『季刊ピープルズ・プラン』50号(2010年春号)

OPEN報告
第2回 作る・買う・食べる――国境を超える生産と消費


 発言者のお一人、菅野芳秀さんは、米と鶏卵を中心とした営農状況、米どころの長井市の状況についてまず話された。米60キロ当たりの経費は16000円あまりかかるが、農協に売ると13000円にしかならない。このマイナス分を一般農家は兼業によって補填しているのが実情だが、その兼業も不況で危うくなってきている。生協との連携も「オルタナティブ」ではなくなりつつある。また農家の平均年齢は67歳、一番多いのは80歳前後。あと5年、10年農業が続けられるかどうか。日本の穀物自給率は、飢餓が騒がれる北朝鮮の半分しかない。長井市の山並みや田園の美しい写真が紹介されたが、春には田んぼの畦が除草剤で赤く枯れる風景になるという。高齢者が農業を続けるには農薬を使うしかない。高齢化によって農民が減って、その結果農業が大規模化し、さらに農薬使用が進むという循環になってしまっている。

 こういう現実の中で1090年のピープルズ・プラン21で出された「希望の連合」という考え方との出会いがきっかけとなり、現状に対する対案としてレインボープランを市民の力で立ち上げた。人口3万人、世帯数5000の長井市で、生ゴミをほぼ100%回収し、堆肥化し、地元の田畑で使うという食・農の循環に、すべての市民が関わるシステムを作って10年になる。この体制ができるまでには都市の市場を経由した野菜を買って食べていたが、レインボープラン堆肥を使った地元野菜を消費するようになり地域自給率も上がった。生命・循環・共生・自給・民主主義など7つの条件を謳ったこのプランは、市民一人ひとり、行政、農協、業者が加わり出来上がってきたが、構成員が多いだけ困難も多かった。ゼロからの出発などとも言われたがマイナスからのスタートと言う方が自分には近い。26歳で就農し、翌年には減反拒否をして村八分状態になる。学生運動時代に起訴された裁判も33歳まで抱えていた。しかし夢を語り続けることによって次第に理解者も出てきてくれた。一方で、人は理想だけでは動かない。どんな「利益」があるのかを説くことも重要。討論のなかで農村の疲弊について家父長的閉鎖性が指摘されると、そんなことはない、と菅野さんは反論されたが、自分の息子は農業を継いでいるが、百姓の嫁にはしたくない、と妻とアパート暮らしをしながら「通勤」してきている話も披露された。

 もう一人の発言者、あぷら事務局長の吉澤真満子さんは、単なるフェアトレードに留まらない、地域自立を目指すNGOあぷらの取り組みを紹介された。フィリピン・ネグロス島では3%の地主が七割の土地を所有、砂糖キビの典型的な単作農業だったが、砂糖の国際価格が暴落。その苦い経験からふたたび餓えることのないようにと、日本の生協運動、産直運動と連携し、プランテーションの低賃金砂糖労働者から自立した農業、いのち、自然、暮らしを守る農業への取り組みが開始された。産品は黒糖や、地元と競合しないバナナ品種等を選択し、人から人への「民衆交易」を展開してきた。自給・自足だけでなく、自治・自決なども大切にし、農業技術なども学ぶための実習農場を開設して研修も進めている。また支えあう、ということを確認し合うためにもスタディツアーなどを実施して交流を深めている。あぷらの活動はフェアトレードの一つでもあるが、フェアトレードというシステム、価値観は発展途上のものであり、南北の構造や格差に対抗しうるものとなっているか、つねに検証も必要であると指摘されていた。

 講師お二人とも向かうべき社会への展望とそれに向けての力強い実践を話され、勇気がわくとともに、多くの問題も提起され、理解や論議を深めるには極めて時間不足であった。私としても消化不良の部分が多いので、ぜひフォローアップのためにも続きをお願いしたい。
(大畑豊/非暴力平和隊・日本) 

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