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総選挙――安倍政権の存続を許してはならない


白川真澄
(『季刊ピープルズ・プラン』編集長)
2014年11月30日記
                                

総選挙の争点は安倍政権そのものである

 総選挙の争点は、あれこれの政策ではない。安倍政権そのものである。
安倍首相は、自らの「経済政策、成長戦略をさらに前に進めていくべきかどうかについて国民の判断を仰ぎたい」(11月18日、記者会見)、「アベノミクス解散だ」(11月21日、同)と述べ、アベノミクス評価を争点にしようとしている。とんでもない詐術であり、真の問題を隠ぺいするものだ。問われているのは、安倍政権を存続させてよいのか否か、この政権に白紙委任を与えるのか否かなのである。
将来に災いをなす安倍政権の存続を許してはならない理由となるテーマは、3つある。
1つは、世界とアジアのなかでの日本の立ち位置である。安倍政権は、集団的自衛権の行使に踏み込もうとしている。そして、侵略戦争の歴史を否認し、中国敵視を煽って日中関係を悪化させてきた。米中両大国が対抗しつつ協調するという時代の変化に背を向け、日本を孤立の道に追いやろうとしている。
2つは、民主主義の問題である。安倍政権が推進してきた主要な政策は、経済政策を別とすれば特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、原発再稼働のいずれをとっても「国民」の多数が反対している。にもかかわらず国会内の絶対多数(「一強多弱」)と内閣支持率の高さを武器にして、権力を思い通りに行使し、「民意に反する政治」を続けてきた。
3つは、アベノミクスである。安倍首相は、アベノミクスが景気回復と雇用・賃金の改善の成果を生んだと強弁し、いままで通りアベノミクスへの「期待」(幻想)によって支持を得られると踏んでいるようだ。だが、円安と株高バブルの足元で人びとの生活は苦しくなり、格差が広がり、アベノミクスも失速・破産しつつある。
以下、この3つのテーマに即して、安倍政権の罪を検証してみる。

日本を国際的な孤立の道に追いやる

 安倍政権の第1の罪は、集団的自衛権の行使容認という憲法解釈を閣議決定(14年7月1日)したことである。
 これは、他国、つまり米国やその軍隊を守るために自衛隊が海外で戦争することを可能にする。安倍首相は、「我が国の存立が脅かされる」事態に限定して集団的自衛権を行使すると言い繕った。だが、そのような事態には、ペルシャ湾の機雷封鎖で石油供給が途絶えて日本経済に打撃が及ぶケースまで含まれる。つまり、世界のどこで起こる有事(米軍の軍事行動)でも「我が国の存立が脅かされる」ことにつながると政権が判断すれば、集団的自衛権の行使に制限などなくなる。
 そこで使われるのが、憲法はもともと自衛権の行使を認めているというロジックである。つまり自衛という大義名分さえ立てば、国家は戦争ができる。だから、国際的状況の変化に応じて戦争する範囲を柔軟に変化させればよい(ある時は個別的自衛権を、別の時には集団的自衛権を行使する)。それは憲法の枠内で許される行為であって何の問題もない、という憲法解釈である。その意味では、安倍政権との根本的な対決のためには、憲法は国家の自衛権(個別的であれ集団的であれ)を、つまり自衛の名による戦争をけっして認めていないという原理に立ち帰ることが必要である。
 安倍首相は、集団的自衛権行使容認に踏み切った理由を2つ挙げている。1つは、「日米同盟は死活的に重要だ」からだと。もう1つは、「日本を取り巻く安全保障環境が大きく変化した」からだと。具体的には、主権確保のためと称して挑発的行為を強める中国の海洋進出である。この2つから出てくる安倍外交は、日米同盟をさらに強固にして中国と対抗(包囲)するという路線である。
 だが、この路線は、まったく時代錯誤でしかない。世界は、米国の覇権が凋落し、米中両大国が対抗しつつ協調する関係(「G2体制」)が軸になる新しい時代に入っている。11月に中国で開かれたAPECの際の10時間を越えるオバマ・習会談は、その象徴であった。しかし、安倍首相は時代の変化に背を向け、「価値観外交」(「自由、民主主義、人権、市場経済、法の支配」という共通の価値観をもった国々との関係を深める)を振りかざして事あるごとに中国への敵意を煽り立ててきた。その結果、50カ国近くを訪問する「地球儀を俯瞰する外交」から日本に最も近い中国(そして韓国)を除外するという異常な事態を生んできた。
 安倍の対中強硬路線は、国内的には高い内閣支持率を生む理由の1つとなってきたが、手直しを迫られた。米国は日中間の衝突を恐れて関係改善への圧力をかけ、経済界も対中経済関係の停滞に不満を強めたからである。11月の安倍・習会談の実現は、関係のこれ以上の悪化を避ける役割を果たした。だが、真の関係改善にはほど遠かった。
 その責任は、安倍政権の側にある。関係悪化の原因となっているのは、歴史認識問題と尖閣諸島をめぐる領有権争いである。安倍首相は、口先で「村山談話の継承」を言いながら、侵略戦争を正当化する靖国神社への参拝を強行し(13年12月)、いまも参拝しないとは明言しない。この矛盾した言動が中国の不信を招いている。また、尖閣諸島をめぐっては、紛争の存在を認めて領有権争いを棚上げするというのが、唯一の平和的な解決策である。だが、安倍政権は、頑なにこの方策を拒んでいる。
 安倍政権が存続するかぎり、日中関係の真の改善はありえない。日中和解を起点にした東アジアの共生と協力の新しい秩序形成(「東アジア共同体」)への道は閉ざされてしまう。そして、首相が靖国参拝にこだわり「従軍慰安婦」問題で謝罪しない日本は、世界から見れば異様で異質な価値観の国である。戦後70年を迎えて、侵略戦争を反省せず、性奴隷制という人権侵害について謝罪しない国がどう評価されるか、想像に難くない。安倍政権は日本を孤立の道に追いやるが、それによって失うものはあまりにも大きい。

民主主義の破壊者

 安倍政権の第2の罪は、曲がりなりにも存在してきた民主主義を破壊してきたことである。
 安倍政権が昨年末に強行成立させた特定秘密保護法は、市民の知る権利や報道の自由を奪い、政府と官僚による情報の秘匿・独占を正当化する稀代の悪法である。だが、民主主義の破壊は、この法律の制定にとどまらない。安倍政権が推進してきた主要な政策は、ことごとく「国民」の多数が反対するものである。
 世論調査に現われた民意は、特定秘密保護法については反対51%:賛成36%(共同通信13年10月27日)、集団的自衛権行使容認については反対55%:賛成29%(朝日新聞14年5月26日)、川内原発の再稼働については反対52%:賛成31%(同14年11月11日)となっている。
 たしかに、消費税の8%への引き上げ(賛成43%:反対49%、朝日新聞13年8月26日)、首相の靖国参拝(良かった41%、するべきでなかった46%、同14年1月28日)、普天間基地の辺野古移設(賛成36%:反対34%、同上)など、賛否が相半ばするものもあった。だが、アベノミクスへの期待だけが例外的に高かった(期待できる55%:期待できない26%、朝日新聞13年4月16日)ことを除けば、高い支持を得たものはなかったのである。
 安倍政権は、第一次政権の失敗の教訓から、内閣支持率の数字には特別の注意を払い、対策をとっていると言われている。その政権が安保・憲法や原発などの重要政策については、半数を越える強い反対の民意を無視し続けてきたのだ。
 民意を敵視する政治が極まったのは、辺野古基地建設の問題である。沖縄の人びとは、14年1月の名護市長選に続いて11月の県知事選で新基地建設にノーをあらためて明確に表明した。反対派の翁長氏は、現職の推進派知事に10万票もの大差をつけて勝利した。だが、菅官房長官は、「建設工事を粛々と進める」と言い放った。何という傲岸さか。「日本の民主主義のあり方が問われている」という翁長氏の本質的な問いかけに対する答えがこれである。
 安倍政権は、人びとがどう意思表示しようが、これをあからさまに無視して権力を行使する。民主主義の破壊者をこれ以上、政権の座につけておくことはできない。

アベノミクスの「成果」の悲惨さ

 安倍首相は、景気回復と「経済の好循環がようやく動き始めた」(11月18日)と、アベノミクスの成果を得意気に語る。「企業が収益を上げれば雇用を増やし、賃金も上げることができる。この好循環を回していく。これがアベノミクスです」(11月21日)。
 では、その「成果」なるものを見てみよう。
 まず、株高と円安が急激に進んできた。これは、「第1の矢」である「異次元の金融緩和」が功を奏したとされる。株価は、政権発足時の10,800円から現在(11月21日)の17,357円へと、約6,500円、1・6倍値上がりした。円は1ドル84.79円から117.56円へ、約33円、39%も安くなった。この円安によって輸出向け製造業の大企業の収益は急増し、上場企業の経常利益は約30兆円(15年3月期予想)とリーマン・ショック前の水準にまで回復した。トヨタの営業利益は、来年3月期には2.5兆円と、2年前の2倍に膨らみ史上最高となると予想される。
 大企業の利益の急増と賃上げへの政府の強い介入は、2%を越える賃金引き上げをもたらした。雇用は2年間で100万人増え、有効求人倍率は0.81倍(12年9月)から1.10倍(14年10月)に改善され、失業率は4.3%から3.5%に低下した。来春卒業予定の高校生の就職内定率は54.4%(9月末)、大学生のそれは68.4%(同)と、それぞれ前年比8.8%増、4.1%増といちじるしく改善された。
 しかし、自民党が吹聴する良いことづくめの数字の中身に立ち入ってみると、真逆の悲惨な実態が浮かび上がってくる。
 就業者100万人増の実体は、非正規雇用が123万人増えて正規が22万人減り、非正規雇用ばかりが増えている。正社員の有効求人倍率は、0.68倍(10月)にとどまっている。求人倍率や就職内定率の改善も、建設や飲食サービスを中心にした人手不足の広がりに起因する面が強い。また、大企業の正社員の賃金は今春、2.12%上昇したが、中小企業の労働者の賃上げ率は1.78%であり、非正社員の時給は11.64円増えた(前年比0.06円増)にすぎない。むしろ労働者内部の賃金格差が広がっている。13年1年の数値だが、民間労働者の平均給与は、正社員が年473.0万円と前年から5.4万円、1.2%アップしたのに対して、非正社員は167.8万円と2千円、0.1%下がっている。
 大企業が稼ぐ巨額の利益は、安倍が描くようには、労働者全体の賃金引き上げには還元されない。すなわち、富が上から下へと滴り落ちるトリックルダウン効果は、もはや働かないのである。その理由は、非正規雇用が2千万人、全体の4割近くにまで急増し、正規と非正規の間の格差が放置されるという雇用構造の変化が生じたからである。もう1つは、グローバル化し海外に生産拠点を移す大企業は、自国の労働者に利益を還元する動機を失なうからである。巨額の利益は内部留保として溜め込まれ、海外のM&Aに投資されている。グローバル企業は、研究開発部門とマザー工場に必要な高度人材さえ囲い込んでおけば十分なのである。

株高と円安は誰を富ませたのか

 アベノミクスによる景気回復とは、株高と円安による物価上昇のことである。
 株高は、外国人投資家による日本株の大量購入によって引き起こされたが(世界的な緩和マネーの流入)、「異次元の金融緩和」によって加速された。というのは、民間金融機関は、企業の設備投資や生産活動が停滞するなかでは、日銀から大量に供給される資金の貸出し先を見出すことができず、日銀の当座預金に積み上げるか、株式市場に供給するしかないからだ。
 13年5月に16,000円台にまで上昇した株価は、その後は乱高下を繰り返してきた。そこで、安倍政権は、株価の維持・押し上げのために政策を総動員する。「成長戦略」改定版(14年6月)で法人税率の引き下げや労働市場の規制緩和などを強く打ち出したのは、海外投資家の日本株への投資と海外企業の直接投資を呼び込む狙いからである。また、公的年金の積立金の株式での運用を25%にまで高めるという、リスクの高い方針を決めたのも、株価対策である。そして、金融緩和第2弾(10月31日)では、日銀が、株価に連動する上場投資信託(ETF)を従来の3倍の3兆円まで買い入れる方針を打ち出した。
 「株価こそ政権の命綱」(日本経済新聞14年6月16日)と評される。株価が景気回復のムードや期待をつくりだすからである。さらに、株高は資産効果を生むとされる。株高によって個人金融資産は、1年半で93兆円も増えた。そのため、株を保有する富裕層は、宝飾品や高級腕時計といった高額商品の購入を増やした。資産効果による消費の押し上げは6兆円になる、という試算もある。しかし、株を保有する人は、国民全体の12%にすぎない。株を持たない大多数の人びとにとっては、株高は何の恩恵もない。
 ふつうの人びとは、円安による燃料費や食料品など輸入価格の急騰による物価上昇に苦しめられてきた。賃金上昇では追いつけない物価上昇、つまり「悪いインフレ」の進行こそ、アベノミクスが生んだ現実である。これにさらに消費税率3%の引き上げが追い打ちをかけた。その結果、実質賃金はマイナス3.0%(9月、前年同月比)で連続15ヶ月のマイナス、実質家計消費支出もマイナス4.0%(10月、同)で連続7ヶ月のマイナスとなった。

破産するアベノミクス

 こうして、富裕層と大多数の人びとの間に資産や所得の格差が広がり、消費支出の二極化が進行してきた。金融緩和によるデフレ脱却を唱えたリフレ派は、物価上昇への期待=予測が消費支出を増やす、つまりおカネの価値が下がるからモノを買うはずだと主張していた。だが、賃金上昇では追いつけない物価上昇は、多数の人びとを節約に向かわせた。そして、格差の拡大は、個人消費の長期停滞を招く重要な要因として働くことが明らかになっている。
 個人消費の足踏みは、7〜9月期のGDP成長率が予想を大きく裏切って4〜6月期に続いてマイナス(年率換算マイナス1・6%)に陥る結果を招き、強い衝撃を与えた。株価と企業の利益だけが好調で、個人消費も設備投資も輸出も伸び悩んでいる。安倍首相でさえも「残念ながら成長軌道には戻っていない」(11月18日)と認めざるをえなかった。アベノミクスによる景気回復(実体経済の回復という意味での)は、ものの見事に失敗したのである。
 アベノミクスは、金融緩和と財政出動に頼って景気回復をめざすという従来の方策を繰り返すしかなくなっている。だが、金融緩和第2弾(さらなる大量の国債購入)については、日銀の金融政策決定会合で9人中4人の委員から「経済・物価に対する押し上げ効果は大きくない」、「財政ファイナンス(日銀による財政赤字補填)と見なされるリスクが高まる」という反対論が出た。真っ当な指摘だ。財政出動による公共事業投資も、人手と資材の不足によるコスト上昇で経済効果は薄れてきている。
 「第3の矢」である成長戦略が実行されていないという批判も多いが、まったく的外れだ。法人税減税といった成長戦略を推進して企業の利益増大を後押ししても、それが実体経済の回復につながらないことは、この2年間で実証済みである。アベノミクスは、人口減少社会に入り経済成長の条件がもはや失なわれた時代に、実質2%、名目3%の成長を実現するという幻想をばらまいてきた。だが、その幻想に綻びが生じつつある。安倍は「このアベノミクスの道しかない」と居直るが、冗談ではない。脱成長の道もあるではないか。
 GDP成長率がマイナスに陥ったりプラスに転じたりすることは、私たちにとっては二の次、三の次のことである。生活と雇用が最も大事である。その次元から見た人びとのアベノミクス評価は、ひじょうに厳しくなっている。アベノミクスの下で「暮らし向きは良くなった」と思う人は、わずか4%で、「悪くなった」と思う人は28%になる(「変わらない」は66%、朝日新聞11月11日)。アベノミクスが「賃金や雇用が増えることに結びついている」と思う人は、36%(同13年6月10日)から20%(同11月21日)に減り、「そうは思わない」人は45%から65%にまで増えた。そして、アベノミクスが「成功」だと思う人30%に対して、「失敗だ」と思う人が39%と上回っている(同11月11日)。1年半前にはアベノミクスを「評価する」人が63%、「評価しない」人が19%であったことからすると、逆転している。

自公の議席を大きく減らそう

 安倍政権は、政権の延命と長期政権化のためにだけ解散・総選挙に打って出た。政権側が主導権を握り、アベノミクスへの期待を最大の武器にして再び圧倒的多数の議席を得ようと目論んでいる。だが、これは大きなリスクを抱えた賭けでもある。
 9月の内閣改造がスキャンダルを多発して裏目に出た後、11月の沖縄知事選で痛烈な政権批判の一撃を浴びた。そして、頼みのアベノミクスも失速し、人びとの期待(幻想)も急速にしぼみつつある。
 とはいえ、安倍政権の強みは、自公政権にとって代わる受け皿たりうる野党が不在であることだ。そのこともあって、投票率の低下も予想される。そのため、自公を過半数割れに追い込むことは容易ではない。
 しかし、安倍政権への不満・不安・批判が予期せぬ形で噴きだす可能性は十分にある。安倍政権を真っ向から批判し、人びとに投票に行くことを促し、また野党間の選挙協力を進展させる。自公の議席を1つでも奪うさまざまの試みを展開すれば、自公の議席を大きく減らすことができる。好機を活かし、安倍政権にノーを突きつけようではないか。
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