メニュー  >  日本政府、軍部は戦争による解決を求めるのか/武藤一羊
『反「改憲」運動通信』第7期No.10(2012年10月3日号)掲載
日本政府、軍部は戦争による解決を求めるのか


武藤一羊

 日本政府によれば、尖閣諸島・釣魚島(台)をめぐっては領土問題は存在しない。なぜなら島はもともと日本国の固有の領土だからだという。では、1972年以来これらの島をめぐって起こってきたこと、そしていま起こっていることは、何なのか。北京は中国固有の領土と主張し、台湾は台湾の一部と主張し、それぞれ歴史にさかのぼり、第二次大戦の戦後処理を引用して、領土権を主張している。これが領土問題、領土紛争でなくてなんであろうか。

 それなのに領土問題が存在しないと主張することは、論理的には戦争で解決するしかないと告げることに等しい。領土問題であるならば、それを交渉によって解決する道が開ける。しかし領土問題がないと宣言することは、当該領土の帰属については交渉しないという立場を宣言することだ。交渉しないなら武力で支配下に置くしかない。その武力行使の主体は国家であるから、解決は戦争によることになる。野田内閣は、マスコミは、選んだのがその道であることを、その重大性を、自覚しているのだろうか。

 私は今回の尖閣をめぐる事態は、日中を戦争の瀬戸際に引きずっていくことで、戦略的敵対関係に置きたい勢力が、そのために仕組んだ謀略かもしれないと、疑うところまできている。私は謀略史観には極端に警戒的だが、少なくとも挑発者石原は、尖閣の東京都による買い取りという公私混同・職権乱用の挑発に打って出ることで、今日の敵対状態を招くことを意図したことは間違いない。そのようなべらぼうな行為が袋叩きにも会わず、メディアにも寛容に扱われ、ついに野田政権による国有化という挑発的な姿で日中関係のノドに突きささる。それが現在の状況だ。たまたまそうなってしまったというものでなく、意図され予見され仕組まれていたと見るほかない。

 戦略的にはこれまでの「基盤的防衛力」コンセプトを廃止して「動的防衛力」、つまり機動部隊と陸自でつくる海兵隊でどこへでも出かけていけるようにした。そして島嶼防衛と称して、昨年来、自衛隊独自の統合演習、米軍との合同での演習を、中国軍に占領された尖閣の奪還戦の想定でやった。独力では無理なので米軍を呼び込みたい。それには集団的自衛権が不可欠、という組み立てである。尖閣での武力衝突を機会に一気に改憲までもっていく。それが基本的シナリオであろう。だが、まだ憲法はあるので、交戦権はない。だが尖閣が紛争対象地でなく固有の領土であるなら、例えば九州への「着地侵攻」撃退と同じ自衛の論理で、島奪回の上陸作戦ができる。新防衛大綱に「専守防衛」が残されたことと、領土紛争不存在の立場は補い合っている。

 この戦争挑発に乗って、雪崩のように破滅に走るのか。

 解決の第一歩は、これが領土紛争であると認めることだ。そして交渉による解決という原則に戻ることだ。それが決め手である。

(武藤一羊/ピープルズ・プラン研究所)
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