メニュー  >  バラク・オバマ氏に公開状を出したらどうか/武藤一羊(2008年11月)
「チェンジ」なら、「ラムズフェルド戦略」の公然たる破棄を!
バラク・オバマ氏に公開状を出したらどうか
武藤一羊


アメリカ合州国次期大統領バラク・オバマ氏に、日本列島住民から質問と要請のための公開状を送ったらどうかと思う。たとえば次のようなものだ。

バラク・オバマ次期大統領殿
大統領に当選されたことにお祝いを述べたい。
2期8年にわたるジョージ・ブッシュ政権は、反テロの名による国際法無視の戦争と一方行動主義による世界支配によって、世界中の民衆に恐るべき破壊と災悪をもたらした。あなたはそれを変える(チェンジ)と公約し、アメリカ国民の広い支持をえて大統領に当選された。私たちはそれを歓迎する。

「チェンジ」とは合州国市民だけでなく、ブッシュの一方的行動主義の被害を受けてきた世界の民衆へのあなたの公約である。ジョ−ジ・ブッシュ合州国大統領の始めた終わりなき戦争から抜け出たいと望む私たちは、あなたがこの公約に沿って、ブッシュ政権の世界軍事戦略をどのように「チェンジ」しようとしているか、切実に知りたいと想いっている。ネオコンの世界観によってつくられ実施されてきたラムズフェルド軍事戦略と防衛改革プログラム(Defense Transformation Program)を破棄し、もっと控え目で、現実的な対外政策―軍事戦略もふくめーを採用するかどうか、わたしたちは注目している。あなたがアメリカ合州国大統領として、そのような根本的軍事戦略見直しに着手されるかどうか、お返事をねがいたい。

とくに、わたしたちは、世界とアジアの平和を願う日本在住の市民として、あなたが、ブッシュ、ラムズフェルドの東アジア太平洋戦略を根本的に変えることを期待し、それを要請する。

ブッシュ政権のもとで、日本は、日本の防衛ともアジアの平和とも関係のない米国の世界支配のための軍事体制、ネオコンの定義する米国の軍事的、政治的、経済的利益にのみ捧げられた戦略のもとに軍事的に統合された。2005−6年に米国の主導で結ばれた一連の取り決めにおいて、「成熟した同盟」といううたい文句の下、もともと違憲であった日本自衛隊は、米国の一元的指揮の下に置かれ、ブッシュ政権の開始した永続的戦争の補助的部隊に編入された。沖縄では、住民の反対を押し切って、新しい基地の建設が強行され、これにたいし沖縄の人々は強い抵抗を続けている。日本本土でも岩国、横須賀、座間、横田などで米軍基地が強化され、住民の根強い抵抗にあっている。ブッシュ政権のもとでの急速な日本の軍事化政策と米軍のグローバル戦略への日本の編入は、圧力によって、日本に軍備の放棄を規定した憲法の改変を強要する内政干渉を意味するものだった。さらにグアムを世界戦略のための米軍配置の要として新たに巨大な海兵隊基地に変える計画が、日本の国家予算=税金を使って強行されようとしている。これらはアジア太平洋における平和と安全に資するどころか、中国との軍拡競争を誘発し、新しい冷戦のアジアにおいても導入する危険がある。

われわれは、来年発足するあなたの政府が、以下のような私たちの提案を真剣に考慮し、採択されるよう要請する。私たちにとって「チェンジ」とは最低このようなことを意味するのである。

1 2005年2月19日に調印された「米日同盟:未来への変革と再編」とそれに基づく日本との軍事取り決めの根本的見直しと廃棄、それにもとづいておこなわれている基地強化、再編措置の凍結。日米関係を現行安保にかわるあらたな非軍事的日米取り決めに向けて再編する。

2 沖縄における新たな基地拡張計画の見直しとそれにもとづく中止、沖縄における米軍の存在の見直しと米軍の引揚げへの展望の設定。

3 グアムにおける新たな米軍基地建設計画の撤回。

4 日本国憲法9条の改変への日本への要求や圧力の中止、東北アジアの安全保障を、米軍の引き上げと日本非武装の条件で、地域の多国間とりきめによって行う政策の選択、その第一歩として東北アジア非核地帯構想の積極的推進。

新政権の政策の策定にあたって、私たちの以上の要請を取り入れるつもりがあるかどうか、速やかにご回答願いたい。
敬具



オバマ氏の勝利が歴史的な出来事であることには疑問の余地がない。歴史的である理由のひとつは、それが8年にわたるブッシュのアメリカの全面的な破産をアメリカ国民の名において確定したことにある。しかもそれが、無理に無理を重ねてこれまで持たしてきた戦後アメリカ帝国の仕組みーブレトンウッズ体制―の崩壊・解体の時代と重なったことである。アメリカ帝国の歴史的没落の時期が全面的に始まったことは疑いない。

この帝国の危機のなかで、オバマ氏は、「チェンジ」を訴えることで、アメリカ合衆国の草の根民衆−とくに若い世代―の心をじかにつかみ、揺り動かし、希望を吹き込み、人種や性別や階層を越えた共感をつくりだして当選した。注目すべきことは彼が、アメリカの有権者一人一人の最良の部分―理想主義―に訴えかけ、その力を呼び覚ますことで勝利したことだ。オバマ氏がその能力―思想的質と弁舌―を備えた傑出した政治家であることは疑いない。それにひきかえ、マケイン氏とペイリン氏はアメリカ人の最低の俗情をくすぐり、反オバマに動員しようと試み、そしてみじめに敗北した。

たしかにアメリカ合州国の民衆は、与えられた状況の中で相対的に正しい選択をした。失速して錐もみ状態寸前のジャンボジェットの操縦席に、政治哲学を語ることができ、有能と思われる新人パイロットを座らせたのである。はたして、巨人機が機体を立て直し、不時着地点を見つけられるかどうか、それはわからない。だがいずれにせよこの政権が、「チェンジ」を実行しなければならぬことは間違いない。

しかし「チェンジ」とならぶオバマ氏のもう一つのスローガンは「ユニティ」であった。アメリカ合州国はブッシュ政権のもとでバラバラになった。アメリカはもう一度理想に燃え、アメリカン・ドリームを取り戻すことで一つになろう、そして、失った世界の信頼を取り戻し、世界への指導力を回復しよう、というアピールである。これは挙国一致のスタンスである。一方で「チェンジ」というリベラル左派的な理想主義で若い世代や多くの女性や少数派をひきつけつつ、他方「ユニティ」によってあまりにも低劣なマケイン・ペーリン組から離反した共和党支持層を抱え込むという戦略である。成功と引き換えにこの戦略は、オバマ政治を二つに引き裂くことになる。9月にたまたまサンフランシスコで一緒になったイマヌエル・ウオラステイン氏にオバマ政権の前途について意見をきいたら、彼は即座に、「オバマは中道主義を選択したので、国内の右と左の間に内戦がおこるだろう」とすごいことを言っていた(「内戦」はもちろん武装闘争のことではないが)。オバマ氏が、中東政策でははっきりとイスラエル寄りのラーム・エマニュエルを中心に組閣を進め、今日現在ヒラリー・クリントンの国務長官就任が有力視され、マケインの登用さえ射程に入っているというなかで、「チェンジ」が霞んでゆく見通しは強まっている。

オバマ政権の世界的人気はヨーロッパを中心に圧倒的なものがあるが、それはブッシュの単独行動主義から解放されてホッとしたい気持ちが広まったからであろう。(その対極として、ブッシュと心中しかねないところまでコミットしてきた日本政府は苦虫をかみつぶした表情である)。だが、オバマの公約には、第一期ブッシュ政権の下、ラムズフェルド集団によって急速かつ強引にすすめられた米軍の大再編――「トランスフォーメーション」――を「チェンジ」するのかどうかが、まったく触れられていないのである。軍事戦略については、オバマ氏は、イラクからの期限付き撤退以外に何一つ約束していないばかりか、住民に夥しい破壊をもたらしつつ泥沼化し、軍事解決の不可能が明白になったアフガニスタンには、イラクから兵力を増派すると公約する始末である。さらにオバマ氏の「チェンジ」には軍事支出の大幅削減が含まれていないのである。すでに総計1兆ドルを超えたと見られる米国の軍事費のうち、国防総省予算とされている部分は2009年度に前年比6%近い増加が計上されている。金融危機、GMなど自動車産業の破産とアメリカ経済が奈落に落ち込みつつあるなかで、この膨大な軍事支出を要求するアメリカのグローバル軍事戦略は、根本的な見直しを迫られているのではないか。オバマ政権は、この既得権益に手をつけることができるだろうか。

だから手紙を出したらいいと思うのだ。オバマ中道政治が「内戦」に引き裂かれる状況は歓迎すべき状況だ。世界的世論に帝国の政治への介入の余地が生じるからである。外からの介入というより、それは外からの力と、「チェンジ」を支持してオバマ氏を政権につけたアメリカ合州国の民衆の力との合流による介入となるだろう。日本列島から手紙を出し、そのコピーを草の根のオバマ・キャンペーンの膨大な数の人々に届け、賛同をつのり、問題のありかを共有してもらう。手紙はこの共闘のつくりの呼び水ほかならない。

この考え、どうだろうか。賛成が多ければやってみようではないか。

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