『季刊ピープルズ・プラン』62号(2013年8月31日号)
【小特集:障害者・難病患者の現在――重層する困難と制度】


「障害者・難病患者の現在――重層する困難と制度」によせて


番園寛也(本紙編集委員)


 今、この時代状況のなかで障害者や難病患者はどのように生きているのだろうか?
 ここ一〇年の歴史を振り返ると、二〇〇三年に支援費制度が施行され、二〇〇六年に障害者自立支援法、そして今年、障害者総合支援法へと移行していくなかで、さまざまな制度的問題点が指摘されてきた。
 支援費制度のとりわけ、居宅介護においてはそれまでの行政がケアサービスの供給に責任を持つ「措置制度」から、ケアサービス利用者が自己の選択と責任において事業所と契約を結び、事業所がヘルパーの派遣などをおこない、行政はその費用を事業所に対し給付をおこなう形へと変わっていった。こうした変化は一面では当事者の選択によって、自分が受けるサービスを決定できるようになり、いわゆる自立生活運動の理念と合致する部分もあったが、居宅生活支援費は国が責任を持つ義務的経費ではなく、「補助することができる」という裁量的経費として制度に位置づけられており、当時の小泉政権下において進められた「三位一体の改革」によって制度の財政的基盤が切り崩されたこともあって、厚労省の補助基準を通してサービス利用時間の給付に上限が設定されるという事態が起きる。このケアサービスの支給時間の問題は現在にいたるまで続いている。
 支援費制度から移行する形で施行された障害者自立支援法においては、応益負担と「障害程度区分の判定」が導入され、サービスの利用時間に対する抑制が図られる。この応益負担については、より重度で多くのサービスを必要とする利用者がより大きな負担を負わなければならず、生存を脅かすものであり、批判の対象となった。またそれまで身体障害、知的障害、精神障害のそれぞれの障害の種別ごとに提供されていたサービスが、自立支援法においては同一制度内で統合され、三障害すべてに対し、同じサービスが提供されるようになった。しかし、この点についても、それぞれ異なったニーズを持つ障害を持つ人びとを、同じ制度の基準で障害程度区分を行なうことによってサービスの利用時間などを決定することは、利用者のニーズを十全に汲み上げ、充足させることをできなくさせるものである[1]。
 またこうした制度はその適用範囲をめぐって介護保険などの制度との間に谷間が存在し、難病患者たちの多くは制度の利用を阻まれている現状がある。この点についても障害者総合支援法によって一部の難病患者が対象となったが、新たな谷間の患者たちを生み出している。
 このように支援費制度から自立支援法までのさまざまな批判のなかで成立、施行へと至った障害者総合支援法だが、これらの問題点は解消されることなく存在しつづけている。この一〇年間の制度的な変遷は、小泉内閣以降の新自由主義的政策によるプライバタイゼーション、自己決定・自己責任といった小さな政府の流れに呼応する形で押し進められてきた。
 こうした制度は障害種別や要支援度などによって人びとのあいだに線を引くことによってその制度の内部と外部を創りだす。そしてまた、ひとりの生活のなかの時間を制度の区分によって分割し、こまぎれにしていく。そのようにして制度が成り立っているが、しかし、人の生、くらしは切り分けることができないものである。
 こうした制度の枠組を批判し、自分たちの生活を成り立たせていくためにより良い制度を構築するよう働きかけてきたのは、障害者、難病患者たちの当事者運動であった。今ある制度的な基盤もその運動によって勝ち取られてきたものである。そして何より重要なのは、障害や難病を持って生きる人びとが、十分とは言えない制度のなかでそれを使いながら自分たちの生をこれまで生きてきたということであり、今も生きているということである。そうした実践に目を向けていくことは不可欠である。
 今年は障害者差別解消法が国会で可決された障害・難病をめぐる制度の節目の年である。こうした制度的な転換に際して、もう一度、障害と難病をめぐる制度と生活の関係を歴史的視座のなかで考え直すことは欠かせない作業と言えるだろう。そして障害や難病によって起こる問題だけでなく、ジェンダーやセクシュアリティ、エスニシティ、経済格差・貧困、地域的問題、高齢化といったさまざまな問題が重層する状況の中で、何を考え、どう行動していけばいいのか、ということに向き合うための議論の土台を提起していく必要がある。そのために、本誌では今後、継続して、制度とのかかわりをひとつの軸に、障害者や難病患者たちがどのような困難に直面し、そしてまた、いかに制度を使い、制度のなかで生きてきたのかについて取り上げ、さまざまな実践に関わる人びとの論考を掲載していきたい。

 今号では、その小特集の一回目として横浜市旭区の作業所「カプカプ」の所長鈴木励滋さんのインタビューとDPI女性障害者ネットワークで活動をされている瀬山紀子さんに執筆をお願いした。
【注】
[1]支援費制度の施行から自立支援法への移行までの問題点と議論については岡部耕典『障害者自立支援法とケアの自律』(明石書店、2006)などに詳しい。
(ばんぞの ひろや)

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