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<民主党マニフェストを採点する>
【3】子ども・男女共同参画編


漢人明子

小金井市議・みどりの未来運営委員
2009年8月15日

(1)マニフェスト(政権政策)政策集の関係
 マニフェストにはその実行手順として、
?マニフェストで国民に約束した重要政策を政治の意志で実行する。
?「税金のムダづかい」を再生産している今の仕組みを改め、新たな財源を生み出す。
?その他の政策は、優先順位を付けて順次実行する。
?政策の効果を検証し、次の年度に反映させる。
とある。

 そして、平成25年までに?に必要な所要額と?で生み出す財源が、ともに16.8兆円として示されている。?の財源確保の不確かさも指摘される中、?のその他の政策に、いったい、いつたどりつけるのか大いに疑問があると言わざるを得ない。

 政策集は「民主党の政策議論の到達点を2009年7月17日現在でまとめたもの」であり、民主党政策の全体を知ることはできるが、政権交代がほぼ確実となった今、その中からマニフェストになにをどのようにピックアップしたのかの比較検証も重要だ。

(2)「子ども・男女共同参画」とマニフェスト
 政策集の「子ども・男女共同参画」には20政策があげられている。マニフェストには、政策各論にもそのままあたる項目はなく、該当するものを探すと、「子育て・教育」「年金・医療」「雇用・経済」に次の6政策があり、所要額の合計は5.55兆円となる。

◇年額31万2000円の「子ども手当」を創設する(所要額:5.3兆円)
◇出産の経済的負担を軽減する(0.2兆円)
◇保育所の待機児童を解消する
◇生活保護の母子加算を復活し、父子家庭にも児童扶養手当を支給する(0.05兆円)
◇一元化で公平な年金制度へ
◇ワークライフバランスと均等待遇を実現する

 「子ども手当」の5.3兆円が、「子ども・男女共同参画」分野はもちろん、マニフェスト全体の所要額でも3分の1近くを占めており、これが、どのような社会ビジョンに基づき、どのような効果を期待して掲げられているのかが、民主党マニフェストを考えるうえでの大きなポイントとなる。

(3)「子ども手当」は子どもを応援しない
 「子ども手当」の政策目的としてあげられた「次代の社会を担う子ども一人ひとりの育ちを社会全体で応援する」という観点は、従来の世帯単位、家族主義から脱するものとして歓迎する。同じく「相対的に高所得者に有利な所得控除を整理し、税額控除、手当、給付付き税額控除への切り替えを行い、下への格差拡大を食い止める」という所得税改革との連動についても、方向性としては評価できる。

 しかし、「子ども手当」はこの目的に適った政策と言えるだろうか。

 具体的な子どもの育ちをめぐる環境の改善や向上につなげるものとは立てられていない。「子ども一人ひとりの育ちを社会全体で応援する」のであれば、最も応援を必要とする「子どもの貧困化」対策を最優先すべきであり、5.3兆円は保育サービスの充実や必要な要所への人材配置など基盤整備に当てるべきではないか。圧倒的に足りない保育所と働き続けることが難しい低賃金の保育労働者、過酷な労働環境のなか減り続ける小児科・産婦人科とその医療従事者、増加・深刻化する児童虐待に対応しきれない児童相談所をはじめとした機関やその職員など、緊急的にも恒常的にも対策・財政措置の必要性の高い現場はいくらでもある。

 また、所得制限や会社負担のある児童手当の廃止により、高所得世帯や大企業が優遇されることになるという矛盾も指摘されている。「格差拡大を食い止める」のであれば、所得税改革はすっきりと累進課税の強化とすべきである。

 民主党は8月11日、マニフェストの「表現の補強」として、「雇用・経済」の項に「日本経済の成長戦略」として「子ども手当、高校無償化、高速道路無料化、暫定税率廃止などの政策により、家計の可処分所得を増やし、消費を拡大します。それによって日本の経済を内需主導型へ転換し、安定した経済成長を実現します」と明記することを発表した。

 5.3兆円が選挙向けのバラマキであり、消費拡大による経済成長政策としての側面がかなり強いことが明らかになったと言える。

(4)「子ども・男女共同参画」政策の基本
 「少子化対策」ではなく「子ども・男女共同参画」とし、「子ども一人ひとりの育ちの応援」「真の男女平等」を掲げていることは大いに評価したい。しかしその実現には欠かせない「教育」や「労働」のあり方に関する党内での一致、政策全体での整合性については疑問がある。

 ジェンダーフリー教育やリプロダクティブ・ヘルス/ライツなどの男女平等政策、子どもの権利政策の推進を阻み、後退もさせてきたバックラッシュ勢力には、民主党の国会議員、自治体議員も名を連ねてきた。

 子ども政策、男女平等政策とも、長時間労働の解消=労働時間の短縮が大きなポイントとなり、経済成長路線の見直しとも連動した労働政策や社会ビジョンが必要だが、これが示されていない。

(5)政策集各項について
《保育サービスの充実》
 マニフェストにも「保育所の待機児童を解消する」とあるが、【所要額】の記載がない。子どもが育つ環境を保障し、男女が平等に働く条件を整えるためには、保育サービスの大幅な整備が必要であり、重要政策としてマニフェストでその工程も明記すべきだ。

《児童虐待防止対策の充実》
 「子どもたちへの支援体制や保護者の相談体制の充実、児童相談所など関係機関の機能強化」は当然だが、そのための人材の配置、公的な責任、財源措置への言及がない。

《女性も安心な年金制度の確立》
 マニフェストにも「一元化で公平な年金制度へ」としてうたわれている。年金制度一元化、所得比例年金、消費税を財源とする最低保障年金は評価するが、その額は7万円では少ない。生活保護水準を保障すべきである。

《ワークライフバランスの実現》
 「労働」分野にやや詳細な記載があり、マニフェストにも「ワークライフバランスと均等待遇を実現する」が盛り込まれているが、不十分。子どもの育ちが平等に保障されるためにも、男女が平等に「ライフ」部分を豊かにできる政策が不可欠であり、大胆な労働時間短縮が求められる。

《真の男女平等のための基盤づくり》
 「男性の家庭参加促進教育」「人権に密接にかかわる仕事の従事者への男女平等教育」「政策・方針決定過程への女性の参画を拡大するためクォータ制を含む積極的差別是正措置」「雇用の分野における真の男女平等」は、あらためて重要性を認識し、具体的な取り組みを示し進めるべき課題である。

《選択的夫婦別姓の早期実現、嫡出推定制度の改善》
 特別な財政措置は必要ない。早急な法整備を期待する。

※このシリーズ<民主党マニフェストを採点する>は衆議院選挙後の分析論文も加えてパンフレット『民主党政権を採点する』として発行しました。詳しくはこちらをご覧ください。
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