メニュー  >  「武器輸出国」へ暴走する民主党政権――新「防衛大綱」策定で問われる民主主義/杉原浩司
「武器輸出国」へ暴走する民主党政権
――新「防衛大綱」策定で問われる民主主義


杉原浩司(核とミサイル防衛にNO!キャンペーン)

2010年12月1日

◆「武器輸出三原則は国是ではない」?!

 憲法9条の理念を具体的な拘束力をもって担保してきたのは、「国是」と呼ばれる平和原則であった。それらは、反戦平和運動や野党の主張によって可視化される世論と歴代自民党政権との攻防の産物として形成され、対外的にも「平和国家」としての一定の輪郭を形作ってきた。

 宇宙の平和利用原則が08年5月に「宇宙基本法」制定の形で崩され、今や武器輸出禁止三原則(以下「三原則」)が実質的崩壊の瀬戸際にある。「武器輸出しない国」という道義的高み(モラルハイグラウンド)を自ら投げ捨て、日本はどこへ向かおうとするのか。私たちは紛れもない歴史的転換点に立っている。

 武器輸出推進派が当面念頭に置くのは、NATOによる欧州ミサイル防衛(MD)の要として組み込まれる、日米共同開発中の能力向上型SM3ミサイルの第3国輸出と、戦闘機などの国際共同開発への参加である。

 この企ての首謀者たちは、最低限のモラルさえ持ち合わせていないようだ。北澤俊美防衛相は11月11日、国会で「三原則は国是というところまで昇華させるに至っていない」との驚くべき答弁を行った。三原則を崩そうとする者が「昇華させる」とはよく言ったものだ。さらに、民主党「外交安全保障調査会」事務局長の長島昭久衆院議員は、ツイッター上で「(三原則は)貿易自由の原則の政策的例外であり、国是ではありません」と言い放った。彼らの主張は、以前ならば罷免や辞任に追い込まれても不思議でないものだが、批判力を衰弱させた日本社会の中では容易に埋もれていく。

 8月、首相の私的諮問機関である「新安保防衛懇」が、「武器輸出は平和につながる」との意味不明な論理を展開して武器禁輸政策の大幅緩和を提言。そして現在、「防衛計画の大綱」改定(12月10日にも閣議決定を予定)に向けた民主党「外交安全保障調査会」による提言の拙速な策定作業が区切りを迎えた。

 調査会は11月24日からようやく全国会議員が参加可能な総会を連日開いた。危険な内容に、当初「リベラルの会」などから異論が噴出した。しかし、派兵恒久法こそ「制定」を「時間をかけて議論」に押し返したものの、三原則や南西諸島への自衛隊配備、PKO5原則見直しなどへの異論は実質的に考慮されず、29日に強引に集約、30日に党政策調査会役員会に提出され「了承」された。ただ、リベラルの会による反対の意見書も合わせて提出されており、実質的に党内合意が成立しなかったことは強調されるべきだろう。

◆詭弁に満ちた外交安保調査会「提言」

 長島議員らがまとめた提言はまず、三原則が「複雑かつ不明確なものとなり、国民や諸外国から見て非常に分かりにくいものとなってしまった」との認識を表明する。これは本末転倒であろう。明瞭な武器輸出禁止原則に、対米武器技術供与の解禁やMDの日米共同開発の容認という大穴が開いたのであり、むしろ分かりやすい構図である。

 さらに「世界的潮流となった装備品の国際共同開発・生産の流れから取り残されかねない」との危惧を表明しているが、「世界的潮流」とは一握りの武器輸出大国のサークルに過ぎない。「専守防衛」を掲げる日本の武器体系が、抑制的なものであるのは当然のことだ。

 また、国際共同開発・生産の対象国として想定されている「国際的な武器輸出管理レジーム」参加国は、多くがアフガニスタン戦争における交戦国である。そうした国際レジーム自体が極めて脆弱なものであり、「紛争を助長しない」担保にはなり得ない(注1)。緩和対象国はNATO加盟国、韓国、豪州など26ヶ国にも及ぶと言われており、これではどう見ても「武器輸出国」そのものだ。

 さらに、「完成品の海外移転は、平和構築や人道目的に限定」という条件はきわめてあいまい、かつ恣意的なものに過ぎない。

 この問題の根底にあるのは、この国の民主主義の実態である。「国是」の一角を崩すことは、本来なら主権者にその是非を問うことが不可欠のはずだ。また、民主党マニフェストにも三原則の廃止の記載などなかった。

 そして、今後5年にわたる安全保障政策の指針とされる「防衛大綱」策定に立法府の関与がないことも問題だろう。三原則が国是とされる根拠の一つが衆参両院での全会一致の国会決議(81年)である以上、その変更もまた、最低限でも全会一致の形で行われるべきものだろう。

◆武器禁輸原則の強化とグローバル化を

 三原則の「不明確さ」を言うなら、まずなすべきは今までの運用の検証だ。「国際紛争当事国への禁輸」という根本原則が、最大の紛争当事国である米国の例外化という形で形骸化したことを問い直すことが先決だ。83年以降に日本が供与した武器技術により米国がどのような武器開発を行い、使用してきたのか、それは紛争を助長させたのではないかという検証こそが必要だ。

 さらには、2月に始まった、GPSを補完する測位・航法技術「画像ジャイロ」(「無人機の目」)の日米共同技術研究は、アフガニスタン等で米軍が実施している無人攻撃機によるロボット戦争の支援につながるものだ。明らかに「紛争を助長する」武器技術供与であり、三原則の理念に明確に抵触する。こうした三原則の運用違反こそをまず是正すべきだ。

 三原則を失うことの深刻なリスクが考慮されているとは言い難い。三原則に裏打ちされていた日本の軍縮会議等での一定の発言力は、著しく説得力を失うだろう(注2)。また、日本が武器輸出国となることは、紛争当事国への加担として映る。培ってきた中立性がさらに失われ、紛争地で人道支援等を行うNGOなどの人々を危険にさらすことにもなりかねない。

 経済的苦境を武器輸出の言い訳にするのは、米国の議員が地元軍需産業をバックに軍事費増大を求めるのと本質的に同じことだ。憲法に基づく理念を儲けの論理に売り渡してはならない。三原則の危機とは、立憲主義と平和主義、そして民主主義の危機でもある。失ってからありがたみが分かっても遅いのだ。

 今、本当に必要なのは、三原則の強化と地域化、グローバル化であろう。北澤防衛相や長島議員らは三原則の法的安定性の弱さにつけ込んでいる。対米例外化を撤回させて、武器輸出禁止法の制定などの形で厳格化することが必要なのだ。

 日本は三原則を掲げ、武器輸出の制限・縮小や厳格な武器貿易条約(ATT)の締結、宇宙兵器・民間軍事会社・ロボット兵器などの軍縮を主導すべきだ。そうした真っ当な政府を作り上げなければならない。「国民主権」を強調する菅首相が、国是を民意に問うことなく変更することは許されない。

 防衛省はすでに、宇宙、サイバー分野や「無人潜水艦」などの国際共同開発にも触手を伸ばすことを表明しているという(11月30日、産経)。押さえていた蓋が外れてしまえば、日本版「軍産学複合体」の欲望を制することはきわめて困難になるだろう。危険な新防衛大綱の策定を黙って見ているわけにはいかない。歴史に禍根を残さないために、主権者である私たちこそが声を上げるべき時だ(注3)。

注1)川崎哲(ピースボート共同代表)の以下の指摘には説得力がある。
<武器輸出三原則等「見直し」への疑問 本当に「紛争を助長しない」のか>

注2)2003年の国連会合で議長を務め、非合法武器の拡散防止を目指す最終報告の採択を成功させた猪口邦子軍縮大使(当時)は、「自分の中にある宝物は、自分では気付かないもの」「困難な局面を乗り越えられたのは、三原則を持つ日本が議長国だったから」(04年5月4日、東京新聞)と語っていた。ちなみに自民党議員の現在は武器輸出賛成に「転向」。

注3)政府・民主党に対する取り組みの呼びかけなどは核とミサイル防衛にNO!キャンペーンのブログを参照。
 
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