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公正な増税こそ必要――野田政権の「社会保障と税の一体改革」を批判する

白川真澄
(『季刊ピープルズ・プラン』編集長)

2011年12月8日記

◆消費増税に走りだした野田政権

 野田政権が、消費税率の引き上げを柱とする「社会保障と税の一体改革」に向けて本格的に走りだしている。この課題は、菅政権が2011年初頭にTPP参加と並ぶ最優先課題として提起したものである。3.11の大震災と福島原発事故の発生によっていったん後景に退いたが、菅政権は2001年6月に「社会保障と税の一体改革」成案を決定した。しかし、これは閣議への報告にとどまり、閣議決定にもならなかった。

 この「改革」成案は、2010年代半ば(2015年)までに消費税を5%引き上げて10%にすることを最大の眼目にしていた。これは、自民党政権時代の「社会保障国民会議」報告(2008年)をベースにしていたが、社会保障の機能強化(パート労働者の社会保険加入条件の緩和、低所得の高齢者の基礎年金への加算など)および効率化=給付削減(年金支給開始年齢の引き上げ、70〜74歳の高齢者の医療費の自己負担割合の引き上げなど)も提案されていた。しかし、何といっても、消費増税が中心であった。

 後を継いだ野田首相は、11月3日のG20会議で「2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げる」と明言し、消費増税を国際公約した。11月29日に民主党の年金、医療・介護、生活保護の分野の作業チームが報告書をまとめ、12月5日には厚労省が「社会保障改革」案を発表した。これを受けて、野田政権は、年内に「社会保障と税の一体改革」の素案をまとめ、来年に「大綱」(最終案)の作成、そして「消費増税準備法案」の国会提出に進むというスケジュールを立てている。野田首相は消費増税に強い意欲を見せているが、民主党内には増税に反対する声が強く、難航が予想される。

 現時点で提示されている「社会保障と税の一体改革」構想の特徴は、(1)今後の社会保障給付費の増大を支える財源の確保を、もっぱら消費増税に求めている。いいかえると、高所得者・富裕層やグローバル企業・大銀行への課税を強化する公正な税制改革(所得税の累進性強化、法人税率の維持、証券優遇税制の廃止、相続税の強化など)に踏み込まず、この課題から逃げている。(2)消費増税を人びとに受け入れさせるために、社会保障の給付拡充を前面に出し、自己負担の増大を先送りし隠そうとしている。

◆「一体改革」――社会保障の機能強化と効率化、消費増税

 6月の「社会保障と税の一体改革」成案は、2015年度に社会保障の機能強化(給付の拡充)で約3.8兆円の財源が必要となり、効率化(負担増や給付削減)で約1.2兆円を節約し、差し引き約2.7兆円を消費増税で賄うと試算していた。

 厚労省の最新の「社会保障改革」案では、社会保障の機能強化(給付拡充)のメニューとして、低所得者への年金加算(年収65万円以下の高齢者の基礎年金に月1万6000円を加算)、年金の受給資格に必要な加入期間の短縮(25年から10年へ)、パート労働者の厚生年金の加入拡大(労働時間が「週30時間以上」から「週20時間以上」で加入できるようにする、400万人が新たに加入)、産休中の保険料負担の免除、高額医療費の上限の引き下げ、低所得者の国民健康保険料の軽減などが提案されている。これらの機能強化(給付拡充)策は、消費増税実施と同時に実施するとされている。機能強化策そのもの評価できるが(ただし、子育て支援策として打ち出された「幼保一体化」は、重大な問題点をはらんでいる)、まだ部分的な措置にとどまっている。本来はベーシック・インカムの導入に向けて、その入口となる子ども手当の復活と「若者年金」への拡大、最低生活保障年金の導入といった措置が必要だろう。また、介護や子育てのサービスの拡充のためには、サービス従事者の報酬を思いきって引き上げる措置が不可欠である。こうした施策は提案されていない。

 一方、社会保障の効率化(負担増、給付抑制)の内容としては、過去の物価下落を反映するための年金減額(2.5%の引き下げ)、高額所得者の年金減額(基礎年金部分)、70〜74歳の患者の窓口負担の引き上げ(1割から2割へ)、外来患者の受診1回につき窓口負担に100円の上乗せが提案されている。

 しかし、効率化の柱とされた年金の支給開始年齢の引き上げ(65歳から68〜70歳へ)、デフレ下の年金給付調整(マクロ経済スライドの発動による給付水準の引き下げ)、厚生年金保険料の上限の引き上げ、介護保険の一定所得以上の利用者負担の引き上げ(1割から2割へ)、40〜64歳の介護保険料を収入に応じた負担にする総報酬制の導入といったメニューは、検討課題として先送りされている。消費増税への反発を緩和するために、利用者の自己負担を一挙に重くする案を隠したわけである。しかし、近い将来、医療や介護の自己負担分を引き上げ、サービスの利用を抑制して費用を削減しようとする狙いは見え見えである。

 そして、社会保障を支える財源は、もっぱら消費増税に求められている。すなわち、2013年秋以降に消費税率を7〜8%に引き上げ、2015年度に10%にするシナリオが描かれている。野田首相は、消費増税に「不退転の決意で臨む」(12月5日)と宣言し、引き上げの率と時期を明記した法案提出の準備を進めようとしている。

◆税収の大幅減と社会保障給付費の急増、財政赤字の膨脹

 ここで、「社会保障と税の一体改革」が否応なく迫られている背景と現状について、簡単に見ておく。

 日本の財政は、1980年から1990年までは支出(歳出)と税収(歳入)は、並行して増大していた。だが、バブル崩壊後は歳出が増えつづけてきたのと対照的に、歳入は減少傾向に転じ、歳出と歳入のギャップ(財政赤字)が急速に拡大してきた。この赤字分は国債発行によって埋め合わされたから(2010年度には、歳出92.3兆円の48%が国債で賄われた)、国債残高が急増した。1990年度末から2010度末にかけての国債残高の増加額は471兆円になるが、うち192兆円が歳出の増加に、169兆円が税収の減少に起因する。

 歳出の増加は、1990年代は景気回復を意図した大型の公共事業投資が行なわれたことによるが、2000年代は社会保障関係費の伸びが大きい要因となった。税収の減少の要因は、基幹税である所得税と法人税の落ち込みである。所得税収は、1991年度の26.7兆円をピークに低落しつづけ2009年度には12.8兆円にまで落ち込んだ。法人税収は、1989年度の19.0兆円をピークに低下し2002年度に10兆円を割り込んだ後、2003年から2007年度にかけて増収に転じ15兆円まで回復した。だが、リーマン・ショックを受けて2009年度には5.2兆円にまで激減した。

 税収の減少は、経済成長率の低下(1991年〜2008年は年平均で名目2.3%、実質1.7%)による面もあるが、新自由主義の発想に立って所得税と法人税の大幅な減税政策が景気回復を名目として採られたことが、最大の要因であった。これと対照的に、もう1つの基幹税である消費税は、5%に引き上げられた1997年度から2009年度にかけて10兆円前後の税収を維持していて、その安定ぶりが際立っている。

 この結果、国と地方を合わせた長期債務残高は、1989年度末の254兆円、対GDP比61%から1998年度末には553兆円、対GDP比110%へと倍増した。さらに、2010年度末には862兆円、対GDP比181%にまで膨れ上がった。これは、先進国の中ではギリシャの対GDP比142%、イタリアの119%をはるかに上回る最悪の財政破たん状況である。

 にもかかわらず、国債の格付けは上から4ランク目と低いが、いまのところ国債価格の暴落と金利上昇といった危機は生じていない。それは、国債の95%が国内で消化されていること、租税負担率が低く増税の余地があると見なされていることによる。しかし、いつ国債価格の暴落が起こってもおかしくない財政破たん状態にあることはまちがいない。

 一方で、年金や医療・介護サービスなどを提供するのに必要な社会保障の費用(社会保障給付費)は、高齢化の進展にともなって年々増えつづけている。1980年度の24.8兆円から1990年度には47.2兆円、2000年度には78.1兆円、2008年度には94.1兆円、2011年度には108.1兆円(見込み)と急増してきた。その内訳は、年金が全体の52.6%、医療が31.5%、介護など福祉が15.8%(2008年度)となっている。年金と医療の比重がいちじるしく高く、福祉(介護など)の比重が低いのが特徴である。

 この社会保障給付費を賄う財源は、税金だけではなく社会保険料が大きな比重を占めている。社会保険料が56.4兆円(全体の58.0%)、税金が31.0兆円(32.4%、うち国が22.4兆円、地方が8.6兆円)、ほかに資産収入8.3兆円となっている(2008年度)。同時に、政府予算のなかで社会保障関係費も、社会保障給付費の増大に伴って急増してきた。1980年度の8.2兆円(一般歳出の26.7%)から2000年度の16.8兆円(同34.8%)、2011年度の28.7兆円(同53.0%)にまで増えている。

 将来の社会保障給付費の伸びは、2015年度には121.9兆円(対GDP比23.9%)、2025年度には151兆円(同24.9%)にまで膨らむと推計されている。その内訳は、2025年度では年金61.9兆円、医療53.3兆円、福祉その他35.8兆円(うち介護19.7兆円、子ども・子育て6.5兆円)となっている。医療と福祉の伸びが大きくなっている。

 2015年度の社会保障給付費の財源は、社会保険料が約68.3兆円、税が47.4兆円と予定されている。そして、「社会保障と税の一体改革」案では、税負担を賄うために2015年度までに消費税を10%にまで引き上げることが盛り込まれている。

◆「社会保障と税の一体改革」の進め方をめぐる争い

 将来的に社会保障給付費の増大は、高齢化の進展だけではなく、貧困の増大への対応の緊急性という面からも、避けがたい。非正規労働者の74%が年収200万円以下である。生活保護受給者は最多の205万人に増え、相対的貧困率は3年前から0.3%悪化して16%になっている(2009年)。加えて、3・11大震災と原発事故で仕事を失って所得を得られない人びとが10数万人いる。貧困に苦しむ人びとを放置することは許されず、所得保障を拡充することが必要である。

 社会保障給付費は将来的に増えつづける一方で、財政赤字が膨らみ財政が破たんしている。この状況下で、これ以上借金(国債発行)に依存する財政運営ができないとすれば、財政赤字を拡大せずに社会保障を持続可能なものにするためには、どのような政策が採られるべきだろうか。

 新自由主義者は、社会保障の効率化を大幅に進め、社会保障給付費を削減するという方策を主張する。これは、年金や生活保護の給付を削減すると同時に、医療・介護・子育てなどについては公共サービスの提供を減らして個々人に自己負担・自己責任で市場から購入させるというものである。

 「社会保障と税の一体改革」案でも、年金支給開始年齢を68〜70歳に引き上げることが中長期的な課題として提起されている。また、3兆円を突破した生活保護を抑制するために、就労による自立を強要するべきだという意見も強まっている。医療や介護の分野では、自己負担額を引き上げるメニューが次々に出されている。自己負担を重くすることによって財政支出を減らすと同時に、「不必要な」な受診や介護サービスの利用を抑制すべきだというわけである。

 しかし、基礎年金だけでは生活できない高齢者は、女性を中心に数多くいる(女性の場合、年金受給額が年50万円以下の人が33%、100万円以下が73%を占める[2007年])。低所得者の年金給付の引き上げ(最低保障年金の導入など)が優先されるべきだ。また、医療や介護の自己負担の引き上げは、低所得者の負担を重くし、医療・介護サービスから排除することになる。そもそも日本の社会保障給付費の対GDP比は、2006年度で17.5%と、国際的には米国の15.2%と並んでいちじるしく低い水準にある(イギリス22.4%、ドイツ28.8%、スウェーデン29.5%、2001年)。高所得者の年金給付の削減などは必要だとしても、社会保障給付費の削減は、人びとの不安を増大させるだけである。

 したがって、社会保障給付費の増大に見合う財源を新しい方法で調達するという方策が採られる必要がある。これには、(1)あくまでも増税を避け、行政のムダをなくして歳出削減を進める、(2)社会保険料を段階的に引き上げる、(3)増税する、という方法がありうる。

 しかし、社会保険料の引き上げという選択肢は、すでに社会保険料(定額部分がある)の負担が低所得者に重くのしかかり、国民年金や国民健康保険の保険料を支払えない人が急増している現状からすれば、困難である。

 増税に反対し、行政のスリム化によって財源を浮かせ社会保障の拡充に回すべきだという主張は、左右の違いを越えて声高に叫ばれている。民主党政権は当初、事業仕分けによって税のムダ使いを根絶し、9.1兆円の財源を調達することを目論んだ。しかし、実際に捻出できた財源は、1兆円にも満たなかった。また、最大のムダである軍事費(4.8兆円、2010年度)はなくさなければならないが、それによって膨らむ一方の社会保障の財源を確保できるわけではない。

 そこで、歳出削減の切り札として、国と地方の公務員の削減と給与のカットが持ち出される。しかし、公務員数、とくに地方公務員の削減は、住民に対する行政サービスの低下を招きかねない。日本の公務員数(国と地方)は人口1000人当たり32.0人(2008年)と、ドイツの54.6人(2007年)、イギリスの77.3人(同)、米国の78.2人(同)、フランスの88.8人(同)に比べてひじょうに少ない。日本は、すでに「小さな政府」になっているのだ。地方自治体の財政難を背景にして公務員の削減が行なわれてきたが、必要な住民サービスを確保するために低賃金の非正規公務員が大量に雇われるという事態(「官製ワーキングプア」の増大)が起こっている。正職員の給与を下げて非正規職員の賃金引き上げに回す分かち合いが行なわれるべきだが、公務員数は削減されてはならない。

 したがって、残された選択肢は、増税しかない。新自由主義の主張する「減税による経済成長」路線とも、経済成長を前提にした「増税反対、福祉拡大」の願望とも訣別すべき時である。税をめぐる争いの軸は、増税か否かではなく、どのような増税なのか、誰が税を負担するべきか、という問題に移っているのだ。

◆まず富裕層とグローバル企業への課税強化を――消費増税は最後だ

 増税といえば消費増税という常識がまかり通っている。野田政権の「社会保障と税の一体改革」も、この常識に乗っかって消費税を2015年までに10%に引き上げるという方針を打ち出している。しかし、まず「増税イコール消費増税」という発想の枠組みを取っ払わねばならない。

 消費税は、1%の税率引き上げで約2.5兆円の増収になる。景気変動や経済成長率にかかわりなく税収が得られる安定性、消費する人には誰にでも課税できるという課税ベースの広さ、現役世代だけではなく高齢者も税を負担するという世代間の公平性といった長所をもっている。政府、とくに財務省にとっては飛びつきたくなる税である。

 しかし、消費税の最大の欠陥は、いうまでもなく低所得者には負担がより重くなるという逆進性である。三菱総研の試算によれば、年収759万円を越える人の消費税負担額は17万円と、年収257万円の人の負担額6万円よりも多いが、所得に占める消費税の負担率は前者が1.5%であるのに対して、後者のそれは3.5%と重くなる。

 日本の税制の最大の問題点は、税による所得再分配効果がいちじるしく弱く、先進国のなかで最低であるということだ。このことは、政府自身が『経済財政白書』2009年版で認めている。税が所得格差(所得分配の不平等)を是正し、社会的公正を実現するという機能を果たしていないのである。そこへ、逆進性をもつ消費税率の引き上げを持ち込めば、社会的不平等をいっそう拡大することになる。

 税収を増やして社会保障の財源を確保すると同時に格差を是正するためには、何よりも高い所得を得たり多額の資産を保有する個人、巨額の利益を稼いでいるグローバル企業やメガ銀行に対する課税を強化しなければならない。金持ちに税を払わせろ! これは、「ウォール街を占拠せよ」の運動が象徴する世界の民衆の正義である。

 したがって、求められているのは、所得税の累進性を強化する(最高税率の引き上げ)、法人税率を引き下げず課税ベースを拡大する(租税特別措置の撤廃など)、証券優遇税制をただちに廃止する、資産課税や相続税を強化するといった税制改革である。さらに、法人税の国際的な引き下げ競争に規制をかけたり、金融取引税や通貨取引税を導入するといったグローバル・タックスの実行も、緊急の課題である。

 ところが、11月30日に成立した今年度の税制改正法は、法案に盛り込まれていた高所得者の給与所得控除の上限の設定、相続税の強化(最高税率の基礎控除額の引き下げ、最高税率の引き上げ)といったささやかな格差是正措置さえも、自民党の反対で削除し、法人税を5%引き下げることだけを定めるという、ひどいものになった。また、民主党税調の藤井会長は、所得税の最高税率の引き上げを見送る意向を表明している(11月30日の日経新聞のインタビュー)。

 高所得者やグローバル企業への課税を強化した上で、なお社会保障の財源が不足することが予想される。その場合には、消費税率を引き上げる必要が生じる。そして、消費増税には、逆進性を解消する措置の導入が前提条件となる。具体的には、食料品や生活必需品に対する軽率減税、あるいは給付付き税額控除(低所得者には現金が還付される)を導入することである。

 消費増税は先にあってはならない。それは、最後の手段なのである。

※なお、筆者の考え方については、「増税は悪か――『公正な高負担・高福祉社会』」『グローカル』2011年8月1日、9月1日号を参照してください。
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