『季刊ピープルズ・プラン』67号(2015年1月30日号)
【特集】資本主義――アンダークラスの問いかけ

特集にあたって

 アベノミクスの大きな罪は、格差をあからさまに拡大したことである。株価は政権発足時から一年半で一・六倍に上昇し、これによって個人の金融資産は一六四五兆円(一四年六月末)と過去最大になった。一年半で九三兆円も増えたことになる。株を保有している全体の一一%に当たる人間はますますリッチになり、宝飾品や高級腕時計などの購入に走った。しかし、株をもたない大多数の人びとにとっては、株高は何の恩恵もなく、資産格差が開いただけである。

 安倍首相は賃金も二・〇七%上がったと吹聴するが、大企業の正社員と中小企業や非正規の労働者との賃金格差は広がる一方だ。加えて、円安による輸入品価格の上昇と消費増税は、実質賃金を一七カ月連続(一一月)で押し下げ、「悪いインフレ」が進行している。また、企業利益の増大によって役員報酬が一億円を越える人間は、上場企業の役員のうち一八九社の三六〇人(一四年三月)と、前年度より二割も増えた。その対極では、年収二〇〇万円以下のワーキングプアが一一二〇万人(一三年)にまで増加した。シングルマザーの貧困率(可処分所得一二二万円以下の世帯の割合)は五四・六%と、先進国のなかで最悪である。

 企業の経常利益はリーマン・ショック前の水準にまで急回復し、内部留保は三二八兆円にまでふくらんだ。だが、それが非正規労働者や中小企業や地方にまで滴り落ちるトリックル・ダウン(「経済の好循環」)など、もはや起こらない。グローバル化と金融化によって、株高や企業利益の増大と実体経済とは切断されたからだ。

 日本だけではない。格差の極端な拡大によって、資本主義はその抑圧性と敵対性をむき出しにしている。それをおおいかくす成長神話も、ほころびが目立ち破綻しつつある。トマ・ピケティ『二一世紀の資本』がブームになったり「長期停滞」論が注目されるように、格差拡大が経済成長を妨げるという逆説的事態さえ現われている。だからといって、資本主義が所得再分配による平等化政策で成長するという軌道に戻ることもありえない。

 それでは、私たちは資本主義とどう対決し、生きるための別の道をどこに探っていくのか(金融資産への国際的な課税? 脱成長? 資本との階級闘争?)。このテーマをめぐって活発な論争が起こっていいはずだ。本号はその口火を切るべく、平井玄編集委員の責任編集で特集を組んだ。

白川真澄(本誌編集長)

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