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特定秘密保護法案になぜ反対するか

山口響
(ピープルズ・プラン研究所運営委員)
2013年10月29日記

 安倍晋三内閣は10月25日、特定秘密保護法案を閣議決定し、国会に提出した(全文はこちら)。メディアではすでに「知る権利」の問題を中心に法案の問題点が多く指摘されているが、あらためて、なぜいま秘密保護法案なのか、なぜ私自身がこの法案に反対するのかについて、書いていこうと思う。

1.多国間安保深化の下地づくりとしての秘密保護

 法案の直接の背景としては、2007年8月10日に締結された「秘密軍事情報の保護のための秘密保持の措置に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」をあげることができる。

 この長たらしい名前の協定は、一般に「軍事情報包括保護協定」(GSOMIA、読み方は「ジーソミア」)と呼ばれているもので、簡単に言うと、国と国との間で秘密軍事情報をやり取りする場合にその保護を図ることを目的としている(GSOMIAについては、福好昌治「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の比較分析」『レファレンス』2007年11月号、が便利)。

 武器の日米共同開発が目指され、米軍・自衛隊による共同作戦が増えてくると、その分だけやり取りされる軍事情報も多くなってくる。アメリカとしては、日本に渡した秘密情報がダダ漏れになっては困る、というわけだ。

 したがって、日米GSOMIAは、日本版NSC(安全保障会議)の創設、武器輸出三原則の緩和、集団的自衛権の解禁といった動きと連動した不可欠の要素となる。

 ただし、日本は米国とだけGSOMIAを結んでいるわけではない。すでに、日・NATO(2010年6月締結)、日仏(2011年10月)、日豪(2012年5月締結)のGSOMIAが存在している。イタリアとも2013年2月に協定の交渉入りしている。韓国とも締結する予定で署名寸前までいったが、日本とそのような協定を結ぶことへの反対論が韓国内で高まり、韓国側が締結延期を表明した経緯がある(2012年6月)。

 いずれにせよ、自衛隊としては米国だけが相手になるのではなく、多国間安保の枠組みの中でさらなる情報保全を図る必要が出てきた、というわけだ。

 秘密保護法案を考えるにあたっては、こうした軍事的文脈があることをしっかりと押さえておかねばならない。「知る権利」が確保されれば秘密保護法に賛成してもよい、ということにはならないのだ

2.法案提出までの経緯(2007年以降)

 日米GSOMIAを結んだからと言って、それに対応する国内立法が必要だと日本政府が確信していたかどうかは不明である。久間章生防衛大臣(当時)は2007年5月15日、衆院安保委員会で「(国内の立法措置)は必ずしもとらなければならないということじゃなくて、これから先そういうようなことでやったときに、現在の国内法で守られているような体制だけでいいかどうか、そういうのを含めて、むしろ国内で検討がされるべきじゃないかと思うんです」と答弁している。もしかすると、秘密保護体制が強化されることへの批判をかわす意図を持った答弁だったかもしれない。

 実際、福田康夫内閣時の2008年4月、「秘密保全法制の在り方に関する検討チーム」が政府内に発足している。検討チームは翌2009年4月に「考え方」を取りまとめ、これを受けて、同7月に「情報保全の在り方に関する有識者会議」を設置するが、9月に民主党政権に交代したため、わずか2回会合を開いただけで会議は中断してしまった。

 ここで起こったのが、2010年10月の「尖閣ビデオ流出事件」である。尖閣諸島沖で海上保安庁の船舶が中国漁船と激しくぶつかり合う様子を映したビデオを、現役の海保職員がYoutube上に流したという事件である。

 秘密保全法制化への動きを虎視眈々とねらう勢力はこれを奇貨として、同年12月に「政府における情報保全に関する検討委員会」の設置に成功する(当時は菅直人政権)。これを受けて翌2011年1月に設置された有識者会議が同8月、秘密保全法の必要性を謳った報告書を出し、法案作成は時間の問題となった。

 この間は、震災対応で各種日程が窮屈になっていたことや、民主党から自公政権への交代があり、法案化の作業は遅れていたが、この夏になっていよいよ動きが本格化した、という経緯である。

3.政府案――何が問題か?

 法案そのものへの細かい批判はすでにいくつも出ているが、ここであらためて確認しておく。

(1)「特定秘密」の範囲が広い

 行政機関の長は、)姫辧↓外交、F団衢害活動(スパイ行為など)、ぅ謄輕瓢澆4分野に関して、「特定秘密」の指定を行うことができる。

 指定の有効期間は最長5年だが、何回でも更新可。ただし、通算30年を超えるときは、内閣の承認が必要だとされている。

 上記4分野については別表でもう少し細かい定義がなされているものの、それでもなお、あまりに広い事項をカバーしている。時の政府部局の裁量によって、どんな情報でも市民の目から隠されかねない。

(2)秘密取扱者の「適正評価」(セキュリティ・クリアランス)

 公務員や民間企業(軍需産業など)の従業員に特定秘密を取り扱わせるにあたって、「適正評価」を行う旨を法案は定めている。具体的には、スパイやテロ行為をしたことはないか、家族関係、犯罪歴、薬物使用歴、精神疾患歴、飲酒歴、経済状況などが調べられることになっている(12条2項)。

 これらについては、評価対象者の同意を得て行うとされている(12条3項)。しかし、評価を拒むということは役所や企業に楯突くのと同義であり、評価は半強制的なものになるだろう。また、評価対象者は適正評価について苦情を申し出ることができるようになっているが(14条)、具体的な制度の裏付けがほとんどなく、実際には何の役にも立たない仕組みである。

(3)第三者チェック機能はほぼなし

 特定秘密の指定・解除や適正評価について、政府内で統一的な運用基準を作ること、この基準策定にあたって有識者の意見を聞くことを法案は定めている(18条)。

 しかし、有識者会議は一般的な統一基準の策定にあたって諮問的な役割を果たすだけ。実際の特定秘密に触れて、その指定の是非に意見することはできない。こんな有識者会議に第三者としてのチェック機能は期待できない。

(4)罰則の厳しさ、共謀・教唆・煽動にも罰則

 特定秘密を漏らした場合や不正に取得した場合は懲役10年以下の厳しい刑が待っている(22条、23条)。またそれ以上に問題なのは、それらを共謀・教唆・煽動した場合にも、懲役5年以下という厳しい刑罰が設定されていることだ(24条)。あとで述べるように、これは「知る権利」行使との関係であまりにも問題が多い条項である。

4.口先だけの「知る権利」

 法案の21条は、

第21条 この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。

2 出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。

と定めている。

 報道によれば、公明党からの修正要求を容れて、「知る権利」や「取材の自由」などを盛り込むことになったとされているが、政府・自民党がこの法案を通じて「知る権利」をまともに確保しようとしているとはとうてい思えない。自民・公明間で実質的な修正協議があったかのようなポーズをとって公明党に花を持たせる茶番に過ぎない。そこまで言い切る理由は以下の2つ。

(1)公文書管理・情報公開に関連した制度的裏付けがない

 第一に、政府法案は、公文書の作成→保管→廃棄あるいは公文書館への移管という、公文書管理法で定められた一連の流れの中に、「特定秘密」を含んだ文書を位置づけるような作りになっていない。

 法案には、特定秘密の指定を解除した場合の文書の取り扱いについては何も書かれておらず、指定解除された文書が政府内でこっそり廃棄されてしまう可能性がある。内閣情報調査室の橋場健参事官は「(文書が)廃棄されたことは公表しません」と明言したという(『毎日新聞』2013年10月28日)。こうなると、どの件が秘密指定されたのか、具体的にそれがどんな内容だったのかを事後的にでもチェックできる可能性は永遠に葬り去られることになる。

 実は、今現在でも、公文書管理法の規定の例外として、世間の目から隠されている情報がある。自衛隊法に定められた「防衛秘密」である。この「防衛秘密」のうち、秘密指定の解除後に国立公文書館に移管された文書はこれまで1点も存在しないという(『毎日新聞』2013年10月14日)。また、秘密指定されたままの文書については、たとえそれが密かに廃棄されていたとしても、外部の人間は誰も確かめようがない。

 自衛隊法上の「防衛秘密」は特定秘密保護法案の「特定秘密」に吸収されることになっているから、「防衛秘密」の取り扱われ方がそのまま「特定秘密」の取り扱われ方になってしまう可能性が高い。

(なお、この点については、NPO「情報公開クリアリングハウス」によるスライドパブコメへの意見書、公文書管理法に詳しい瀬畑源さんの解説(1)(2)を参照のこと)。

 第二に、第三者のチェック機能が法案にはほぼ埋め込まれていない。

 「統一基準」づくりへの有識者会議の形ばかりの関与については、先ほど述べたとおりだ。

 もうひとつ、特定秘密を含む文書に関して情報公開訴訟が提起された場合、政府が不開示と決定した文書を裁判所だけが閲覧できる「インカメラ審理」の制度が政府法案には含まれていない、という問題がある。

 実はこの制度、特定秘密保護法案の国会提出と同日の10月25日に、民主党が議員立法として国会提出した情報公開法改正案の中に含まれている。

 民主党としては、秘密保護法案の審議を認める代わりにうまく情報公開法改正案の審議を滑り込ませたつもりかもしれないが、おそらく最終的には自公にハシゴをはずされるのではないか。つまり、このままでは、秘密保護法案だけが可決され、情報公開法改正案は否決される可能性が高い。情報公開に対する歴代自民党政権の消極的な姿勢、そして国会の現有勢力から言えば、まずそうなる。

 秘密保護法制化への決定的な道筋は民主党政権時に付けられたということもあり、現在の政府法案に対する民主党の立ち位置は微妙だ。この段階になってもなお、政府案への民主党としての賛否を明らかにしていない。「もっと情報公開に配慮を」というところで党のプレゼンスを示す目論見だろうが、民主党は事実上、自公の補完勢力になってしまうかもしれない(個々の議員には反対論もあろうが)。

(2)罰則による「知る権利」への萎縮効果

 さて、公文書を公開させるということは、あくまで事後的な「知る権利」の行使に過ぎない。ジャーナリストや一般市民、社会運動によるリアルタイムの取材や情報収集が、「知る権利」行使の重要な要素であることは言うまでもない。

 しかし、すでに「3.政府案――何が問題か?」のところで述べたように、情報漏えいを「共謀・教唆・煽動」しただけでも厳罰が待っている。「著しく不当な方法」を使った場合は正当な取材とは言えないと法案は書いているが、「著しく不当」とはどうとでも解釈できる言葉である。

 このような条項を適用した逮捕や起訴の可能性を権力側がちらつかせるだけでも、「知る権利」を行使しようとする者にとっては強い萎縮効果をもつだろう。政府案の言う「知る権利」尊重など、まやかしにすぎない。

 このように、秘密保護法案は、日米同盟(+多国間安保)強化の重要な要素であること、法案自体も、秘匿できる情報の幅が広いうえに、「知る権利」尊重は形だけのものに過ぎないことなど、あまりに問題の多いものだ。即刻廃案にされねばならない。
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