メニュー  >  沖縄県尖閣諸島海域の中国漁船衝突事件に関する意見書/漢人明子
 尖閣諸島問題をめぐって「尖閣諸島は日本の固有の領土」というナショナリズムの(右翼から共産党に至るまでの)大合唱が吹き荒れているなかで、地方議会でも意見書の採択が相次いでいます。そのなかで、東京都小金井市議会では漢人明子さんが自民・公明・共産党提出の意見書に対する反対討論を行なっています。全国各地の論戦に役立つと思いますので、紹介させていただきます。(編集部)

沖縄県尖閣諸島海域の中国漁船衝突事件に関する意見書
漢人明子

小金井市議
2010年10月4日

 議員案第53号「沖縄県尖閣諸島海域の中国漁船衝突事件に関する意見書」に反対する討論を行います。

 今回の中国漁船の拿捕、船長の逮捕・釈放をめぐって日中領土領海問題が噴出し、中国側の反日感情、反日行動、日本国内での反中国感情、反政府感情が高まっています。このような事態を招いた今回の日本政府の先の見通しのない対応の責任は重大です。

 日中間には、1970年以降、尖閣諸島(中国名:釣魚島)の領有をめぐる対立が顕在化していましたが、両国とも、1978年の「日中平和友好条約」締結の際の小平さんの「尖閣論争の棚上げ」方針に従って、決定的な対立を回避してきました。2004年の中国人活動家「上陸」に対しても逮捕後すぐに「国外」退去処分にした当時の小泉首相は、「国内法」よりも「小平との約束」を優先する判断を下したのです。

 ところが、今回、日本政府は「小平との約束」を一方的に破棄しました。その後の政府の対応を見れば、なんらの展望もないなかでの判断であったことはあきらかです。政府は「領土問題は存在しない」という態度を繰り返し表明しています。本意見書でも「尖閣諸島および周辺海域が我が国の領土・領海であることを、政府は毅然とした態度を堅持し中国並びに国際社会に積極的に示すこと」を求めています。

 しかし、ことは簡単ではありません。現実には中国が領有権を主張して紛争が起こっています。つまり「領土問題」が生じているわけです。にもかかわらず「領土問題は存在しない」と表明することは、「中国側の主張は無視する」「問題解決のために対話する必要はない」と宣言するに等しいことです。本意見書は「尖閣諸島は我が国固有の領土」とし「中国への厳重な抗議と再発防止」を求めていますが、このような姿勢からは意見書の5項目目に掲げる「対話による信頼関係の醸成」を導くことは困難です。

 政府は領土問題が生じていることを認め、対話と交渉によって解決するという態度を表明するべきです。

 尖閣諸島の領土問題が生じたのは、中国が1970年代以降、領有権を主張し始めたからであり、中国の領有権の主張がこの海域の石油・天然ガスの発見をきっかけにした資源ナショナリズムにもとづいていること、中国が覇権主義的な態度を強めていることは明らかです。

 しかし、尖閣諸島の領有権は日本にあるという主張にも、根本的な問題があります。日本の領有権の設定は日清戦争の最中の1895年であり、日本が「沖縄処分」を経て本格化させていた朝鮮半島と台湾への侵略、領土拡張の戦争の一環として行なわれたことを意味します。

 また、日本政府が領有権を正当化する、所有者のいない無主の島については最初に占有した者の支配権が認められるという「無主地先占」の主張に対して、中国側からは、無主の島ではなく中国が明の時代から領有していたという史料が提示されています。国内においても、京都大学・歴史学の故井上清さんが日本の領有を歴史的に否定する論文を発表するなど論争となっているところです。

 いずれにしろ、国際法の論理とされている「無主地先占」の法理は、帝国主義列強による領土獲得と植民地支配の論理でした。「無主地先占」の法理によって、アイヌなど世界の先住民の土地が強奪されたのです。尖閣諸島の領有権は、日本の侵略戦争の一環として確定されたことを明らかにし、歴史的に反省する態度が必要ではないでしょうか。

 そもそも国境線は近代の歴史においては極めて恣意的に引かれたものです。国境を直ちになくすことはできませんが、国境のない世界を展望して、領土紛争の発生している地域は対話と交渉によって共同管理・共同利用の下に置くことをめざすべきだと考えます。早稲田大学・現代中国論の天児慧さんは、紛争の発生している領土領海地域に限定した「脱国家主権」、「共同主権」による解決を主張し、そのために 、領土問題は存在しないという政府主張を変更して中国と対話を開始し、「当地域をめぐる諸問題を解決するための専門委員会を設置する」ことを提案しています。

 この海域で、当事者である沖縄、中国、そして台湾の漁民が国籍にかかわらず安心して漁を営むことができる条件を整えることこそが「現地主義」「市民主権」の原則であり、最優先させるべきです。

 尖閣諸島論争の「棚上げ」を宣言した小平さんは、問題の解決を「次の世代の知恵に託す」とも言われたそうです。国益をかざしたパワー対決や被害者意識に基づくナショナリズムの発露に希望はありません。いま、私たちは日中両国の次世代としての智恵が求められ試されているのではないでしょうか。

 以上述べた理由により、本意見書の提出に反対します。
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