『季刊ピープルズ・プラン』48号(2009年秋号)
【特 集】生存権

プロジェクト報告

オルタナティブ提言の会報告

 「オルタナティブ提言の会」は今年四月に呼びかけを始め、6月より月1回のペースで討論を続けている。毎回15?20名のメンバーが集まり、報告者からの発言と討論という形で4時間をかけての議論だ。以下に、第4回「農業と地域社会」と第5回「グローバル資本主義に対抗する」の内容を報告する。

第4回「農業と地域社会」(10月11日)

 問題提起の報告は農業ジャーナリストの大野和興さん。話は現在の農業のすさまじい崩壊・解体ぶりから始まる。農業の貧困化は実態を知れば知るほど背筋が寒くなるようである。とくに大野さんが強調するのは、大規模農家の経営破綻や、これまで日本の農業生産を支えてきた兼業農家の崩壊、農地価格の暴落、農民の高齢化などが示すように、規模、形態にかかわらず、あらゆる形態の農家が、全面的な解体状況にある、ということだ。そしてこのような状況は、農業にとどまらず、その地域の製造業や卸売業、地元商店街へとそのまま連鎖していく。

 ではどうするか。大野さんは問題を三点に絞って提起した。一つ目は農家の所得保障の問題。かつては日本にも「食糧管理制度」という優れた価格維持政策があったが、WTO体制のもと、価格保障は貿易秩序を乱すという理由から急速に姿を消してしまった。農家の暮らしをどのように保障するかは、社会全体に貧困が広がって生活保護でも最低賃金でも食べていけなくなっている人びとが増えている現在、ベーシックインカムの議論とも重ね合わせて考えていく必要がある。

 二つ目は土地の問題。農地価格が暴落するなか、農地法が改正され外部資本が入ってきているが、企業にばかり農地利用を委ねてよいのだろうか。「土地は誰のものか」という問題に立ち帰って土地所有制度を考えていく必要がある。農民以外の市民にも土地を利用する権利を持つことができる「市民的土地所有」という新しい概念を打ち出せないかと提起。

 第三に、「自由貿易」について。いま「自由貿易」対「保護主義」という決まりきった二者択一の議論しかないなかで、「自由貿易」が批判してはいけないものとして聖域化されていることは大きな問題。しかし、ただ自由貿易反対ばかりを言うのではなく、もう一度交易のあり方から解き明かしていきたいと話した。

 続いて二人のコメンテーターから発言があった。佐久間智子さん(環境・持続社会研究センター)は、人びとと自然との接点が失われていることの問題や、「食」・「農」の問題は生産者だけでなく消費者の側からも考える必要があることを強調した。山浦康明さん(日本消費者連盟)は自身が関わってきた消費者運動のなかで、「食」の問題が重要なテーマとなって浮上してきた歴史に触れながら、遺伝子組み換え食品や体細胞クローン家畜が経済効果を期待されて、市場化の準備が進められていることを報告した。これらが世界的に拡大していくことに対して、本当に「食の安全」が守られるのか強い懸念を持っているという。

 討論では、農業の主体になりうるのは誰か、生産者と消費者の関係、貧困の連鎖、賃金と社会的コスト、地産地消と流通、等々いくつもの論点が出された。農村各地域の努力やアイディアに期待するのはたやすいが、本来70歳、80歳になった人たちが普通に暮らし続けられる前提が必要であること、都市の貧困あるいは第三世界の貧困問題と直面するなかで、私たちは生産者も消費者もともに食べていける仕組みを考えていく必要があること、制度や政策だけでなく、暮らし方、働き方など、私たちの価値観の転換も必要など、さまざまな視点から意見が交わされた。

第5回「グローバル資本主義に対抗する」(11月15日)
 この回は金子文夫さん(横浜市立大教員)に報告を、千村和司さん(国際連帯税を推進する市民の会[アシスト])と稲垣豊さん(ATTACジャパン)にコメントをお願いした。

 金子さんは、金融資本主義の破綻状況、金融規制の実情、通貨取引税の実現に向けた動き、IMFやG20などの金融システム体制の問題などを、多くの統計や指標をもとに話した。世界的に株式市場や経済成長率がプラスになっているのは、各国政府が相当無理してカネをばらまいた結果で、そのカネが一部金融市場へ流れてミニバブル的な状況になっているのが実態だろう。一方で規制の手段として注目を集めている「国際連帯税」は、実現の可能性が高まっており、リーディンググループでは作業部会をつくることがすでに決まっているようだ。

 新興勢力、とくに中国が発言力を強めるなかで、国際政治の場はG8からG20に移ってきている。しかしG20にせよIMFにせよ、どれだけ実効力をもって解決にあたれるのかは不透明な状況だ。そうした中で私たちは、市場原理主義批判を強めながら、新しい金融体制を模索していく必要がある。

 続いて千村和司さんは、国際連帯税導入に向けた政治的動きが急激に活発化するなかで、「アシスト」は市民的合意の形成を重視しながら活動していきたいと考えている、今後さらに動きが具体化していく過程では、大きな枠を見失わずに議論していきたいなどと話した。また稲垣豊さんは、金融資本主義に対する規制を訴えてきたアタックの主張を、ヨーロッパアタックの発言を中心に紹介した。とくにG20に対する批判は厳しく、彼らのいう「規制」は抜け道が用意されたもので実効性はないのではないか、私たちの運動は「G192」構想(国連を金融改革機関として位置づける構想)のような主張ももっと取り上げて議論するべきだろうなどと話した。

 討論ではまず、「国際連帯税」の主体(執行役)について議論になった。今のIMF、G20、国連は、非民主的な組織であり認められないという点で意見は一致したが、組織が改良されればいいのか、それとも新しい組織を作るべきか、実現の可能性は、など意見が分かれた。そのほか、グローバル経済自体の規制や日本経済のあり方、金融経済の問題、暮らしの質の重要性など、討論は活発におこなわれた。

 これまでの討論の記録はPP研ウェブサイト(http://www.peoples-plan.org.jp)に掲載している。
(塩沢)

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