須条件であり、「上からの分権」だけが先走りすることには警戒が必要だ。
 分権改革の成否は、新政権の政治力だけではなく、地方政府の首長や地方議員、そして、私たち住民一人一人の力量にかかっているということを肝に銘じておきたい。
 もちろん、例えば多くの自治体で道路特定財源の一般財源化に消極的だった、民主党所属の地方議員たちの今後の動向にも、厳しい視線が注がれるべきだろう。

※このシリーズ<民主党マニフェストを採点する>は衆議院選挙後の分析論文も加えてパンフレット『民主党政権を採点する』として発行しました。詳しくはこちらをご覧ください。
プリンタ用画面