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財政赤字が増え続けても大丈夫なのか

               白川真澄

                              

 日本は巨額の政府債務[国債残高883兆円、その他の政府短期証券や財投債を合わせた「国の借金」は18年度末で1239兆円、対GDP比は218%]を抱えているのですが、《借金=国債残高を増やし続けても大丈夫》という議論も堂々とまかり通っています。最近では、MMT(現代貨幣理論)が持て囃されています。こうした議論は、社会保障財源の持続的な確保のために公正な増税を断行するべきだという提案に反対する、あるいは足を引っ張る役割を演じています。
※詳しくは、白川「金融・財政政策の論点 その2――日銀が大量の国債を保有するリスクについて」18年12月14日、PP研WEBを参照されたい)。

■経済成長すれば財政赤字は問題ではない?

 その1つは、《経済成長率(名目)が長期金利を上回るならば、債務残高の対GDP比は低下するから、赤字財政を続けることは可能である》という主張です。
 これは、名目成長率 > 長期金利であれば赤字財政も持続可能である、という「ドーマーの条件」に依拠して主張されます。安倍政権は、「財政健全化」の指標としてきた「PB(基礎的財政収支)の20年度までの黒字化」が絶望視されるため、「債務残高の対GDP比の安定的な引き下げ」を「財政健全化」の新しい指標として前面に持ち出した(「新財政健全化計画」18年7月)。

      国・地方の公債残高の推移の見通し
          2017年    2020年    2027年
対GDP比    188.2     183.7     157.1
名目成長率     1.7      2.8      3.5    (単位:%)
          (内閣府「中長期の経済財政に関する試算」18年7月9日)

 この議論は、経済成長さえすれば増税がなくても財政再建は可能である、という経済成長主義の論理です。例えば、「経済成長すれば、そのぶん税収が増える」から「増税せずとも財政再建ができるし、社会保障も維持できる」(高橋洋一『日本はこの先どうなるのか』、16年、幻冬舎)、と堂々と主張される。
 実際はどうか。
 安倍政権で想定されている名目3.5%(23?27年度、実質2.0%)という高い成長率は、アベノミクス6年の実績(名目1.9%、実質1.2%)からすれば、まったく根拠に乏しい願望にすぎません。
 また、成長率が高くなれば、長期金利も上昇します。内閣府の「試算」では25年度までは長期金利が名目成長率を下回る(21年度は2.7%、25年度は0.9%下回る)とされているが、27年度には名目成長率=長期金利(3.5%)となる。
 名目成長率の想定が高すぎるから、長期金利が20年代に入って毎年0.5%ずつ上昇する(21年度0.3% → 27年度3.5%)ならば、早々と名目成長率 > 長期金利が成り立たなくなる。つまり、債務残高の対GDP比は低下しなくなります。
財務省自身が紹介している大和総研の試算(19年3月)では、債務残高の対GDP比はゆるやかに上昇し20年代半ば(23?27年度)には195%で高止まりするだろうと予測しています(図12)。経済同友会の試算でも低下していない。安倍政権の想定がいかに現実離れしているかが分かります。

■借金は500兆円にすぎない?

 次に、《政府の純債務残高(債務残高から資産額を差し引いた額)は1000兆円の半分にすぎず、大騒ぎすることはない》という主張があります。政府の「粗債務から資産を差し引いた純債務がいくらになるかと言えば、『1172兆円?680兆円』で、約492兆円だ。つまり、日本の実質的な借金は、巷間で言われている1000兆円の半分以下ということである」(高橋、前掲)。
 純債務は、2017年度には次のようになっています。

純債務A 569兆円(負債1239兆円?資産※670兆円) 
純債務B 494兆円(国債848兆円?金融資産354兆円)
           (2017年度末  ※資産には有形固定資産を含む)

 事柄の本質は、純債務残高もどんどん増え続けていることです。対GDP比でも119.9%(17年、10年は106.2%、IMF)と世界最悪です。

 純債務残高(負債?資産)の推移
 2003年度  2008年  2013年  2017年
  245.2   317.4   490.4   568.4 (単位:兆円)
   (財務省「わが国財政の現状について」2019年4月17日)

 純債務残高が1000兆円の半分にすぎないから大丈夫だという議論は、債務が増え続けている事態に目をつむる気休めの議論でしかありません。

■政府債務が増えてもインフレが起こっていない

 《日銀による国債の事実上の直接引き受けになっているが、心配される高インフレにはなっていないから、国債を増発し続けてもよい》という主張もあります。これだけ政府債務が膨らんでいてもインフレになっていないのだから、借金を続ければよい、つまり国債を増発して、それを日銀が買い取り・保有すればよいというわけです。
 政府が発行する巨額の国債は、いったん民間金融機関が購入する形で消化されるのですが、すぐに日銀が高値で買い取って保有しています(年間80兆円を買い取り、現在は半減)。日銀による事実上の国債の直接引き受けになっている。これは、戦争中の経験から政府による借金を無制限に許しインフレを招くということで禁じられている。しかし、実際には日銀による国債の直接引き受けになっているにもかかわらず、心配される高インフレ(ハイパーインフレ)はたしかに起こっていません。
 そこから、リフレ派(高橋洋一、松尾匡ら)は、デフレ期には日銀が国債を大量に買い取って資金(緩和マネー)を供給しても、インフレにはならずに景気回復と雇用拡大に役立つ、と主張します。これは、MMT派のケルトンやレイが日本について主張したことで話題になりました※。
「日銀が緩和マネーで国債を引き受けて、政府が財政支出を増やし、福祉・教育・医療などに充てる……ような政策をとっても、財政が悪化するわけではありません。インフレの懸念が懸念されるため、『禁じ手』と呼ばれますが、デフレ経済では問題ありません。大事なことは、インフレを適切に管理することであって、短期的に財政のつじつまを合わせようとすることではありません」(松尾ほか「民進党が勝利する経済政策のために」16年9月5日)。
 ただし、リフレ派も、インフレ目標が達成されてもこの政策を続けるとインフレが進行する。したがって、2%を超えて物価が上昇する局面に入れば、日銀が金融引き締め政策に転じてインフレを抑えればよい、と主張しています。「やがて経済が完全雇用の『天井』に達し、インフレ率が政府のインフレ目標を超えて高まった時には、政府(日銀)はインフレ抑制策を実施せねばなりません。……。日銀の持っている国債を売って、通貨を市場から吸収すればよいのです。……そうやって民間が保有することとなった国債については、満期が来たら政府がおカネを返さなければなりません」(松尾ほか前掲)。
※MMTについては、白川「MMTは日本を救うか」(19年6月、PP研WEB)を参照されたい。

■失敗がもたらした「安定」

 日銀は、「異次元の金融緩和」によって大量のマネー(マネタリーベース)を供給してきました。13年から5年間で365兆円もマネーを増やした。しかし、そのお金は設備投資や賃金の増大として市中(企業や個人)に出回らず、日銀の当座預金に積み上げられただけです(同期間に340兆円の増大)。したがって、高インフレは引き起こされていないが、2%のインフレ目標も達成されていない。
 もともと大規模な金融緩和の狙いは、2%の物価上昇の実現にありました。そのシナリオは、《2%のインフレ目標達成まで金融緩和を継続 ➩ 人びとはインフレを予測=期待 ➩ お金の価値が下がる(実質金利の低下) ➩ 借金したり手元のお金を消費や設備投資に回す ➩ 景気回復》というものでした。ところが、大規模な金融緩和による2%のインフレの実現という政策は、見事に失敗した。
アベノミクスは、その行き詰まりが目に見える形で現われず、激しい批判を浴びることを回避できています。アベノミクスを評価する38% 評価しない43%(朝日新聞19年6月24日)と、評価は拮抗している。
その大きな理由は、皮肉にも2%のインフレ目標を達成できなかったことにあります。インフレが目に見えて進行しなかったことが、アベノミクスに対する強い不満や憤りを招かなかった。給料が実質的に減り続ける状況で2%のインフレになっていれば、人びとの生活はいっそう苦しくなったでしょう。インフレ目標を達成できなかったことが安倍政権を助けた。皮肉にも「失敗が安定をもたらす」という現状になっているわけです。
 日本経済は、2%のインフレ目標だけが達成されないまま、デフレから脱却しています。失業率は2.4%で「完全雇用」に近い状況です。需給ギャップは、16年秋から需要が供給を上回るようになって解消されている。物価が継続的に下落する事態(デフレ)からは抜け出して、1%程度のゆるやかな上昇が続いている。政府も「デフレではない状況」と認めている。しかし、「デフレ脱却」宣言をしません。宣言しないまま年金のマクロ経済スライドを発動して、年金を実質的に引き下げた。ケシカランことです。
 リフレ派は、現在もデフレ局面だと言い張って(その論拠は2%のインフレ目標の未達成?)、金融緩和の継続による財政ファイナンス、つまり日銀の国債購入による「緩和マネー」の創出を主張しています。
 リフレ派は、デフレを脱却し物価がインフレ目標を超えて上昇すれば、金融引き締め政策に転じればよい、と気楽に言っている。しかし、日銀が大量の国債を抱えて場合には、金利の引き上げや国債売却による資金吸収(売りオペ)といった金融引き締めの手段をタイムリーに行使することが難しくなる。金融政策の「正常化」の自由度が狭められているのです。リフレ派はこの点を見ておらず、インフレ抑制(=管理)が容易にできると思い込んでいる。
この点は後で触れますが、松尾たちケインズ主義者は、インフレ抑制などマクロ経済政策の有効性を過大評価し、経済政策によって経済を望むようにコントロールできるという発想が強い。「経済学の知見によれば、不況は金融政策と財政政策によって『治療可能な病』であり」(朴勝俊ほか「宮部彰さんに問う」)といったことを、平気で言う。いいかえれば、グローバル化や少子化による人口減少といった構造変化を無視し、マクロ経済学のモデルの限界性を直視せず、経済政策の力を信奉する。ここに致命的な弱点があります。

■超低金利が財政危機を隠蔽

 これだけ財政赤字が膨らんでも危機が表面化していない最大の秘密は、超低金利が続いているからです。
 借金をもっと増やしても大丈夫という主張の一つとして、《日銀が発行された大量の国債を購入・保有すれば問題ない》という議論があります。その論拠として持ち出されるのが、日銀は政府の子会社であるという「統合政府」論です。《「統合政府」の観点から見れば、政府の債務としての国債は日銀の資産としての国債によって勘定の上で相殺され、政府の対民間債務は消えてなくなる(財政再建は達成されている)》という議論です(図13)。
 「統合政府のバランスシートで見れば、政府の債務である国債残高は、日本銀行が保有する国債資産で相殺されるから、今の日本の財政問題はほぼなくなった」(高橋洋一「教育投資の財源は『こども保険』より『教育国債』が筋がいい」、「DIAMOND online」17年5月12日)。
国の貸借対照表(17年3月末)によれば、国債残高は848兆円だが、金融資産354兆円を差し引くと純債務(負債)は約500兆円(494兆円)になる。一方、日銀が保有する資産としての国債は437兆円(17年6月)。したがって、両者は相殺され、債務はほとんど消えてなくなる、というわけです。
 しかし、政府債務は消えたはずなのに、現実には多額の国債の利払いと償還が行われ続けています。そして金利が上昇すれば、利払いが急増するから国債費は増大し財政を圧迫する。つまり社会保障や教育への財政支出を削らざるをえなくなります。
 この間、国債を日銀が大量に買い上げる異次元金融緩和に加えて、企業がカネあまりで資金需要が弱いことから、長期金利がゼロ近傍になる超低金利が続いている。この超低金利のおかげで、国債の利払い額は約9兆円の水準で横ばいであり、国債費(利払い+償還)も23兆円強(歳出全体の23%)と微増にとどまっています(図14)。
 しかし、名目1.8%、実質1.2%(22?27年度)の低成長が続く場合でも、長期金利は2%近くに上昇するから、国債費は33.2兆円(27年度、歳出全体の28%)に増えます。安倍政権が望むように名目3.5%、実質2.0%の高い経済成長の場合は、長期金利は毎年0.5%ずつ上昇し3.5%にまで上昇するから、利払い額はもっと膨らむ。そうなると巨額の債務を抱えているリスクが表面化し、人びとも事柄の大変さに気づくでしょう。
 これに対して、《日銀が国債の4割を保有しているから、支払われた利子と償還分は日銀に入り、国庫納付金の増大として政府に還元されてくる》という反論がされる。「日銀が保有する国債に対する利払いは、最終的には日銀から政府への納付金ということで、政府の『その他収入』となる」(高橋「財務省は『借金』だけを見て財政再建を言うから間違える」「DIAMOND online」17年5月12日)。
しかし、巨額の国債費はすべて日銀に支払われるわけではありません。また、日銀が債務超過に陥ることが確実視されるなかで、国庫納付金が増えることは困難でしょう。

■日銀が国債の4割を保有するリスク

 日銀が保有する国債は5年間(13年3月→18年3月)で急増して437兆円、国債発行残高の43.9%に達しています(図15)。
 日銀は国債を資産として保有していますが、それに見合う日本銀行券と当座預金を負債(債務)としています。とくに当座預金は387兆円(18年10月)にも増大している(図16)。日銀は、国債などの資産運用で金利収入を得る一方で、当座預金の大部分に利子を付ける。国債の運用による利子収入と当座預金への利払いの差が通貨発行益(シニョレッジ)であり、このなかから国庫納付金が政府に支払われるわけです。
 超低金利の下で、国債の平均利回りは0.4%という低い水準にとどまりますが、当座預金の利子(付利)も0.1%にすぎないので、利ザヤ(国債からの利息収入 > 当座預金への利払い)が得られます。16年3月期には、国債などの利息収入(および株からの運用益)が1兆5190億円、当座預金などへの支払いが2220億円で、利ザヤは1兆2970億円。
 しかし、原油価格の高騰、急激な円安など経済情勢の変動によってインフレが進行し金利(政策金利)を引き上げる必要が生じると、当座預金への利子の水準も引き上げられます。この付利を0.4%以上に引き上げるだけで、逆ザヤ(国債からの利息収入 < 当座預金への利払い)が発生します。金利上昇に伴って国債の運用利回りも上昇するが、それは遅れて緩やかにしか上昇しないから、当座預金への付利が上回る。逆ザヤが1%発生すると、当座預金が300兆円を超えているから年3兆円以上の損失が発生します。
 《統合政府として見れば、政府の対民間債務は消滅する》という議論は、日銀の国債保有の増大に対応して負債としての当座預金が増え続けているという問題を無視しているのです(この点を指摘したのは、翁 邦雄である)。超低金利の下では当座預金の利払いは国債からの利子収入を下回っているが、金利が上昇すると当座預金の利払い問題が顕在化します。
 金利引き上げは、インフレ目標が達成されると(あるいは達成されなくても)、異次元の金融緩和政策を転換し「正常化」する(「出口」)過程で必然的に行われます。そこで、逆ザヤの発生による経常赤字の累積によって、日銀にどのくらいの損失が生じるのか。金利を2%にまで引き上げるというシミュレーションによると、24?30年度に累計約19兆円(岩田一政・左三川『金融正常化へのジレンマ』、18年、日本経済新聞出版社)、あるいは22?28年度で累計約14兆円(吉松崇ほか『アベノミクスは進化する』、15年、中央経済社)の損失が発生する。
 これだけ巨額の損失が生じれば、日銀はそれを自己資本などでカバーできず、債務超過に陥ります。それは政府の公的資金投入によって補うしかなく、新たな税負担が生じるでしょう。これに対して、リフレ派は、日銀が債務超過に陥っても、日銀の自己資本には経済的な意味はないし、いずれ自己資本も回復するから、債務超過を放置しておいても問題もない、と主張します(吉松、前掲)。
 しかし、日銀が一定期間とはいえ債務超過に陥ることは、政府への国庫納付金が支払えなくなる(歳入の税外収入分が減少する)だけではありません。それは、中央銀行に対する信認を揺るがし、金融政策への不信や金融システムの不安定性を招くことになります。
 金利の上昇は、さらに厄介な問題を引き起こします。それは国債価格の低落を招くから、大量の国債を資産として抱える日銀に含み損が発生します。日銀自身が、金利が1%上昇しただけで含み損が20.6兆円に達すると公表しています。
 そのため、日銀は、買い入れてきた国債、つまり値下がりした国債を売却することができず、満期になった国債の償還を待つしかなくなる。したがって、インフレ対策として、保有する国債を売却して資金を吸い上げる金融引き締め(売りオペ)の実行が封じられます。

■インフレ抑制と低金利維持

 リーマン・ショック後の先進国の経済では、緩やかな景気拡大を続けながらも低インフレ・低金利・低成長が常態化してきました。とくに日本は、低成長・低インフレ・低金利が続く典型となってきた。低インフレは低金利の継続を許容し、低金利は国債の利払いを軽くしますから、大規模な金融緩和に支えられた財政拡張が可能になってきました。日本では、ゼロ金利が続いたことが財政規律を緩め、「財政ファイナンス」を可能にする条件となってきた。超低金利は経済停滞の表現にほかなりませんが、皮肉にもそれが財政危機の表面化を押しとどめてきたわけです。
 日本の潜在成長率は、1%を切っています(0.78、日銀18年1月)。また、上場企業が予想する「今後5年間の日本の成長率」は実質で1.1%です(内閣府「企業行動に関するアンケート調査」18年1月)。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの予測する20?25年度、26?30年度の実質成長率は0.8%、0.7%にすぎない。そして、70%の人が「日本の経済がこれから成長することは期待できない」と予想している(「期待できる」は23%、朝日新聞19年1月13日)。したがって、今後も人口減少のなかで1%前後の低成長が続くという見通しにリアリティがあります。
 しかし、低成長が続く場合でも、インフレ、例えば2%を超える消費者物価の継続的な上昇が出現する可能性はあります。原油価格の高騰や急激な円安が輸入品価格を上昇させる、あるいは深刻な労働力不足による賃金上昇がサービス分野(小売や飲食など)の価格を上昇させるといった可能性である。景気のめざましい拡大や経済成長の加速だけがインフレを招くとは限らないのです(スタグフレーションの経験)。
 インフレが進行した場合、これを抑制・コントロールする日銀の金融政策として採られる主要な手段は、金利(政策金利)の引き上げと売りオペ(保有する資産や株の売却によるマネーの吸収)です。しかし、この金融政策の発動は、日銀が大量の国債を保有している異常な状態の下では、大きなジレンマに直面します。
 すでに見たように、金利引き上げは、日銀が負債として抱える巨額の当座預金への利払いを急増させ債務超過に追いこむ可能性がある。また、資産として保有する国債の価格を下落させ巨額の含み損を発生させる。したがって、金利の引き上げ、あるいは売りオペといった金融政策の発動を制約したり難しくします。
さらに、インフレ抑制のために金利を引き上げようとする日銀(金融政策)と国債の利払い抑制のために低金利を維持したい政府(財政=国債管理政策)との対立が表面化することが予想されます。この対立は、米国の政策金利の引き上げをめぐって、利上げをめざすFRBと減税によって膨らむ債務の利払い軽減を求めるトランプとの対立として現われました。結果的にFRBが押し切られ、景気拡大のための利下げにまで転じようとしています。
 すでに、日銀は400兆円を超える巨額の国債を保有することによって、インフレの出現に対して有効な金融政策を発動することはおろか、「出口」=金融正常化(金利引き上げや資産減らし)に踏み出すことも困難であるという身動きできない状態に置かれています。「深刻なのは、日本銀行が、異次元緩和の果てに中央銀行としての機能を失いつつあることだ。次のショックが起きても、『打つ手』がなく、日銀自身も打撃を受ける『リスク』が高まっている」(金子 勝「日本経済最大のリスクは金融ショックに打つ手がない『中央銀行の死』だ」、「DIAMOND online」18年10月31日)、という指摘はけっして大げさではない。
 低成長・低インフレ・低金利が続けば、財政危機が一挙に表面化することはないでしょう。しかし、巨額の政府債務を抱えていることを過小評価し、どんどん借金しても大丈夫だと振れまわるのは、無責任です。社会保障の拡充のために必要とされる財源を確保するために、「公正な増税」の必要性を考えていかなければなりません。

※本稿は、「消費増税をどう考えるか」?(「座標塾」第15期第2回、「テオリア」19年8月10日号に掲載)の最終章である。いま、MMTやれいわ新選組の政策主張との関連でホットな論争になっているため、この章だけを独立に取り出した。
なお、図12(国債残高の対GDP比の見通し)、図13(統合政府の論理)、図14(国債の利払い費と金利の推移)、図15(国債の保有者別内訳)、図16(日銀の当座預金の急増)は省略してある。
                              (2019年8月1日)
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