メニュー  >  特集 再考「1968」:既成の「物語」を剥がす―特集にあたって 松井隆志
『季刊ピープルズ・プラン』80号(2018年5月15日発行)
特集 再考「1968」:既成の「物語」を剥がす―—特集にあたって

松井隆志(本特集責任編集)





 今年は、「一九六八年」からちょうど半世紀となる。既に雑誌その他で、「一九六八」、すなわち一九六〇年代後半の世界同時並行的な闘争・叛乱についての特集が組まれ始めている。本誌も、五〇周年を機に「一九六八」を特集する。とはいえ、既成の「一九六八」イメージの再流通に加担したいわけではない。むしろ、これまで語られてきた「物語」を再点検し、それを刷新すること、少なくとも、そのための論点や糸口を読者に提示したいというのが、本特集の目指すところだ。

 既成の「物語」とは何か。一例として、早くも昨年(二〇一七年)の一〇月から一二月にかけて行われた国立歴史民俗博物館での企画展示「「一九六八年」——無数の問いの噴出の時代」を取り上げたい。ベ平連および地域の各闘争、そして学生運動をとりあげた同展示には、予想以上に多くの参観者が訪れたようだ。日本の出来事に限定されていたとはいえ、かなり幅広い現象について実証的な展示を行い、多くの人々の関心を集めた点は、意義があったと言えよう。

 しかし、「市民運動」と「全共闘」とが主体的な「個」の「無数の問い」を発したという「一九六八」イメージは、既に見慣れた「物語」だ。全くの間違いというわけではない。しかし、同展示では、「新左翼」党派はもとより、共産党(民青)すら、具体的な関与を明示されることがほとんどなかった。いわば、党という存在抜きの「一九六八」像。当然のように、「革命的運動の脱色」と「ニセ左翼の自己正当化」という両極の(ただし、いまやどちらも微弱な)批判も出たという。本特集はこのどちらかの立場に加担したいわけではない。問題は、これら全てを含むような、「一九六八」の複雑で豊かな関係性を、同展示が表現しそこなっていた点にあると考える。たとえば、第一展示室に「市民運動」、第二展示室に学生運動という展示の分断構造は、両者の相互関係(「新左翼」と三里塚といった具体的な関係はもとより、ベ平連と学生運動の反発と相互浸透、公害問題と大学闘争の近代合理主義批判という共通性など)を(部分的な言及はあったとしても)明瞭に示すことを困難にしていた。

 この「複雑で豊かな関係性」への着目は、そもそも「一九六八年」で象徴すること、あるいはその切り取り方への疑問を提起する。たとえば「市民」も「新左翼」も、当時まだ強固な存在感のあった「既成革新勢力」との関係の中で生まれ、展開した。この時代の運動のそうした「由来」を無視するわけにはいかない。同時に、なぜこれほどの高揚が、現在ではほとんど「異世界」にしか見えない状況になってしまったのか、という問題もある。「一九六八」の後の時代、その「帰結」も繰り込んで考えなければ、「一九六八」はノスタルジーの対象以上の意味を持たないことになろう。

 特に後者の論点は、歴史を取り上げる際の「問い」の重要性を提起する。現在の私たちがなぜ「一九六八」と向き合わなければならないのか。その結果、何を掴みだそうというのか。一〇年区切りの惰性で企画される類の「一九六八」論は、こうした歴史意識を欠く(もしくは真剣な再検討を怠る)場合が多いように思われる。

 それに対して本特集は、日本における社会運動の問題として「一九六八」を引きずり出し、その正負の教訓を明らかにしたいと考えた。本特集では、「一九六八」の世界同時並行的な側面の紹介は少なく、日本に限っても、全体像はもとより個別の闘争の解説も主題化していない。紙幅不足のみならず、冒頭で述べたとおり、既存イメージをなぞることに終始しがちな概説書・入門書を目指したわけではないからだ。むしろ、「私たちの現在」を理解し、再検討し、変革するための信頼できる足場となるような「一九六八」の新たな見方をこそ、提示したいと考えた。

 以上を踏まえ、本特集の企画にあたっては、「一九六八」の意外で錯綜した関係の線を浮かび上がらせることを目指した。その際、その由来を形作る前史、特に「六〇年代」(六〇年安保闘争以降)の幅で歴史を描くことを心がけた。また、「一九六八」が、現在との関係で何を意味するのか、この時代とあの時代をつなぐために何を踏まえなければならないか、についても意識した。

 結果として本特集には、企画者の想定以上に熱のこもった記事が集まった。協力していただいた皆さんに感謝すると同時に、運動と研究の双方の現場をつなぐことを目指すピープルズ・プラン研究所の雑誌だからこそ、可能になった誌面だと自負する。とはいえ、これは一つ(あるいはいくつか)の問題提起であり、始まりに過ぎない。本特集が、(異論・反論を含む)今後の議論の活発化に益することを願う。
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コメント一覧

ゲスト   投稿日時 2018-6-11 18:27
既成の「物語」を剥がして、新しく提示したものは何ですか?