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名ばかりのイラク撤退
エリック・リーバー、ダニエル・アツモン
2009年6月24日

出典:http://www.fpif.org/fpiftxt/6211

【編集部による解説】
 2008年11月、米・イラク両国は、イラクに駐留する米軍の法的地位と撤退期限について定めた協定に合意した。そこでは、2009年6月30日までに米軍の「戦闘部隊」をイラクから撤退させ、2011年12月31日までには米軍が完全撤退すると書かれている。しかし、ここに訳出した文章の筆者は、さまざまな具体的根拠を挙げながら、今年6月30日の部分的撤退は現実には実行されないだろうと主張している。また、日本ではあまり報道されていないが、この地位・撤退協定に関するイラク国民投票のゆくえについても言及している。

【本文】
 2008年11月17日、イラクのホーシヤール・ズィーバーリー外務大臣とイラク駐在のライアン・クロッカー米国大使が、米軍のイラク撤退のための合意に調印したとき、両国の市民たちは拍手喝采した。時間のかかる撤退スケジュールに落胆する市民が多い一方で、戦争と占領に終止符を打つロードマップが示されたかに見えた。しかし、そのための第一歩であるはずの2009年6月30日を期限とするイラク都市部からの米軍撤退は抜け穴だらけで、何万人もの米兵が「期限」をすぎても留まることになる。

 この撤退合意に完全に従わないということは、米国が名ばかりのイラク撤退を目指していることを示している。期限後も5万人もの米兵が駐留を続けることになりそうだ。

 多数の軍隊が都市部に残るにもかかわらず、米国は、地位協定(SOFA)を順守していると主張する。しかし米国は、「政策」ではなく「解釈」を変えることでしのごうとしている。たとえば、バグダット市内のファルコン前進作戦基地に駐留している3000人の米兵を移転させる計画はない。ファルコン基地はバグダット市内にあるのに、都市部とはみなさないと司令部が決定したからだ。

 都市部からの軍撤退で当初意図されたのは、米軍の役割を減らすことによって、米国が間もなくイラクからいなくなるというメッセージをイラク国民に送ることだった。しかし、もはや都市部に宿営してはいない米軍が、依然としてイラク都市部での作戦活動に参加することになるのだ。米軍は、戦闘機能よりむしろ「支援」と「諮問」の役割を担うことになる。このように米軍を訓練官として「再分類」することによって、またぞろ米国は地位協定の取り決めを反故にしようとしている。

 地位協定の一番大きな抜け穴は、軍事請負業者の扱いである。イラクにいる132,610人の軍事請負業者については、ほとんど言及がない。米国防総省の報告書によると、このうち36,061人がアメリカ国民である。

 2008年9月以降、イラクから撤退した米軍は3万人にすぎない。イラクに残っている米兵の数は134,000で、2003年の数をやや下回るにすぎない。米兵の数は、2010年までゆうに10万人を超え続けると見られている。

 兵士たちを米国に帰すのではなく、6月30日の期限が適用される兵士に宿舎を提供するために、軍は農村部に進出して新たな基地を建設している。米議会はつい近頃、軍事支出法案を通過させたのだが、この法案には、イラク国内での軍事建設のための追加資金提供が含まれている。

 6月30日の撤退の持つ意味は、一目瞭然だ。イラク国民は自国の安全保障の責任を担い、米軍の指導者たちは自分たちが影響力を発揮できる方法を模索する。こうして、都市部からの撤退は、提案されている米軍の全面撤退のための重要な道筋をつくることになるというのである。

 イラクと米国の司令部が地位協定をなし崩しにして、6月30日の米軍のイラク部分撤退期限を超えて駐留するようなことがあるとすれば、それは、地位協定に示されている他の撤退期限についても不吉な前兆となろう。その上、地位協定の文言が不明確であるため、米軍が2011年12月31日の完全撤退期限を過ぎてもイラクに駐留し続ける可能性を残すことになる。

 しかし、これらはすべて水の泡と帰すかもしれない。7月30日に地位協定に関する国民投票がイラクで予定されているからだ。イラクの内閣が投票を延期しようとしているにもかかわらず、議員たちは延期されそうにないと考えている。2011年までの米軍による占領を合法化するものと見なされている地位協定への反発がイラクで広がっていることを考えると、米国のこのような手口は、国民投票にかければ阻止されると思われる。ブルッキングズ研究所の『イラクインデックス』に発表された最近の世論調査によると、73%のイラク人が連合軍の駐留に反対している。もし地位協定が国民投票でつぶされれば、米軍は法的に保護されなくなるので、ただちにイラクから出て行かなければならなくなるかもしれない。

 国民投票はオバマ政権にとって大問題となりうる。オバマ政権は、これまでひそかに、イラク政府に国民投票を行わせないよう仕向けてきた。オバマ政権からの圧力は、イラクにおける民主主義の推進という目標と相容れない。6年にもわたる占領下の生活を余儀なくされてきたイラクの人々には、自分たちの考えを主張する資格があるはずだ。

 オバマは選挙公約でイラクからの撤退を掲げた。しかし、6月30日の期限への対応、国民投票を支持しない姿勢、そして700億ドルの追加予算の通過が、本当のイラク政策がどのようなものか明確に示している。

[翻訳:清水亮子]
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