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[People's Plan 42号・研究会プロジェクト報告]
戦後研究会

 前回予告したとおり、二月の戦後研では海老坂武『祖国より一人の友を』(岩波書店)を取り上げた。この本は、同じ岩波書店から出された『〈戦後〉が若かった頃』『かくも激しき希望の歳月』に続く三冊目、筑摩書房の『記憶よ、語れ』から数えると四冊目となる自伝である。自伝というのは、著者と縁の薄かった人が読む場合、瑣末な思い出話か自慢話としてしか読めないこともあるのだが、海老坂の自伝シリーズはそういう印象が少なく、楽しく読むことができた。ただ、自伝という性質上、何か論点を絞って議論するのが難しかったのは否めない。話題としては、イリイチ受容のネットワークとつながりがあったことや、食をめぐる話などが議論になった。

 三月は、普段の戦後研ではなかなか取り上げられない「演劇」がテーマであった。『戦う演劇人──戦後演劇の思想』(而立書房)をテキストに、著者の菅孝行さんを呼んで議論を交わした。この本は、千田是也・浅利慶太・鈴木忠志の三人の演劇人を取り上げ、劇場という「拠点」を確保しようとした彼らの営為を評価する内容だと言える。その主張の枠組は明晰だ。だが、「劇場の確保」という重心の置き方は著者のスタンスとして十分なのかと、参加者から疑問も出た。菅さんからは、そうした疑問に答える形で、本書に書かれていない側面も含めた主張が展開された。著者の肉声が聞けたのは有意義であったし、参加者が通常より幅広く集まったことも良かった。

 四月は、鈴木道彦の『政治暴力と想像力』(現代評論社)と『越境の時』(集英社新書)の二冊をまとめて取り上げた。前者は一九七〇年、後者は二〇〇七年刊行で、後者が前者の時代を回顧するものとなっている。そのため、『政治暴力と想像力』の方を中心に、かつ在日朝鮮人をめぐる論点ではなく「暴力」をめぐる論考として、報告・議論がなされた。鈴木は抵抗の暴力を全面的に礼賛するような単純素朴な立場には立っていないが、しかし暴力に十分な歯止めをかけるような論理になっておらず、その点の曖昧さに問題が残るのではないかと議論になった。

 この四月の鈴木道彦のテキストは、前回の報告で今後の方向性としてあげた、第三世界主義の批判的再検討というテーマを意識して選定された。このテーマは、今後もある程度継続的に追求される。とりあえず次回(五月)の戦後研では、この続きとして、竹内芳郎『国家の原理と反戦の論理』(現代評論社)を読む。六月以降のテーマ・テキストは未定。引き続き興味ある方の参加をお待ちしております。詳細は事務局まで。
(松井)
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