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消費増税議論を斬る――野田政権の消費増税法案を葬り去ろう

白川真澄

2012年6月10日記

 野田政権は、小沢派の強い抵抗にてこずり、消費増税法案成立の活路をなりふりかまわず自民党との修正協議に見出そうとしている。だが、野田政権と自民党との談合でドサクサにまぎれて消費増税が実現されるような八百長試合を絶対に許してはならない。

化けの皮がはがれた「一体改革」

 消費増税法案は、消費税を2014年4月に8%に、15年10月に10%に引き上げようというものである。野田政権は増税を呑ませるために、「社会保障と税の一体改革」を謳って社会保障の機能強化(給付拡大)を前面に打ち出した。そして、年金所得65万円以下の人への加算、パート労働者の社会保険(厚生年金と企業健康保険)への加入拡大などのメニューを並べてきた。

 だが、経済界の激しい抵抗に遭ってパート労働者の社会保険加入の適用拡大は、当初予定された370万人からわずか40万人に切り縮められた。そして、社会保障改革の柱となる税による最低保障年金(1人月7万円)の導入は、消費税率5%の引き上げでは実現できず、税率のいっそうの引き上げが必要なことが明らかになった。

 しかも、最低保障年金の導入の構想そのものが、自民党の反対で風前の灯である。自民党は「公助」に対して「自助」の原理を明確に打ち出し、税の投入を増やすのではなく旧態然たる社会保険方式にこだわっている。修正協議が成立すれば、最低保障年金の構想は確実に潰え去る。また、自民党は、生活保護の「不正受給」キャンペーンに乗っかって給付の1割引き下げを提案しているが、小宮山厚労相も同調する旨の発言をしている。

 野田首相は、自民党に「大宮まで一緒に行きましょう」と呼びかけた。奇妙なことに、「朝日」はこれを支持して、行き先は青森か新潟かの違いなのだから「早く「『大宮』まで進めよう」という主張している(5月26日社説)。しかし、最低保障年金の導入や生活保護給付の拡充へ向かうのか、それとも社会保険方式にこだわり生活保護給付を削減するのかは、めざすべき社会像の違いであるはずだ。向かうべき方面が正反対で、東海道新幹線に乗るのか、東北新幹線(あるいは上越新幹線)に乗るのかという決定的な違いなのである。

 こうして、社会保障の機能強化は、刺身のツマにもならないものになりつつある。しゃにむに消費税率を引き上げるだけの純粋な増税法案という姿が露わになってきた。世論調査でも、この法案に反対する人が多くなっているのは当然のことである(「朝日」の6月初めの調査では反対56%、賛成32%)。にもかかわらず、「朝日」は「まずは一体改革法案の修正協議を急ぐ。合意できた法案は粛々と採択する」べきだと叫んでいるのだから(6月4日社説)、何をか言わんやである。

財政危機と社会保障拡充の必要性

 たしかに、日本の財政は深刻な危機に陥っている。2012年度で見ると、一般会計の歳出90.3兆円(復興費などを加えると実質96.7兆円)に対して、税収が42.3兆円、国債発行額が44.2兆円と、半分を国債に依存している。こうした異常な状態がここ4年間続いているが、この20年間は税収が減り続ける(1993年度54.1兆円→2011年度40.9兆円)一方で、増え続けた歳出(75.1兆円→90.3兆円)とのギャップが拡大し、大量の新規国債発行を続けてきた。その結果、国の累積債務残高は、2012年度末で1086兆円、対GDP比216%になる見込みである。これは、ギリシャの対GDP比165%、イタリアの128%、ポルトガルの122%(2011年)などを上回る数値である。
 
 だからといって、ギリシャと同じように日本国債が投げ売りされて暴落し、長期金利が跳ね上がって新規国債の引き受け手がなくなるといった危機的事態が切迫しているとまで言うのは、誇張だ。日本国債はいまのところ、相対的に安定した資産と評価されている。国債の92%が国内で保有されている、個人の純金融資産が1100兆円ある、租税負担率が低く増税の余地があると見られている、といったことが理由である。

 しかし、このまま大量の国債発行を続け、巨額の債務を積み上げていくことが許されるわけではない。国の保有する金融資産が大きいから財政危機とは言えないという論者もいる(高橋洋一『消費税「増税」はいらない!』)。だが、粗債務から金融資産(484兆円、2010年度)を差し引いた純債務で見ても、純債務は563兆円に膨れ上がり、その対GDP比は2005年度の85%から2010年度の116%へと急激に悪化している(2012年度では135%になる見込み)。

 同時に、こうした財政状況の下でも、社会保障の思い切った拡充が求められている。高齢化の進展と貧困のいっそうの増大、さらに3・11大震災と原発事故によって大勢の人が住まいや仕事を失ったという現実があるからだ。すでに100兆円を突破した社会保障給付費は、2015年度には122兆円、2025年度には151兆円にまで増えると見込まれている。

どのような選択肢がありうるか

 それでは、財政赤字を増やさずに社会保障を持続可能なものにするという難問を解くためには、どのような選択肢がありうるだろうか。大きくは、(1)財政再建を優先して、社会保障給付を大幅に削減する、(2)社会保障給付費の増大に見合う財源を新しく確保する、という2つに分かれる。

 第1の選択肢は、社会保障の効率化を進め、社会保障給付を大幅に削減するという新自由主義の道である。具体的には、税の投入を減らして医療や介護サービスの自己負担分を増やす、年金給付を減らす(支給年齢の引き上げなど)、生活保護給付をカットする。鈴木亘は、医療や介護の分野で税の投入を減らし、代わりに規制緩和を進めよと提唱している(『財政危機と社会保障』)。そうすれば、自己負担が増えて「過剰な」、つまり「不必要」なサービス利用を抑制できるから、医療費や介護費が節約できる。また、本当に医療や介護が必要な人は高い料金を払ってでもサービスを買うから、医療機関や介護ビジネスの利益も増えて優秀な人材を確保できる、というわけだ。

 しかし、自己負担の増大は、所得の低い人びとに医療や介護のサービスの利用を断念させる。鈴木は、低所得者に絞って補助金を出せばよいと言う。だが、医療や介護はそのリスクの性質からすれば、誰もが・いつでも安心して利用できるという普遍主義的なサービスでなければならない。貧しい人がサービス利用から排除される米国流の「自助」型社会を、私たちは拒否する。

 第2の選択肢は、社会保障の拡充に必要な財源を新たに確保するという道だが、そのためには3つの方策が考えられる。1つは、増税する。2つは、社会保険料の負担を引き上げる。3つは、増税しないで財源を調達する。

 消去法で言うと、第2の方策である社会保険料の引き上げは、もはや限界に達している。この20年間、税負担率が低下してきた(対国民所得比は1990年度の27.4%→2010年度の21.5%)代わりに、社会保険料の負担率は上昇してきた(11.3%→15.4%)。社会保険料収入は約60兆円と、社会保障給付費の6割を賄っている。その負担は勤労者世帯の平均で月4万6240円と、実収入の1割を突破し(2011年)、家計を圧迫している。社会保険料は定額(一律)部分があるから、低所得者層にはとくに重い負担となる。ワーキングプアの増大にともなって保険料を払えない人が急増し、国民年金保険料の納入率は57%、国民健康保険料のそれも88%にまで低下している(2011年度)。

 にもかかわらず、消費増税の議論に隠れて、今年の春から健康保険料や介護保険料の引き上げが相次いでいる。社会保険料の負担は2025年度までに25兆円も増えると予定されているが、社会保険料のこれ以上の引き上げは行なうべきではない。社会保障給付費の増大は、税で賄う方向に転換する必要がある。

 残るのは、税負担を引き上げるという方策か、それとも増税しないで財源を調達するという方策かである。

増税なしに社会保障を拡充できるか――消費増税反対論・その1

 野田政権と自民党は、増税する、しかも消費税を引き上げるしかないと言い張る。これに対して、増税なしに社会保障拡充のための財源を捻出するべきだというのが、消費増税反対論の主流である。これを増税不要論と呼ぼう。

 この立場は、まず税のムダ使いをなくして、その分を社会保障の拡充に回すべきだと主張する。八ツ場ダムや高速道路や整備新幹線の建設再開に代表されるムダな公共事業を中止する、軍事費をなくす、高級官僚の天下り(一説では、2万5千人の官僚が4500の法人に天下りし、そこに12兆円の税が投入されている)を根絶する。これは真っ当な主張であり、ただちに実行するべき事柄である。ところが、野田政権は、たとえば天下りの根絶の課題を公務員総人件費の削減、議員定数削減という話にすり替えてきた(植草一秀『消費税亡国論』)。

 しかし、税のムダ使いをなくすという方策だけでは、増え続ける社会保障の財源を賄うことは不可能である。一般会計で見ると、社会保障関係費の26兆円に比べて公共事業関係費は4.6兆円、軍事費は4.7兆円(2012年度予算)であり、その節減によって出てくる財源はそれほど大きくない。また、高級官僚の天下りを禁止しても、公益法人・独立行政法人をすべてなくすということにはならない。

 そこで、増税不要論が持ち出すのが、特別会計の「埋蔵金」を財源として使えばよいという主張である(高橋、前掲)。特別会計は、純歳出144.6兆円、純歳入188.2兆円(2011年度)と一般会計をはるかに上回る規模であり、巨額の剰余金(29.8兆円、2009年度)と積立金(182.4兆円)を抱えている。積立金の内訳は、年金特別会計など144.3兆円、国債整理基金12.5兆円、外国為替特別会計20.6兆円などである。

 ここ数年間、剰余金などから一般会計への繰り入れが行なわれてきたが、剰余金の使い方には官僚による裁量性が大きい。また、年金に見られる巨額の積立金やその運用が必要かどうかも疑わしい。こうした問題に根本的にメスを入れ、剰余金や積立金の一部を一般会計に繰り入れるべきだが、ここ毎年40兆円にも達する新規国債発行額をカバーすることはできない。

 増税不要論が繰り出す最大の論拠は、経済が成長すれば税収が増え、増税なしに財源が確保できるという論理である。「税収が不足しているなら、デフレを克服して名目成長率を高めるのが最も効果的なのだ」、「増税ではなく経済成長による増収が財政再建の近道である」(高橋、前掲)。

 同じ議論を展開するエコノミストは多い。「成長率(特に名目成長率)が高ければ、税収が増えるので、財政再建もやりやすくなる」(小峰隆夫「経済成長は七難を隠す」)。名目成長率1%では「税収が伸びず、何をやっても財政再建は無理です。……。日本も本気でやるならまず、普通の先進国並みの成長が不可欠です」。「政府・日本銀行が誤った政策を正し、デフレを克服すれば名目3%成長は普通にできます」(竹中平蔵「反消費増税の核心」、「朝日」5月25日)。

 経済成長派は、名目成長率を3%以上に、つまり長期金利よりも高くすれば、債務/GDP比は改善され、税収も増えると主張する。経済が成長しないのは政策が悪いからで、一段の金融緩和政策で市中に出回る資金を増やせばよいというわけだ。だが、金融緩和の効果が乏しいことは立証ずみである。経済成長にすべてを託す議論は、現実に即した政策論とはいえず、願望にすがるイデオロギーでしかない。

「持てる者」から税をとる――消費増税反対論・その2

 ここ20年間、税収の大幅な落ち込みは、所得税と法人税が激減してきたことによる(2税合わせて1993年度35.8兆円→2011年度21.3兆円)。その主たる理由は、経済が成長しなかったこと(1991〜2008年の年平均成長率は1.0%)にあるというよりも、所得税と法人税の減税政策にあった。所得税の最高税率の引き下げ(80年代70%→現在40%)、株式の配当や売却益など金融所得への軽率課税(10%)、相続税の最高税率の引き下げ(2002年まで70%→現在50%)、法人税率の引き下げ(80年代42%→99年の30%)などが、次々に行なわれてきたのである。

 その結果、富裕層の税負担率は、所得1億円を越えると軽くなるという逆転現象が生じている。相続税を払っているのは4%にすぎない。また法人税率は、国際比較すると高くて競争力を阻害していると批判されてきたが、租税特別措置や欠損金の繰越控除制度などによって課税ベースが狭くされ、実質的な負担は巨大企業ほど軽くなっている。

 まさに、日本の税制の最大の問題は、「持てる者」から税を取るという大原則(応能原理)を踏みにじった不公平な税制が作られ、それによって十分な税収が確保されていないということにある。減税(富裕層とグローバル企業への)こそが経済を成長させるという新自由主義の発想に囚われてきたからだ。税による所得再分配効果が先進国のなかで最低であることは、政府自身が認めている(2009年『経済財政白書』)。

 したがって、私たちはまず、増税といえば、消費増税しかないという発想を壊す必要がある。不公平な税制を抜本的に改革し、十分な税収を確保することから始めなければならない。所得税の累進性の強化(最高税率の大幅な引き上げ)、証券優遇税制の廃止と金融所得の総合課税への組み入れ、相続税の最高税率の大幅な引き上げ、巨額の資産所有者への富裕税の導入、法人税率の現状維持と課税ベースの拡大などである。

 さらに、これからの税制にとって重要な課題は、1つはグローバル・タックスを実行することである(通貨取引税の導入、法人税の国際的な引き下げ競争への規制、タックスギャップへの対策など)。もう1つは、環境税の本格的な導入である。

 消費税には税負担の世代間公平性という長所がある。しかし、不公平な税制の抜本的な改革という立場に立てば、逆進性をもつ消費増税は低所得者を苦しめ、格差拡大を促進する。消費税率を5%引き上げると、年収250万円以下の世帯では年11.8万円、600〜650万円の世帯では年15.7万円の負担増になる。だが、可処分所得に占める割合は4.0%と3.0%と、低所得者に負担がより重くのしかかる(第一生命経済研究所の試算)。なお、年収(当初所得)250万円以下の世帯は、いまや全世帯の43%にまで増えていて、2000万世帯を越えると推計される。

消費増税法案を葬り去ろう

 野田政権と自民党は、低所得者に重い負担を強いる消費増税に当たって、それぞれ逆進性緩和措置を持ち出している。野田政権は給付付き税額控除を、自民党は食料品や生活必需品の税率を軽くする複数税率を提案している。

 給付付き税額控除は、貧困対策としては有効な仕組みだが、その導入には所得の正確な把握が必要になる。そのため、政府は、社会保障と税の共通番号(マイナンバー)制度を導入する法案を提出している。しかし、この制度は、個人情報の国家管理と悪用の危険があるばかりか、「資産や預金まで把握できない」(「日経」6月1日)欠陥があることが指摘されている。

 政府は、暫定的な措置として低所得者に1人当たり年1万円を給付する「簡素な給付」を行なうとしている。だが、消費税率を3%引き上げた場合でも、250万円以下の世帯(夫婦と子ども2人)の負担は7.2万円増えると試算されているから、4万円の給付では負担軽減にならない。消費税率1%の引き上げで約2.7兆円の増収になるが、逆進性緩和措置には4千億円しか出さないという財務省の方針が立ちはだかっているからだ。

 同じように、税収が大きく減ってしまうという理由で、野田政権は複数税率の導入に反対している。たとえばイギリスでは、全品目が標準税率(17.5%)の場合に比べて、食料品などに軽減税率(0〜5%)を適用しているため、税収が37%も減ると言われている。

 抵抗が少なく取れるところから取るという方針で消費増税に前のめりになっている政権が、真っ当な逆進性対策を行なうはずがない。

 消費増税を行なう隠れ蓑として、野田政権は富裕層への課税強化を打ち出しているが、それは申し訳程度のものにすぎない。所得税の最高税率は5%だけ引き上げて45%にするが、それも当初の課税所得1800万円超に適用する方針から後退し5000万円超に適用する。これでは高所得者3万人だけが税負担増となり、税収も400億円増えるにすぎない。証券優遇税制の廃止を謳っているが、2014年1月からだ。相続税は、基礎控除を4割下げ最高税率を55%(6億円超)にし、納税者を6%に増やすとしている。しかし、これでは、たとえば相続財産10億円の法定相続人の納税額は1億7810万円にとどまり、現在より1160万円増えるだけだ。

 世界的なオキュパイ運動の主張の1つは、「持てる者」に税を支払わせろ!である。しかし、日本では巨額の資産をもつ富裕層に特別の税(富裕税)を課すという提案がどこからも出されていない。消費増税だけを強行する野田政権の企みを葬り去り、不公正な税制の改革と富裕税の実現をめざそう。
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