『季刊ピープルズ・プラン』53号(2011年4月号)

いまを読み解く?
新防衛大綱はどこへ導くか──「動的防衛力」というまやかし

杉原浩司


 昨年12月17日、菅政権は「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を閣議決定した。民主党政権下では初の改定である。「大綱見直し担当の防衛政務官」「民主党外交安全保障調査会事務局長」として新大綱策定に深く関与した長島昭久衆院議員は、「いくつもの新機軸を打ち出し」「自民党政権時代から積み残された宿題に一気に手を付けた」(1月7日、毎日)と自賛する。しかし、その力みとは裏腹に文章はまやかしだらけだ。

 長島はまず、策定プロセスにおいて新政権の金看板たる「政治主導」が貫徹されたと述べる。しかし、これは二重の意味で誤りだ。新政権が大綱改定を一年先送りしたうえで採ったのは、恣意的に選んだ「識者」による懇談会(安保防衛懇)への丸投げという旧態依然の手法だった。しかも選ばれたのは、米側から「素晴らしい人選」(12月4日、毎日)と評される「同盟重視」の布陣だった。また、外交安保調査会の議論も、10月に入って始まった拙速なものであり、長島ら事務局の強引な運営に終始した。

◆米国JASB構想の直輸入

 何より、安防懇報告書の骨格を決めたのは米国であった。米国が昨年2月に公表した「四年ごとの国防政策見直し(QDR)」に盛り込まれた「ジョイント・エア・シー・バトル(JASB)構想」(統合空海戦闘構想)の直輸入である。JASB構想とは、海・空軍力の一体的運用により効果を引き出すもので、中国を念頭に置いている。日本や台湾が攻撃されても、主力艦隊はすぐに周辺海域には到着せず、中国のミサイルの射程外の太平洋上からミサイル等で反撃し、中国軍に打撃を与えてから進軍するとされる(12月27日、日経)。米国が言う中国の「接近阻止戦略」を否定するために、自衛隊が「南西諸島防衛」を名目に前方で重い役割を担うのだ。

 安防懇委員からは、「QDRと全く同じ表現ではまずい。似た表現にしよう」(12月4日、毎日)などの声が出たという。「宗主国」の意向を忖度する「属国」のあり様は、政治主導ではなく米国追従そのものだ。

 日本版JASB構想としての肉付けにかぶされたベールが、「動的防衛力」なる珍妙な概念だった。長島はこれを従来の「基盤的防衛力」構想に代わる「新たなコンセプト」というが、事実は異なる。

 基盤的防衛力構想とは、七六年の最初の大綱以来、ベースとなってきた考え方で、脅威対抗型の「所要防衛力」構想に対置する形で提唱された。脅威を前提とせず、力の空白となって不安定要因とならないよう必要最小限の基盤的防衛力を持つというものだ。これは「専守防衛」理念に即した側面を持つ一方、米ソ緊張緩和と低成長下での予算確保の方便という面も持っていた。また実際には、自衛隊は同構想下で世界有数の軍隊へと膨張してきた。

 基盤的防衛力構想は04年の大綱においてすでに実質的に放棄されていた。当時の石破茂防衛庁長官は「私は議論の冒頭から『これだけは絶対に変える』と宣言していました」と振り返っている(『日本の防衛7つの論点』宝島社)。水島朝穂は、04年大綱について「所要防衛力構想の復活」(『法と民主主義』2005年5月号)と批判していた。動的防衛力とは、04年大綱が提唱した「多機能弾力的防衛力」の概念をより「進化」させたに過ぎない。基本路線は踏襲されている。多用される「アジア太平洋の安全保障環境の一層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善」というフレーズは、「専守防衛」を前提としていないことの何よりの証である。2月8日に米国が公表した「国家軍事戦略」は、「自衛隊の域外での運用能力向上に協力する」と明記した。新大綱に呼応するものだろう。

◆軍事による外交の侵食

 戦略が米国仕込みであることが後景化されているため、「動的防衛力」概念の不可解さが突出している。「これは運用方針であって戦略ではない」(孫崎享・元外務省国際情報局長、「日経ビジネス」オンライン12月22日)、「防衛力整備の問題と運用の問題を混同している」(福好昌治「徹底分析『22防衛大綱』」、『丸』3月号)など当然の批判が出ている。
 要するに、新大綱とは「防衛計画の大綱」ではなく「運用計画の大綱」なのだ。「平時でも有事でもない『グレーゾーン』における外交・軍事的なせめぎ合い」に対する「平素からの警戒監視や統合実働演習などによる牽制」(長島)が強調されるのはそのためだ。
 こうした発想に対しては、「差し迫った脅威に対する『戦争未満』の軍事行動を想定することによって、結果的に武力行使へのハードルを下げる」(西崎文子・1月28日、朝日)、「中間領域の紛争では事態のシームレスな拡大を防ぐ政治、外交努力こそが求められる」(柳沢協二・1月7日、毎日)等の批判がなされている。軍事による外交の侵食はきわめて危険だ。

 関連して注目すべきは、「常続監視」と略される「常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察活動」の重視である。与那国島への陸自沿岸監視部隊(100人程度)の新編もこの文脈だ。常続監視は、米国による自衛隊への要求任務であると同時に、「我が国の権益を侵害する行為に対して実効的に対応する」(新大綱)ことにもリンクしている。自衛隊が「主権、領土、資源、エネルギー等」(「安防懇」報告書)をめぐる対立の前面に出ることを正当化するものだ。「尖閣」諸島(魚釣諸島)周辺での日米共同軍事演習の実現を提案した長島らの「建白書」が想起される。

 同時に、常続監視は新兵器の導入にも直結してくる。中期防の「無人機を含む新たな各種技術動向等を踏まえ、広域における総合的2011年度から最新鋭の高高度無人偵察機「グローバルホーク」(初期費用は数百億円)の本格的な調査・研究に着手し、中期防の計画最終年度の2015年度までに導入の可否を判断する方針だと報じられている(12月30日、読売)。

 導入兵器に関して言えば、所要防衛力構想の単純な復活ではなく、軍事費の増額が当面望めない以上、「選択と集中」が不可避となる。陸自が定数(削減幅は1000人と多くはないが)や戦車・火砲を削減された一方で、潜水艦は16隻から22隻へ増強される。ミサイル防衛対応イージス艦も4隻から6隻へ増強(「あたご」型2隻への能力付与)される。こうした中期防の内容が、陸自削減以外ほとんど議論された形跡がないのも驚きだ。

◆米国依存のさらなる深化

 大きく報じられた武器輸出三原則の見直しについては、菅首相による社民党への配慮優先という唯一の「政治主導」によって、大綱への明記という最悪の事態は回避された。その背景には「リベラルの会」など民主党内の異論の顕在化に加えて、社民党による明確な反対があり、市民運動による効果的なロビイング(院内集会等)も功を奏した。しかし、安住淳防衛副大臣(当時)らの巻き返しにより、国際共同開発・生産の主流化に対応する方策を検討するとの趣旨が盛り込まれ、緩和への布石が打たれた。

 そしてすでに、なし崩し緩和が始まっている。防衛省は関係省庁とともに、日米共同開発中の能力向上型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」の第三国輸出(2018年の欧州配備が計画)に向けた基準を一年かけて策定する作業に入った。グローバルなミサイル拡散を許すわけにはいかない。「無人機の目」である画像ジャイロの日米共同技術研究(=ロボット戦争支援!)を即刻中止させることと合わせて、取り組みが急務となっている。

 PKO参加については、「PKO参加五原則等我が国の参加の在り方を検討する」ことが盛り込まれた。すでに政府は「PKOの在り方に関する懇談会」(座長・東祥三内閣府副大臣)を昨年10月末に発足させ、月1回のペースで密室議論を進めており、早ければ3月末にも報告書を提出する。

 「対等な日米関係」や「東アジア共同体」を掲げた鳩山政権が迷走を経て崩壊し、その後の「尖閣」問題や延坪島砲撃事件を受けて、日本の米国依存はいっそう深まった。「見せかけ民主主義」の極みともいえる「政策コンテスト」では、巨額の「思いやり予算」は早々に例外とされ、日米政府は向こう5ヵ年にわたり現行金額を保証するという協定に署名した。米軍への定額給付金である。前原外相は、米国の意向を受けて、「思いやり予算」という呼称を「ホスト・ネイション・サポート」に変えるよう表明した。すでに日米の「共通戦略目標」の見直し作業が始まっており、周辺事態法の改悪も狙われている。

◆脅威縮小型の対抗構想を

 政治主導ならぬ米国主導のあり方を根本的に転換させなければならない。新大綱には「首相官邸に国家安全保障に関し関係閣僚間の政策調整と内閣総理大臣への助言等を行う組織を設置する」との文言が盛り込まれた。北岡伸一や森本敏、岡本行夫ら日本の「安保マフィア」にポストを提供することは、「属国の安全保障」の効率化にしかつながらない。むしろ、大綱改定を国会承認案件として、開かれた「熟議」にこそかけるべきである。

 私は今回の大綱改定にぶつける形で、仲間とともに「軍縮計画の大綱」をまとめあげようと考えたのだが、力不足で実現には至らなかった。しかし、大きな方向性はそこにしかないと思う。たとえば、延坪島砲撃事件を受けて、「GPPAC(武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ)東北アジア」は12月2日、海の非武装地帯の設置などを含む声明を発表した。また、遠藤誠治は「勢力均衡型の政策を転換し、紛争の平和的解決のメカニズムを制度化していくという方向性」「軍事的緊張関係をほぐすための信頼醸成のメカニズムを整え、東アジアにおける軍備の水準を低下させていくという方向性」を追求すべきと述べ、「その際、手始めとなるべきなのは、中国に対する軍縮の提案である。つまり、日本がイニシアティブをとって、対中包囲網的な政策ではなく、米国と中国に対する軍備の縮小による均衡へと誘うべきである。具体的には、それほど役にたたないにもかかわらず、膨大な支出をともなう日本のミサイル防衛を一方的に削減の対象とすることなどが考えられる」(「東アジアの平和のメカニズムの構築を」、岩波書店『普天間基地問題から何が見えてきたか』所収)と主張する。こうした政策提言を現実化するダイナミック(動的!)な平和外交にこそ出番を与えるべきなのだ。

 さらに、防衛計画の実態である防衛省予算を徹底解読し、優先順位を付けて削減を求める「市民版事業仕分け」の試みも発展させるべきだろう。

 たしかに民主党政権は宿題に「手を付けた」(長島)が、それらを解いてはいない。「脅威対抗型」ではなく「脅威縮小型」の対抗構想が練り上げられるべきだ。私たち市民こそが先に正解を示すべきであろう。

(すぎはら こうじ/核とミサイル防衛にNO!キャンペーン)

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