『季刊ピープルズ・プラン』82号(2018年11月20日発行)
《特集》人口減少時代を豊かに生きる
  ―「成長・拡大」神話にサヨナラ 特集に当たって


白川真澄(本誌編集長)

                            
 日本は、人口が急速に減少する時代に入っている。1億2000万人を超える現在の人口は、2040年には1億1000万人、65年には8800万人へと、半世紀で3800万人、約3割も減少する、と推計されている。東京五輪の宴の後の20年代には、人口減少問題はいっそうリアルな大問題として浮上してくるにちがいない。まだ人口流入が続く巨大都市・東京でも、その足元では急激な高齢化と一人暮らし世帯の急増が進行する。

 急激な人口減少が進むという見通しは、さまざまの衝撃や不安、多くの議論を呼び起こしている。曰く、生産年齢人口の急減は労働力不足を招いて経済成長を妨げる、したがって女性やシニアの活用、外国人労働者の受け入れ拡大を進めるべきだ、と。曰く、高齢化の進行は医療や介護の費用を膨張させる一方で、現役世代の負担を増大させる、したがって巨額の財政赤字の下では社会保障費用を効率化するしかない、と。曰く、過疎地域や小さな自治体の消滅は避けがたい、したがって地方中核都市に資源を集中する「選択と集中」を徹底すべきだ、と。

 たしかに、人口減少は、日本社会の姿をさまざまの分野で一変させるだろう。新入生や卒業生がいなくなり、廃校に追い込まれる小中学校が続出する。30年後には、半数の自治体では学校が姿を消す。ガソリンスタンドはすでに20年前と比べて半分に減ったが、地方ではさらに閉鎖が相次ぎ、ガソリンや灯油が買えなくなる住民が増える。空き家・空き室が急増し、その率は33年には30.4%にも達すると予測されている。25年には後期高齢者が2000万人を超え、介護を必要とする人は800万人に増えるが、とくに東京では介護サービスの不足が深刻になり、13万人もの「介護難民」が発生するとされている。人口減少社会の前途は、暗く重たい空気に包まれている。

 しかし、見方を変えてみよう。人口減少という新しい現実を、ひたすら成長・拡大を追い求める発想を根本的に転換し、人口増大と経済成長を前提にしない経済や都市や地域社会や働き方のあり方を創造していく「好機」に変えることはできないだろうか。
 安倍首相は、「これまでの『常識』を打ち破らなければなりません」と言いつつ、生産性革命などによって「日本はまだまだ成長できる」と強弁している(10月24日の「所信表明演説」)。成長神話という常識に囚われた見本だ。しかし、人びとは意外に醒めた見方をしている。ある世論調査では、日本の経済がこれから成長することが「期待できる」と答えた人が25%に対して、「期待できない」と答えた人が68%にも上っている(朝日新聞28年5月2日)。もちろん、だからといって、多くの人が脱・経済成長主義に舵を切ったとまでは言えない。政権や政党をはじめ成長・拡大神話に縛られている人は少なくない。

 しかし、経済成長を前提にしない経済や都市や地域社会をめざす試みがさまざまな形で芽生え、広がっている。エネルギーや食の地域自給、半農半?型や「複業」型の働き方、空き家や空き地の資源としての活用、スーパーや農協が撤退した地域での店づくりや移動販売、地域での住民の助け合いや世代間交流、協同組合など社会的連帯経済、フリーマーケット市場の広がり、若者の地方移住の動きなどは、もはや無視できないオルタナティブな流れになっている。これらの試みは、地域のなかでモノ・サービス・お金が回り仕事が創られる、短い時間だけ働いて豊かに生きる、所有から共有(シェアリング)にシフトする、関係性を豊かにするという「脱成長」型の経済や社会の形成へとつながっていくだろう。

グローバル化か、それともナショナリズムかという二項対立を超える選択肢として、ローカリズムが逞しく育ちつつある。これから問われるのは、ローカリズムがどのようにして横に連帯するのか、またどのような政治的表現をもつのか、ということだろう。

 本号では、人口減少時代の到来を成長・拡大神話から決別し、オルタナティブな社会を構想し創り出していく「好機」とする立場から、さまざまな論点に切り込んだ。日本社会が直面している長期的な課題の考察から地域における独創的な実験の紹介まで、彩り豊かな論稿を揃えることができたのではないかと思う。ぜひ、じっくりお読みください。