メニュー  >  岸田政権と野党の物価高対策を斬る  ガソリン価格抑制のための補助金もガソリン税減税も愚策だ!             白川真澄
物価高が生活を襲っている
 今年に入って物価高が続いている。電気代・ガス代、ガソリンや灯油、食用油・麺類・お菓子・野菜・魚・肉と、毎月のように値上げが繰り返されている。私も、スーパーで玉ねぎが3個入りの1袋で300円にまで跳ね上がったのには仰天した。これでは、子どものいる家庭では大好物のカレーをいつものように作れなくて苦労するにちがいない。
 4月の消費者物価指数は、総合で2.5%、生鮮食品を除く総合で2.1%(対前年同月比)上昇し、ついに2%を超えた。2%超えは消費増税の影響があった15年3月以来7年ぶりのことである(黒田日銀総裁と安倍元首相には「おめでとう」と言おう!)。米国の8.3%(4月)やユーロ圏の7.5%(同)や英国の7.0%(3月)に比べれば、日本のインフレ率はきわだって低い水準である。それでも生活実感からすれば、物価高騰がひしひしと感じられる。実に8割以上の人が「昨年より物価が上がった」と答えている(日銀「生活意識に関するアンケート調査」22年4月7日)。
 物価高騰は、何よりも低所得層を直撃する。内閣府によれば、電気代などエネルギー関連品目の価格上昇による負担増加額は、所得の低い第1分位の世帯が年2万5000円近くで、収入の0.9%に相当する。所得の高い第5分位の世帯は年3万5000円近くの負担増になるが、収入の0.3%にすぎない。また、食料品(生鮮食品を除く)の価格上昇による負担増は、第1分位が年4000円だが収入の0.16%になる。対して、第5分位は年7000円強だが収入の0.06%にとどまる(内閣府「エネルギー・食料品価格高騰による消費者の負担感への影響について」21年12月10日)。物価高による負担増にも大きな格差があり、所得が低く貧しい人びとにより重くのしかかっている。
 ところが、あろうことか黒田総裁は「家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言(6月6日)。人びとが物価高騰を受け入れるようになって「持続的な物価上昇」のプロセスが順調に進行していると自賛したわけである。値上げラッシュの痛みにまったく鈍感なことを露呈しただけではない。値上げ許容の根拠として、コロナ禍で「強制貯蓄」が50兆円にも達したことを挙げた。将来への生活不安から貯金せざるをえない人や貯蓄するだけの収入もない人が多い現実が目に入らないのだから、質が悪い。

日本では輸入インフレが進行/急激な円安の悪影響
 日本で進行している物価高は、輸入インフレである。世界的には昨年からエネルギーと食料が高騰しつつあった。脱炭素化の流れを見越しての産油国の供給制限、異常気象による穀物の供給不足や肥料のコスト上昇が原因であった。これにウクライナ戦争の勃発が拍車をかけ、世界はインフレの波に襲われている。とくにグローバルサウスは、食料危機が起こるなど大きな打撃を受けている。
 日本ではエネルギーと食料の世界的な値上がりに急激な円安が加わり、輸入品の価格が急騰した。輸入物価指数は、21年1〜6月平均で10.9%(対前年同月比)増であったのに、この4月には44.6%にまで急上昇した。円の対ドル相場は1月4日には1ドル=115円であったが、5月に入ると1ドル=130円台にまで下落した。4カ月で15円という急激な円安である。
 円安の原因は、主として日米の金融政策の違いによる金利差の拡大である。米国のFRBは、インフレ抑制を最優先して政策金利を3カ月で1.5%も引き上げる政策に転じた。他方で、日本は、日銀が「全体として円安はプラス」(黒田、4月28日)と言い張って相変わらずゼロ金利の金融緩和を継続している。そのため、日米間の長期金利の差は2%以上も広がり、円売りドル買いが進む一方である。
 それでも、日銀は円安の進行を抑えるために金利を引き上げる政策転換に踏み切れない。長期金利の上昇が企業の借入や住宅ローンの金利を高くし、ただでさえテンポの鈍い景気回復にブレーキをかける惧れからだけではない。金利上昇にともなって、巨額の累積債務を抱える政府にとって国債の利払いが急増するからだ。長期金利1%の上昇だけで、国債費(償還と利払い)は3.7兆円も増えると試算されている。だが他方では、円安が加速する物価高は個人消費を控えさせて需要の回復を遅らせるから、景気回復に悪影響を及ぼす。政府と日銀は、前にも後にも進めない金縛りの状態に陥りつつある。
 米国の歴史的な高インフレは、世界的な資源高の作用もあるが、労働市場の逼迫による賃金上昇が大きな要因である。米国の失業率は、「完全雇用」に近い3.6%(5月)にまで低下している。コロナ感染が怖い、介護のため復職できない、給付金が手厚いといった要因から、労働参加率が62.2%(4月)と低い水準にとどまっている。そのため、人手不足で企業が賃上げを迫られ(3月の平均時給は前年同月比5.6%の伸び)、コスト上昇分を価格に転嫁することによってインフレが高進している(それでもインフレ率の方が賃上げ率を上回っていて、実質賃金は下がっている)。
 これに対して、日本ではインフレは2%台で推移するだろうと予想されている。失業率は2.5%と低い水準だが賃金の上がり方がいぜんとして鈍いため、コストと需要の両面から物価を押し上げる力が弱いからである(GDPの需給ギャップは22年1〜3月期でマイナス3.7%と、まだ21兆円の需要不足)。岸田首相は今春の3%超え賃上げを要請したが、大企業の賃上げ率でさえも2.27%にとどまった。大企業の3月期決算では、純利益は前期比37%増の37.5兆円と過去最高を更新。だが、2021年10〜12月期の労働分配率は、2000年以降で最も低い水準であった。原資はたっぷりあるのだが、人件費や投資に回っていない状況が続いている。
 企業は、輸入物価と企業物価(企業間取引の価格、4月は前年同月比10.0%増)の急上昇によるコスト増大分を消費者向けの販売価格の引き上げに転嫁しつつある。とはいえ、それが売上げの減少を招くことを恐れて、販売価格の上昇を最小限に抑えるべく人件費の節約に走る企業も少なくない。これも賃上げを抑える要因となっている。

岸田政権と野党の物価対策/ガソリン価格の抑制
 2%のインフレとはいえ、物価上昇ゼロ%の時代を長らく過ごしてきた私たちにとって最近の物価高は暮らしを脅かしていると痛感される。参院選を前にして、急激な物価高への対策が大きな政治争点の1つになってきたのは、当然のことである。
 岸田政権の物価対策は、ガソリン価格の値上がりを抑える対策だけしかない。すなわち、ガソリン(および灯油)価格を1リットルあたり168円以下に抑えるために、石油元売り会社に多額の補助金を1月から支給している。補助金の上限額は、当初の1リットルあたり5円から35円にまで引き上げられた。この補助金は、まず21年度補正予算の予備費で893億円を確保したが、それでは足りず2.7兆円の22年度補正予算まで組んだ(5月31日に成立)。うち1兆1739億円をガソリン補助金に充てるが、「今後への備え」の1兆5200億円も使えることにしている。トータルでは1兆8822億円と、2兆円近くになる見込みである(日経新聞5月18日)。
 驚くのは、野党の対案の柱も、消費税の時限的引き下げと並んで、ガソリン税減税による価格抑制になっていることだ。国民民主党・共産党・立憲民主党はトリガー条項の発動(ガソリン税の上乗せ分25.1円をなくす)を、れいわ新選組はガソリン税ゼロ(53.8円をなくす)を提案している。補助金の支給かガソリン税の引き下げかという違いはあっても、岸田政権も野党もこぞってガソリン価格を抑えこむことに物価対策を絞りこんでいるのである。
 しかし、ガソリン価格を抑制する措置は的外れであるだけでなく、気候危機の解決のためのCO2削減の流れに逆行する。
 的外れだというのは、どういうことか。エネルギー関連の家計支出のなかで、値上がりの影響が最も大きいのは、ガソリン価格ではなく電気代であるからだ。電気は、生活する上で誰もが死活的に必要とする公共財である。クルマに乗らない人はいても、電気を使わない人はいない。しかも、表1が示すように、消費支出に占める電気代は、ガソリン代よりもずっと大きな比率(2倍)を占めている。また、2人以上世帯の2月の消費支出のうちガソリンは1.9%だが、電気代は25.9%(前年同月比、東電)上昇したこともあってガソリンの3倍の5.9%になっている(日経新聞4月27日)。

表1 エネルギー関連の家計支出(年、2021年)
*電気代  123,804円  3.7%(家計支出全体に占める比率)
*ガス代   55,778円  1.7%
*灯油    13,347円  0.4%
*ガソリン  59,446円  1.8%
(木内登英「ガソリン補助金で本当に家計は助かるのか」、NRI22年4月12日)

 したがって、ガソリン価格の高騰を抑える政策は、インフレによる家計の負担増大を軽減する上で効果があまり大きくない。むしろ、電気代の上昇による負担増を軽減する措置を取ることこそが求められている。電気代の値上がり分を補填する給付金の支給、あるいは企業向けに比べて1.7倍も高い家庭・小規模事業者向けの電気料金を引き下げるといった措置が必要である。
 ただし、鉄道や路線バスの相次ぐ廃止でクルマに頼るしかない地方(町村)の居住者は、ガソリン支出が年90,672円(2019年)と、家計支出の3.1%を占める。対して、大都市(東京都区部と政令指定都市)のそれは、1.0%にすぎない。そのため、ガソリン価格の高騰は地方の住民を直撃し、重い負担増を強いている。したがって、地方の住民に対する負担軽減の措置が特別に必要になる。

脱炭素化にブレーキをかけてはならない
 ガソリン価格の高騰を補助金やガソリン税減税によって抑えこむ政策は、脱炭素化の動きにブレーキをかける。日本のガソリン価格は、もともとドイツなど欧州諸国に比べて格段に安くなっている。
 原油価格が高騰する以前(2021年2月)でのガソリン価格(1リットルあたり)は、ドイツが1.73ドル(約182円)に対して、日本は1.34ドル(約141円)であった(表2)。つまり、ドイツの価格の8割弱(77%)の水準になっている。本体価格はほぼ同じであるから、「エネルギー白書」(2021年版)も「各国の税制の差が小売価格差の原因」であると指摘している。なお、米国は0.66ドル(約69円)と際立って安いが、本体価格が少し低い(0.53ドル)だけで税額が0.13ドルにすぎないことが大きな理由である。ガソリンへの税額は、ドイツ1.07ドルに対して、日本は0.66ドル(約69円)とドイツの62%にとどまる。OECD加盟国(38カ国)のなかで、日本のガソリンの小売価格は28位、税負担額と税負担率は29位と際立って低いのである(2021年第3四半期)。

表2 ガソリン価格の国際比較(2021年2月)
       本体価格  税額    合計
 日本    0.68    0.66    1.34
 米国    0.53    0.13    0.66
 英国    0.59    1.08    1.67
 フランス  0.62    1.13    1.74
 ドイツ   0.66    1.07    1.73   
単位:米ドル/1リットル
   (資源エネルギー庁「エネルギー白書」2021)

 このように、日本は、税額を増やして価格を高めに誘導することによってガソリンへの需要を減らしCO2排出量を削減する積極的な政策を採ってこなかった。このことは、2012年から導入された炭素税(地球温暖化対策税)がCO2排出1トンあたり289円と極端に低いことにも見て取れる。ドイツではCO2排出枠(販売業者が買い入れて小売価格に転嫁する仕組みで、21年から導入)の購入価格は1トンあたり25ユーロ(約3350円)で、25年には55ユーロ(約7700円)まで引き上げられる予定である。
 ウクライナ戦争の影響をもろに受けて、ドイツでもガソリン価格は1リットルあたり2ユーロ近く(約280円)まで上昇し、市民の生活が深刻な打撃を受けている。政府は対策として、300ユーロ(約4万円)の「エネルギー手当」の支給と並んでエネルギー税の3か月間の引き下げを検討している。だが、より安い公共交通機関のチケットを提供して脱ガソリン=脱クルマを促進する政策に見られるように、脱炭素化を促進する政策を変えようとはしていない(守屋 健「ディーゼルの価格がガソリンを上回る! ドイツの最新燃料事情とは」、「外車王SOKEN」22年4月11日)。
 気候危機への対応が待ったなしであることを考慮すれば、もともとガソリン価格を安くしている日本で、価格の人為的な引き下げによってガソリンへの需要を増やしCO2排出を促すような政策をとってはならない。ガソリン補助金には2兆円弱が予定されている。トリガー条項を発動すれば、減税分は1億5700億円になる。脱炭素化のために設けられた基金2兆円に匹敵する金額だ。これだけのお金を、ガソリン需要を支えて化石燃料への依存を強めることに回すことの愚かしさは明らかだ。ガソリンへの補助金をやめると同時に、現在のガソリン税は税率を維持したまま炭素税に組み替えられるべきだろう。そして、ガソリン車の新車販売の禁止を、35年から25年へと前倒しすることも必要である。

物価対策はいかにあるべきか
 それでは、物価高への対策はどうあるべきだろうか。
 緊急の対策として最優先されるべきことは、物価高によって大きな打撃を受ける低所得層への支援である。また、クルマがなくては生活できないためガソリン価格高騰で苦しんでいる地方の居住者への支援も重要である(長期的には、地方での鉄道や路線バスの復活、コミュニティバスの普及といった公共交通インフラの再生が課題になる)。
 インフレはすべての人に影響するが、負担増には大きな格差がある。最初に見たように、低所得の人びとの負担が最も重くなるのだから、この人びとの対する支援が最優先されなければならない。
 この視点からすると、消費税率の5%への時限的引き下げも必ずしも有効ではない。たしかに低所得層の負担も軽減されるとはいえ、それ以上に消費支出額の大きい富裕層や高所得層が恩恵を受けるからである。消費税率を5%下げると、年収247万円以下の世帯(全世帯の26.5%)は年8万0670円の還付を受けるのに対して、年収741万円以上の世帯は年23万6001円もの還付を受ける(井出英策「コモンズ再生の社会学」、20年11月28日)。それならば、消費税率を下げないで、その分を年収247万円以下の世帯に一律10万円の支援金として給付したほうがずっと有効な負担軽減になる。
 そこで、物価高への対策として、最も大きな打撃を受けている低所得者に対して一律10万円の「物価手当」を迅速に給付することが考えられる。エネルギーと食料品の値上がりで増える低所得層の負担額は、2万9000円と試算されている(内閣府)。また、1ドル=130円の円安が続くと、全世帯平均で6万円の負担増になるという推計もある(日経新聞4月29日)。あるいは、消費税5%減税で年収247万円以下の低所得層に還付される金額は、約8万円になる。したがって、10万円の「物価手当」の給付は、影響の大きい電気代の上昇分や地方でクルマに乗るしかない人のガソリン代の負担増も含めて、有効な負担軽減になりうるだろう。10万円の給付の対象を住民税非課税世帯など約3千万人にすると、財政支出は3兆円になる。だがこの金額は、ガソリン補助金に支出予定の2兆円やガソリン税の減税分1億5700億円に比べてもそれほど巨額の支出ではない。

エネルギーと食の地域自給を実現する脱グローバル化を
 現在の物価高は一過性の出来事ではなく、今後も長く続いていく趨勢になると予想される。ウクライナ戦争が終わっても、政治と軍事の不安定化による世界経済の供給網の分断や気候危機の影響が強まる。世界のエネルギーと食料の供給不足と価格上昇は、簡単には収まらないだろう。とすれば、リベラル・左派の野党や市民運動には、緊急の対策だけではなく長期的な展望に立って経済構造や生活様式の転換をめざすビジョンや政策が求められる。その中心は、脱炭素化の強力な加速、エネルギーと食の地域自給の実現、賃金水準の引き上げである。
 エネルギー価格の急騰は多くの国で、化石燃料依存からの脱却と再エネの拡大の動きを後押ししている。とはいえ、この動きは一直線には進まず、電力不足を口実にした石炭火力の復活や原発再稼働の企ても強まっている。日本では、化石燃料依存を温存するガソリン価格抑制政策をやめるとともに、石炭火力を即時停止させ原発再稼働を阻みながら、再エネの拡大に全力を挙げる必要がある。
 日本の輸入インフレは、エネルギー・食料の世界的な高騰に円安が加わったことから来ている。そして、その根幹にはエネルギーと食料の確保をほとんど輸入に頼っているというグローバル化一辺倒の経済構造がある。私たちの多くが、とにかく安く買えればよいという発想に浸ってきた。そして、この経済構造と生活=消費様式は、グローバルサウスの労働力と資源の収奪の上に成り立っている。だが、最近の物価高騰は、こうした経済構造や生活意識を足元から激しく揺さぶり、それが持続不可能であることを教えている。
 このなかで経済ナショナリズムが台頭し、軍備拡大と結びついた「経済安全保障」の重要性が声高に叫ばれている。私たちは、国家レベルのエネルギーや食料の自給率の向上だけをめざす「エネルギー安全保障」や「食料安全保障」という枠組みを突破しなければならない。必要なことは、地域社会の自立・自治につながるエネルギーと食の地域自給の実現である。
脱グローバル化は、その最大のメリットである低価格の社会、つまり「安い日本」を失うことを意味する。「安い日本」(低価格・低賃金・高利益)は、海外から安い食料や製品を大量に買い入れることによって実現されてきた。同時に、賃金水準の低下のおかげで低価格のサービスを享受してきたことも大きな要因である。なにせ、この30年間で平均賃金は4.4%、18万円しか増えなかったのだから。そして、賃金の伸び悩みは、非正規雇用の増大、女性差別、最低賃金の低さ、ケア労働者の低い報酬に起因する。
 脱グローバル化によって物価は安定しても、モノとサービスの価格が上がることは避けられない。これに応じて、賃金とそれに連動する年金の水準も引き上げられなければならない。正規と非正規、男と女の間の大きな格差が解消され、最低賃金が時給1500円以上にアップされるのは当然だが、それだけではない。ケアが中心になる経済に移ることによって、ケア労働はその社会的価値を正当に再評価されて、その賃金も抜本的に引き上げられる。
長い目で見れば、「安い日本」を脱却して脱成長の《高価格・高賃金・低利益》の日本に移行することが問われるのである。
(2022年6月9日記)


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