『季刊ピープルズ・プラン』56号(2011年12月25日号)
【特 集】対抗線を引きなおす

【巻頭言】対抗線を引きなおす──特集に当たって

白川真澄(本紙編集長)

 資本主義が苦悶の表情を浮かべて、のたうちまわっている。ヨーロッパの債務危機は、まったく収まる気配を見せていない。EUやG20が次々に打ち出す対応策をあざ笑うかのように国債の投げ売りと価格の下落、格付けの引き下げが繰り返されている。

 米国をはじめ各国政府は、三年前のリーマン・ショックに対して巨額の財政出動を行ない、金融機関の救済と需要喚起策によって危機を乗り越えてきたかに見えた。だが、その危機解決策が激烈な副作用を引き起こした。財政赤字が一挙に膨れ上がり、政府債務への不信がギリシャで、イタリアで、そして米国でも噴き出した。債務不履行の可能性のある国債を大量に抱える金融機関が次々に、大きな損失を出して資金の調達と取引ができなくなれば、リーマン・ショックの再来である。世界経済は、財政危機によって身動きがとれないまま、金融危機と世界恐慌が忍び寄る足音に怯えている。ドルが基軸通貨の地位を最終的に失い、ユーロが分裂・解体する危機にさらされているのだから、大げさではなく資本主義は歴史的な危機に陥っていると言わねばならない。支配的勢力はこの危機の突破口を、「財政再建」の名で労働者と民衆に一方的に犠牲をシワ寄せする緊縮政策の実行に見い出そうとしている。年金給付と公共サービスの切り下げ、付加価値税(消費税)の引き上げ、公務員の削減が、多くの国でいっせいに行なわれつつある。日本でも近い将来に予定されている施策である。

 しかし、民衆は黙ってはいない。財政緊縮策に対する怒りの行動がギリシャ・イギリス・イタリアで爆発し、ウォールストリート占拠運動が燃え広がっている。怒りの鉾先は、利益と富を独占する連中に向けられ、グローバル企業と巨大金融機関に“支払わせる”こと(重い課税や債権放棄)を要求している。そして、インターネットでつながりながら、広場を占拠し自分たちの手で自治空間を創出しつつある。この明解運動は、「アラブの春」とその後の民主化闘争と共鳴し、またドイツや日本の脱原発運動のうねりとも通底し、同時代性をもった民衆運動として登場している。民衆の側は、資本主義の歴史的な危機と米国の覇権秩序の崩壊に向き合って対抗線を引き直しつつある。同時に、民衆運動の新たな発展と並行して、移民排斥の極右排外主義や強いリーダーに喝采するポピュリズムの流れが急激に台頭していることも、同時代的特徴である。

 私たちもまた、対抗線を引き直す世界的な試みの一環として、日本の地で運動を展開していく必要がある。その相手は、とりあえず野田政権である。この政権は、社会のなかで多数を占めつつある「脱原発」の声に逆らって、原発の再稼動と原発輸出を強行し、原発を延命させようとしている。「日米同盟の深化」を掲げて辺野古への新基地建設を押しつけるべく、環境影響評価書の提出を強行しようとしている。沖縄の人びとが田中沖縄防衛局長の暴言で不信と怒りをいっそう募らせている状況下で、野田政権は、米国との約束を最優先する姿勢をまったく変えようとしていない。

 この姿勢は、多くの人びとの疑問や反対を押し切って、TPP交渉への参加を決めたことにも貫かれている。「アジアの成長を取り込む」ことを名分にしながら、なぜか中国と対抗する米国主導の経済圏の形成に肩入れしている。そして、TPP参加は、農業の破壊をもたらすだけにとどまらない。医療の皆保険システムや食の安全を守ってきた公共的なルールと制度を、米国流の市場主義的原理に沿って全面的に作り変える企てにほかならない。

 さらに、野田政権は、「社会保障と税の一体改革」の柱となる消費税の10%への引き上げに前のめりになっている。だがいま、生活保護受給者が205万人を超え、単身女性の三割以上が貧困に苦しみ、3・11大震災と原発事故によって十数万の人が仕事を失った。貧困と格差がますます深刻になっているときに、逆進性をもつ消費増税を先行させることが社会的な不平等を拡大することは明らかだ。不平等の是正と社会保障の拡充こそ最優先の課題であり、まず「金持ちに支払わせる」増税を行ない、低所得者への所得保障の拡充、医療・介護・子育て・住まいといった公共サービスの拡充を急がねばならないはずである。
 野田政権の四つの政策課題を見ただけでも、この政権が政権交代から二年を経て自民党政治の枠組みに積極的に逆戻りしていることは明白である。すべての分野において、支配的勢力との対抗線を引き直そう。オルタナティブな社会構想を明確に提示し、大事なことは自分たちで決める自己決定と民主主義の政治を蘇らせよう。

 本号では、危機と大混乱に陥った旧秩序を必死に繕って防衛しようとする支配的勢力に対して、民衆の側がどのような対抗線を引き直そうとしているのか、世界と日本の現状と運動に即して分析と問題提起を行なった。
(しらかわ ますみ)

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