オルタナティブ提言の会

第4回 農業と地域社会 
2009年10月11日

コメント2 山浦康明

「農業の再生と食の安全の確保はどうしたらよいのか」


 農業と地域社会というテーマということですので、この間の消費者運動のなかで、食品公害などの食の安全の問題や日本の農業の問題にどういう気持ちで関わってきたか、また社会運動的にみれば、消費者運動が他の労働組合運動や農民運動との関係でどのような意味を持っているのかを、振り返ってみたいと思います。さらに、現代の経済のグローバル化に対して消費者運動としてどう取り組むべきか、いまの考えを紹介したいと思います。

 私がいま、ひじょうに興味を持って関わらざるを得ないのは、体細胞クローンです。作られて10年近くになり市場化目前です。アメリカではすでに市場化されていて、後代、孫の代はすでに日本に入っている可能性があります。ところが日本政府は日本の市場化はまだ認めていません。受精卵クローンについてはすでに市場化されているんですが、体細胞クローンがなぜ認められてきたかという問題。それから直近でいえば花王のエコナなどのトクホ(特定保健用食品)の問題に関わっています。それから遺伝子組み換え食品などにかかわっています。

 これらのいま取り組んでいる食品問題が、戦後60年の流れなかでどういうところにきているのかということをまず振り返りたいと思います。

◎消費者運動を振り返る
 
 国内農業と食品産業のあり方を少し振り返ってみました。消費者運動のなかでもとくに日消連の場合は食品公害と40年たたかってきた歴史があります。これは公害被害者といっしょになって、加害企業あるいは国、自治体を追及する生存権的なたたかいだったと思います。それらの食品公害の問題とともに、加工食品が大量に出回るようになる。これによって食品添加物とか保存料など人工的な食品が大量生産されることになってきたとき、それに対する反対運動をしてきた歴史があります。この時の消費者運動のあり方は、被害者と共闘を組んで、企業あるいは自治体に対決していくという運動スタイルでした。今から振り返ってみれば、こういった食品企業にも労働者がいるわけで、なぜそういった食品を作ったのかといった観点から、労働者との関係を結んでいくという可能性もあったと思いますが、そういう運動にはなり得ていませんでした。消費者運動は自分たちの生活防衛という観点から取り組むことが多いので、身に降りかかってくる問題を振り払う、商品を改善させる、というスタイルであったかなと思います。

 同時に産直運動も食品公害とともに拡大してきたように思います。水俣現地の人たちが作っている農産物、あるいは成田の農民たちがつくる農産物を直接消費者に届ける。自分たちの市場というものを考える。そういった運動を広げてきたように思います。しかしの生協や農協と共同したたたかいはあまりみられませんでした。これが50年代から70年だの状況だったと思います。

◎物価問題から「食」のテーマへ

 物価問題については、消費者運動は当初から取り組んでいた課題で、主婦連の「おしゃもじ運動」など、戦後混乱期における生活防衛のための物価値上げ反対運動が、ある意味で消費者運動の発端ではなかったかと思います。その後50年代後半から70年代にかけての高度経済成長期における市場の中央集権化のなかで、地域の生産物が大都市に集中して、そこで価格決定がなされるという状況や、高度経済成長期における物価上昇。これが年々続いていくことに対する物価問題への取り組みも、消費者運動のなかではあり、それに対して価格面での産直運動も起きてきたと思います。また、中小規模の提携活動から拡大したような生協の活動と消費者団体の提携といったこともよくおこなわれてきました。

 73年のオイルショック以降流通再編が始まります。これは新自由主義政策といっていいと思いますが、国内需要がオイルショック以降の日本経済の凋落によって減退し、海外展開を始めます。日本企業の集中豪雨的な輸出、グローバリゼーションの流れがどんどん拡大していく。そこに企業は生き残り策を見つけていきます。そして国内においてはリストラが大々的に行われる。政府も規制緩和を進めていく。財政金融構造改革を進める、また福祉政策を後退させる。それら日本型の新自由主義政策が行われていくなかで、消費者運動がそれらに全面的に対応することはできなかったのではないかと思います。

 そういったなかで食をめぐって特徴的なのは、中(ナカ)食といわれる惣菜などがよく売れるようになり、加工食品がますます拡大していくことでした。また、外食に人びとが依存していく。この状況における食の問題が消費者運動の重要なテーマとなっていきます。

 流通の場面では、ダイエーなど巨大流通事業者が市場を通さずに価格形成をしていくといった、流通業者主体の構造がつくりだされていきます。食の安全をめぐる状況としては、この時点で多くの課題が消費者運動に課せられてきて、石油蛋白の問題、あるいは食品の照射問題、これも70年代ころに起こりました。いままた、食品照射は原子力政策とかかわって、国がひじょうに強力に推し進めていて、現在的な問題になっています。

 それから遺伝子組み換え食品。1996年から日本でも市場化されています。人工的なクローン家畜の問題、あるいは、いまの売れ筋になっている健康食品の問題などもが出てきています。

◎「食」の安全を求めて

 こうしたなかで、最低限、消費者としては厳格な食品表示を求めて、選択権を確保しようという運動をおこなってきました。そこでたとえば遺伝子組み換えの表示を、これまでまったくなかったものを作らせることができたのですが、内容はまったくお粗末なもので、スーパーにいっても、遺伝子組み換え表示はまったくない。あるいは、混入していた場合も5%までは入っていないことにするといった、ルーズな食品表示のルールが作られてしまいました。

 農業については消費者運動が農民運動と一緒に取り組んだことはあまりなかったと思いますが、日消連は10年ほど減反反対運動にかかわってきました。国による強制減反の仕組みは農家のつくる自由を奪う、そして、消費者にとっても自分たちが求める安全でおいしいお米をなぜ国が認めないのかという思いからでした。

 地産地消の取り組みは、提携の流れのなかで拡大してきていますが、最近ではこれが国家的な場面に取り入れられるようになって、自治体がこれを進めるという時代になってきています。

 とくに今年は、景気対策、雇用対策として、国、経済界を挙げて農業に注目してそれを非常にもてはやしているという状況があって、それに対しても消費者としては「ちょっと待てよ」という目でみています。

 この60年の流れを振り返ってみると、消費者運動のなかで培ってきた地域の生産者とのつながりがさまざまなかたちで作られてきています。遺伝子組み換えについては「ダイズ畑トラスト」のように、自分たちで安全なルートを開発するといったこともありますし、食の安全とか環境問題への配慮をおこないながら生産者と結びついていきたい、そういう思いで現在の運動も展開されています。

◎遺伝子組換食品拡大への懸念

 もうひとつ、WTOのことについてどう考えているか。時間がないので詳しい話はできませんが、この経済のグローバル化にたいして、消費者運動としては、地域主義を重視するような運動が展開されていると思います。いまの経済危機のなか、世界の食糧をめぐる状況は厳しいものがあります。最近の金融サミット等でも、金融危機が実体経済に悪影響を及ぼしている。それにたいする対抗策としてさまざまな規制が提案されていますが、実効性のないものにとどまっています。またG20等の会合においても、グリーンニューディール政策が景気回復の目玉であると言われています。その中身は、エネルギーの問題と同時に食品についても、遺伝子組み換え作物の開発、市場化といったことが、提案されてきています。これらの景気回復の方針、政策と絡めて、あらたな食品がつくられ、これが世界的に拡大していくことに対して、消費者運動としてはひじょうに強い懸念をもっているわけです。

◎逆効果の国際“安全”基準

 食の安全をめぐっては、1995年のWTO発足以来、SPS協定(衛生と植物防疫のための措置に関する協定)が非常に強力な権限をもってきています。SPS協定では、コーデックス委員会(国連のFAOとWHOの合同委員会)でつくられた安全評価の基準が世界基準になって、各国でこれより厳しい基準をつくる場合は科学的に反証しなければいけないという厳しい状況になっています。それからOIE(動物の病気を考える国際機関)ですが、ここで最近ではBSEの問題で、アメリカの基準がOIE基準になっているんですね。日本などの厳しい対策はOIE基準からすればこれは厳しすぎるということで、もし国際紛争になった場合には、日本が敗訴する可能性が非常に高い。そういうものが作られてきています。昨日もアメリカからの輸入牛肉に脊柱が入っていました。もう3回目ですが、OIE基準からすれば、アメリカは自由に牛肉を輸出してもいいという国に位置づけられてしまっています。そういうお墨付きを与える機関になってしまっています。

 またIPPC(検疫を扱う国際機関)という機関があります。各国の検疫の仕組みについての国際基準をめぐる機関です。最近でいうと、この機関が、照射食品の検疫所における利用を認めようという提案をおこないました。日本は照射は認めていないのですが、検疫上のルールとして、国際基準としてつくっていいんじゃないかということで、日本に照射食品が入りやすくなってくる。そういう露払い的な機能を持たされてきています。こうした問題にも消費者は非常に懸念をもっています。

 最近の国際的な問題でいえば、開発輸入の問題としては、中国の残留農薬とかギョーザ事件とか、そういった問題も記憶に新しいところです。遺伝子組み換えなどもあります。これらについてもSPS協定の強化によって、各国の厳しい基準が限界をもたされてしまっています。

◎WTO、FTAの動きを監視する

 WTO交渉は行き詰まっているように思われますが、11月30日にはジュネーブで閣僚会議がおこなわれますし、来年末には合意するとの目標も掲げられています。WTOの交渉にも関心を払っています。
日本においてはFTA問題が焦眉の的となっていて、民主党新政権がアメリカとのFTA交渉促進という表現をしている。あるいは東アジア共同体構想を鳩山首相が打ち出している。FTAがもしアメリカと提携された場合、6000億円の経済的なマイナスや、地域経済への打撃などが考えられ、消費者運動でも、監視を強めています。

 WTOの自由貿易論は食糧過剰を前提とした自由化論、国際分業論ですが、これはもはや破綻していると思います。この構造改革、自由化万能論は、ガットウルグアイラウンドの結果を見ても、あるいはWTOが発足してからの自由化の流れを見ても、まったく説得力のないものになっています。消費者としては、農産物貿易の拡大を進めていこうといった、G8、G20の方向性は認められないという立場で運動しています。

 この食糧危機をみれば、日本国内でも、生産者、消費者がひどい目にあっており、こういった食糧危機が起こらないような体制を考えなければいけません。中国産冷凍ギョーザの問題も国際的な低価格競争の波の中での、食品偽装問題とか開発問題として位置づけられるのではないでしょうか。開発輸入の問題を振り返らなければこの問題は解決しないという考え方で運動しています。

 それにたいして、日本国内における農業を重視する、その際には環境に配慮した有機農業の振興発展を進めてながら地産地消の展開をする、そういった考え方を機軸に据えた考え方を農家と一緒に考えていく運動にしていこうと考えています。

 いまひじょうに内食指向が高まっており、食糧自給率が数字的には向上していて、一定の追い風になっているなかで、実際の食糧自給率をいかに高めていくか。これには食べ方の問題もかかわってきますから、そこも含めて人びとに訴えていくことに取り組んでいます。

 地域主義についてはなかなか具体的な提案はできませんが、自由化の流れに抗して国内の農業の充実、あるいは地域の地産地消を中心とした国内農業、流通消費のルートをみなで考えていくという運動をする中で追求しているのかなと思います。
 
 消費者運動は国内農業の問題、国際的な問題に正面からかかわって運動を組み立てるという視点を、歴史を振り返ってみれば、次第に持つようになったと思います。