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麻生政権の追加経済対策は「安心社会」を実現しない
白川真澄

2009年6月2日

補正予算の成立と追加経済対策
 5月29日、国会で2009年度補正予算が成立した。その規模は14兆7000億円(うち8000億円は未成立)で、企業への資金繰り支援41兆円強(政府保証枠の拡大など)を加えた事業規模は56.8兆円と過去最大となる。これは、政府・与党が4月10日に決めた追加経済対策の裏付けとなるものである。政府は、この追加経済対策によって2009年度のGDP成長率を2%押し上げ、40〜50万人の雇用を創出するとしている。

 この追加経済対策は、正式には「経済危機対策」と銘打たれている。そこでは、日本経済は「2つの危機」に直面していると述べられている。1つは、「経済の『底割れ』という『短期的な危機』」である。実体経済の悪化が金融不安を招き、それがさらなる実体経済の悪化といった「『底割れ』のリスク」が高まっている。「経済の収縮による悪影響が……非正規労働者等の『社会的弱者』にしわ寄せされる形で現われ、社会全体の不安心理の高まりが、『底割れ』のリスクをさらに助長する懸念も生じている」。もう1つは、「世界経済の『大調整』への対応」という「構造的危機」である。「世界経済の『大調整』が進まざるをえない中で、……旧来型品目の輸出に依存した成長軌道への復帰を期待するのは最早、現実的ではない」。輸出依存型成長という「日本経済が抱えてきた『構造的な脆弱性』」の克服が問われている、と。

 政府の文書としては異例の危機感が漂う文章だが、その現状認識は間違ってはいない。経済危機のこうした認識に立てば、求められる経済政策は、当然にも次のようなものでなければなるまい。第一は、企業による大量解雇をやめさせ失業の増大を防ぐと同時に、仕事を失った非正規労働者やシングルマザーなどが貧困に陥らないように生存権保障の仕組み(「社会的セーフティネット」)を政府の責任で確立することである。第二は、輸出依存型の経済成長から抜本的に脱け出し、農業(食料)・環境(自然エネルギー)・ケア(介護・医療)を柱とする新しい経済構造の創出に向かって踏み出すことである。

 ところが、追加経済対策で実際に並べられた政策は、見せかけだけの中途半端なものであり、思いつきのメニューを寄せ集めて一時的効果を狙う消費刺激策にすぎない。

見せかけだけの雇用対策・貧困対策
 急増する失業や広がる貧困に対する政策から見てみよう。たしかに、追加経済対策は、「非正規労働者等に対する新たなセーフティネットの構築」を柱とする「雇用対策」をトップに掲げている。具体的には、雇用調整助成金(企業が解雇を避けて休業手当の支給や教育訓練を行う場合に政府がその一部を補助する)の助成率の引き上げに加えて、職業訓練期間中に月10万円程度の生活費を支給する、また失業者向けに住宅手当を支給することが新しく設けられた。反貧困の運動が要求してきた「第二のセーフティネット」(雇用保険=失業手当の支給と生活保護の中間に位置する)の導入であるかに見える。

 しかし、職業訓練期間中の生活費支給は今年度かぎりの、住宅手当の支給は6か月だけの緊急避難措置にすぎず、恒常的な制度にしようとはしていない。こうした見せかけだけのセーフティネット作りは、3〜5歳の子どもに1人当たり3.6万円の手当を今年だけ支給するという政策にも見られる。親の失業の急増につれて子どもが退学したり進学できなくなったりするなど、「子どもの貧困」が広がっている。だから、世界的にも低水準で知られる子ども手当(第1子・第2子は5000円、3歳未満の子と第3子は1万円、支給は12歳まで)の金額と支給年齢を大幅に引き上げることは、貧困対策の重要な柱のはずである。それを今年度1回だけ金額を引き上げて支給し、来年度からは元のままというのは、呆れた話である。

 麻生政権は総選挙を意識して、雇用と生活の不安をなくす「安心社会」の実現という看板を持ち出している(政府の「安心社会実現会議」の報告書が近く公表される予定)。しかし、追加経済対策における雇用対策や子育て支援対策を見れば、セーフティネットを恒久的な制度として構築するものではないことは明らかだ。1年間職業訓練を受けてスキルアップしても、半年間住まいを確保できても、肝心の就労先が見つからなければ、その先はどうなるのか。大失業時代が到来している現在、すべての非正規労働者を雇用保険に加入させる、失業手当の給付期間を延ばすことはむろんのこと、長期失業者や低所得者に対する所得保障の仕組みを導入することなしに「安心社会」など実現できない。

何でもありの内需喚起のメニュー
 輸出依存型の経済構造から脱却し、新しい経済のあり方をめざすという点から見ると、どうか。追加経済対策は、「輸出主導の『単発エンジン型』」の経済成長から「内需と輸出の双発エンジンによってバランス良く成長する経済」への転換を謳っている。その中身は、「低炭素革命、健康長寿・子育て」などをテコにした経済成長の実現ということである。従来通りの経済成長主義の発想に囚われている。

 実際の政策内容になると、もっとひどく内需を喚起するものであれば何でもありというゴッタ煮である。中古車を廃棄し低燃費車やエコカーを購入すれば補助金の支給や減税を行なう、省エネ家電を購入すればエコポイントを付け次の買い物に使えるようにする。これが、環境(CO2排出削減)を看板にした内需拡大政策なのだ。実体は、売上げが大きく落ち込んだ自動車や電機の企業に対する露骨なテコ入れである。

 定額給付金の支給(2008年度補正予算による)も、高速道路料金の引き下げも、子ども手当3.6万円の臨時支給も、人びとにカネを使わせようというだけの施策である。住宅の購入や改築を目的とする贈与税の減税(500万円までを非課税に)もそうである。そして、羽田空港の滑走路の延伸や東京外郭環状道路の新規着工など、反「グリーン」の公共事業も次々に解禁される。

 こう見ると、経済構造の根本的な組み換えに向かって踏み出すという政策は、ほとんどないと言ってよい。無理やり探しても、太陽光発電の電力会社による買い取り価格の引き上げ、介護職員の待遇改善のための補助金支給ぐらいしかない。

 そして、思いつきのメニューを寄せ集めた内需喚起策が効を奏するかといえば、それも怪しい。在庫調整が一段落し景気が底を打ったという楽観論も流布されているが、雇用は失業率5%、失業者346万人、有効求人倍率0.46倍(4月)にまでいっそう悪化している。これに対する対策が見せかけだけで「安心」の保障に程遠いとすれば、個人消費の回復など望むべくもない。追加経済対策は一時的なカンフル剤にしかならず、景気回復はやはり中国、そして米国の景気回復による輸出の復調を期待するしかないといった言説も有力だ。成長を前提にした内需主導か輸出回復かといった議論のレベルを超えて、人びとの雇用と生活を保障する公正で「脱成長」の経済のあり方を見つけだすしかない。
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